第64話 自衛隊2、ダンジョンアタック7
[まえがき]
現行の日本の法律上、政府その他の行政は避難『命令』を出せませんが、自衛隊の防衛出動の絡みもあり第61話ではあえて「避難命令」としています。
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第3ピラミッドに侵入した自衛隊員たちは増援を得た後、交代で仮眠をとり、偵察のため6人からなる分隊をH1-1洞窟、H2洞窟、H3洞窟に送った。もちろん各偵察分隊に先行させ小隊本部から偵察用ドローンを飛ばしている。
H1-0洞窟の先には偵察第2分隊が向かったが、途中無線通信が途切れたため、その時点で撤退を開始した。撤退途上、H1-1洞窟への分岐点で半分溶解した無線中継器を発見した。中継器を新たに設置し、周囲一帯を調査したところ本部方向に向けて移動中のスライムを発見した。
スライムは真ん中の膨らんだところの高さで30センチ、全体は直径1メートルほどに広がってゆっくり小隊本部のある洞窟に向かっていた。
分隊はスライムに対し小銃で射撃を試みたが、小銃弾はそのまま貫通してしまいスライムに対して有効な打撃を与えることはできなかった。
これに対し、分隊長は部下の隊員3名にMK3手榴弾(注1)の同時投擲を命じた。
「投擲用意! ピン抜け! 投げッ!!」
3発同時に投げられた手榴弾はあやまたずスライムに命中し、そこで同時に爆発しスライムを粉みじんに吹き飛ばしてしまった。
「死骸は回収できなかったが、止むを得まい」
その後第2分隊は小隊本部の置かれた空洞まで撤退を完了させている。
小隊本部では、分岐を残しての進出は中継器の破壊と挟み撃ちの危険があると判断し、第2分隊以降発出させた分隊に対して、分岐まで進出後撤退するよう指示を出した。
午前2時30分までに各分隊は小隊本部の置かれた空洞から最初の分岐まで進出し撤退を果たしており、午前3時までにはH6洞窟まで探索を終了した。その間各所で戦闘が発生していたが、自衛官に負傷者はなく、殺傷した生物はスライムを除き全て回収している。
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こちらは岩永善次郎。
俺は昨夜も日課の金錬成を行いぐっすり眠り、今朝もすでに日課のポーション作りも終えて子どもたちを配達に送り出した後、ヘルメットと手袋を残して戦闘服への着替えも済ませている。今は居間のソファーに座って自室で
昨日はダンションの中で昼食をとったが、考えてみれば転移で好きなところに時間をかけずに飛んでいける以上、どこで昼食をとっても変わらないので、今日は屋敷に戻って昼食をとることにした。
5分ほど待っていたら、華ちゃんが居間に下りてきたので、俺もヘルメットをかぶり手袋を着けた。
「時間が経ったら、また部屋の中が元に戻っているかもしれないから、今日は最初の出入り口の部屋に飛んでみるか」
「そんなことがあるんですか?」
「俺の
それじゃあ、シュッパーツ!」
華ちゃんが俺の手のひらを握ったところで、俺は転移を発動した。行き先はダンジョンの出口のある最初の部屋だ。
『最初の部屋』で華ちゃんがまずライトの魔法をかけて、引き続きデテクトなんとかの魔法をかけた。
スケルトンキーが入っていた壁のくぼみはそのままだったし、華ちゃんがデテクト何とかをかけてもどこも赤く点滅しなかった。
「どうやら、時間が経てば復活するというのは間違いだったようだな。
それでも、デテクトなんちゃらだけはしっかりかけていこう」
「はい!」
扉を開けて、通路に出たところで、再度華ちゃんがデテクトなんちゃらをかけたところ、通路には、2つ目の扉があるところまで赤い点滅はなかったが、その先には前回と同じく赤い点滅が見えた。
「前回と変わったところは無いようだな。
そう言えば、あの二人の女子高生たちはいつからこのダンジョンに潜るのかな?」
「はっきりとは分かりませんが、神殿の私有地内では訓練と言っても限度があるでしょうから、もうすぐなんじゃないでしょうか」
「そうか。そうしたらそのうち鉢合わせするかもな」
俺はそう言って華ちゃんの顔を見たら、複雑な顔をした。そりゃあ、会いたくはないよな。
まず、一番手前の部屋の扉を開けて中を覗いたところ何もなかった。
「最初に蜘蛛を斃した部屋だけど変わったところはないな。
これなら、次の部屋の確認は不要だろう」
そう言ったものの階段部屋に続く次の部屋も何も変化がないことを確認した。
そこから先は華ちゃんが赤い点滅を一つ一つ潰していった。
次の扉の赤い点滅を華ちゃんがディスアームトラップで解除したので、俺は如意棒を左手に持って、右手で扉を開けたところ部屋の真ん中に宝箱があった。
華ちゃんが「ディテクトアノマリー!」と言ったら、宝箱が赤く点滅した。部屋の中を見回したが他に異常を示す赤い点滅はなかった。
いつもなら、ここで俺が如意棒で宝箱を軽く叩いて様子を見た後、華ちゃんがデテクトトラップ、デスアームトラップで罠を解除して俺がスケルトンキーを使って宝箱を開けるのだが、今回は華ちゃんが試したいことがあると言っていたので任せることにした。
「ディテクトライフ!」
それまで赤く点滅していた宝箱が今度は緑色に点滅し始めた。ついでに華ちゃんまで緑色に点滅し始めた。気づけば俺まで緑色に点滅している。
「岩永さん、その宝箱は生き物です」
『デテクトライフ』か。知らぬ間に、生き物を見つける魔法を作ってたんだな。ヤルじゃないか。
宝箱の形をした生き物となるとミミック以外には考えられない。
俺は如意棒を両手で振りかぶって宝箱に振り下ろした。
如意棒は
ミミックの死骸はアイテムボックスに収納しておいた。
「デテクトライフ、使えるじゃないか。
ところで、俺も華ちゃんも生き物ということは分かっているから、この緑の点滅を消してくれないかな?」
「ごめんなさい。消し方まではちょっと」
そういうこともあるよな。一生このままだと大問題だが、長くても半日で止まるだろう。
「それは仕方ないな。放っておけばそのうち元に戻るんだろ?」
「そうだと思いますが、なにぶん初めての魔術だったので確証はありません」
「そ、そうだよな。早めに元に戻ることを祈っておこう」
余裕の表情を作ったつもりで、そうはいったものの少しだけ不安になった。そう言えば、こういったことにも俺のヒールポーション
注1:MK3手榴弾
MK3は、M67のような破片手榴弾(防御手榴弾)ではなく、攻撃手榴弾として設計されている。すなわち、TNT爆薬の爆発により発生した衝撃波によって敵兵の無力化(殺傷)もしくは制圧を狙った設計になっている。金属片を広範囲にばら撒く破片手榴弾よりも危害半径が小さく、接近戦でも友軍を巻き込む危険性が低い。Wikiより。
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