第65話 楽園1、緑の点滅(ブリンク)


 ダンジョンの第2層(仮)が単調かつあまりにも広大だったため、ダンジョンの第1層を改めて探索することにした。第1層には別の階層への階段があるのではないかとの思惑もある。


 今回初めて入った部屋の中で、華ちゃんのデテクトライフという魔法のお陰で、部屋の中にあった宝箱が、ミミックが擬態した宝箱だということが分かり簡単にミミックを斃すことができた。


 そこは良かったのだが、デテクトライフの効果が俺と華ちゃんにも現れ二人揃って緑色に絶賛点滅ブリンク中だ。黒ずくめの出で立ちに妙に光を反射する銀色のヘルメット。


 不思議なもので露出部分かおだけでなく、防具からも緑の光は発している。特撮ヒーローものはあまり見ていないのではっきりとは言えないが、俺達みたいに全身が点滅する点滅ヒーローはあまりいないのではなかろうか。


「ここは、ミミックがいただけだったから、次にいこう」


 俺たちはその部屋をでて通路に戻り、少し先に進んで、いつもの手順をこなした後、次の部屋に入った。


 こんどの部屋はこれまでの部屋に比べて結構広い正方形の部屋で、入り口の反対側にこれまでと違って頑丈そうな金属製の扉が付いていた。


「ディテクトアノマリー!」


 俺の後から華ちゃんが魔法をかけたところ、床の上に9箇所、3×3の形で規則正しく並んだ赤い点滅が現れた。


 一番近い赤い点滅に近づいて、華ちゃんがアイデンティファイトラップをかけたが、どうもトラップではなかったようだ。そのあとノックを唱えたら、赤く点滅している床の部分がスライドして、中から1から9までの数字が書かれた3×3のパネルが現れた。もちろんここに書かれている数字はいわゆるアラビア数字ではないはずだが、俺の脳内で勝手に変換されてアラビア数字に見えているのだと思う。


「なんでしょう?」


「なんだろうな? ボタンのようだから試しに押してみよう。なにが起こるかわからないから、華ちゃんは扉の近くまで下がっていてくれ。如意棒で押してみる」


 華ちゃんが下がったのを確認して、如意棒でまず1を押してみたがなにも起きなかった。


  X X X           X X X

= X X X +  =>  = 1⃣ X X +

  X X X           X X X


=:通路からの出入り口

+:金属の扉

X:赤い点滅


「あれ?

 じゃあ、その先を見てみるか」


「はい。アイデンティファイトラップ。罠はありません。

 それじゃあ、ノック!」


 華ちゃんがその先で赤く点滅する床にノックを唱えたら、さきほど同様その箇所がスライドして、同じように中から1から9までの数字が書かれた3×3のパネルが現れた。


「もしかして、残りの赤い点滅も全部これと同じかもしれないぞ」


「先に全部開けてみましょう」


 ……。


 結局赤く点滅していた9箇所全部の床から1から9までの数字が書かれた3×3のパネルが現れた。


「これって、数字を合わせると、向こうの扉が開くのかも?」


「先にノックで扉が開くか試してみないか?」


「それもそうですね。

 ノック!」


 金属製の扉は開く様子はなかった。もちろんスケルトンキーを差し込むような鍵穴もなかった。その気になれば俺の転移で向こう側に飛んでいけるはずだが、向こう側がどうなっているのか全くイメージできなかったので、転移はできそうになかった。転移できたとしても出現した場所が罠の真上かもしれないし、転移術LvMaxだからそういうことはないだろうが、まかり間違えれば「い・し・の・な・か・に・い・る」という可能性はゼロではない。転移の代わりに扉の金属を適当な大きさでアイテムボックスに収納しようと試してみたがこれもできなかった。


「やっぱり、その扉を開けるには数字合わせが必要なんだ。俺のラノベとゲーム知識けいけんから言って、こういうのは魔方陣だと思うんだよ。俺は魔方陣は苦手なんだよなー」


「ふふふ。岩永さんにも苦手なことがあったんですね。

 3×3とか5×5のような奇数×奇数の魔方陣には法則性があるので簡単に解けるんですよ。今回は3×3ですから、

 6、7、2

 1、5、9

 8、3、4」


 華ちゃんが数字を口にしながら数字を合わせていき、最後の4を合わせた。


「あれ? 全部数字が合っているけど、扉が開かないぞ」


 俺は何か変化がないものかと思って扉のところまでいったら、金属製の扉のちょうど真ん中に独特な鍵穴が一つ空いていた。どう見てもスケルトンキーの出番だ。


 俺がその鍵穴にスケルトンキーを差し込みゆっくり回すと、扉が音を立てながらゆっくり床の下に沈んでいった。そのまま放っておくとスケルトンキーが床にぶつかって折れてしまうので慌てて俺はスケルトンキーを鍵穴から引き抜いた。慌てなくても予備はアイテムボックスの中にあったのだがその時は忘れていた。


 扉が沈んだその先には真っ直ぐ続く通路が現れた。なんの正解かは分からないが、この通路は正解に違いない。華ちゃんの頭上で輝くライトの明かりと、通路自体の発光で見える範囲で、通路の壁には扉や分かれ道になるような分岐はなさそうだった。


「こいつは、すごいぞ!」


 扉の先に現れた通路に入る前にもちろん華ちゃんがデテクトなんちゃらを唱えた。俺のラノベとゲーム知識けいけんから言って、この通路には罠のたぐいはないはずだ。と、思っていたのだが、ちゃんとそこら中に赤い点滅が現れた。結局全部罠だったわけだが、それをいちいち華ちゃんが解除していった。



 そうやって通路を100メートルほど進んでいったら、だんだん通路の先のほうが明るくなり、そのまま進んでいって通路を抜けた先には大空洞があった。見上げても天井は見えなかったがどういったかげんか上から光が差していた。潜った地下の深さからは考えられない空洞の高さだ。それこそが不思議空間であるダンジョンのダンジョンたるゆえんだろう。


 入り口からここまでダンジョンは人工物だったが、通路を出た先に広がる大空洞は天然ものだ。赤や白や青、黄色といった花が咲き乱れた草木が地面から生えて、実をぶら下げている草木もみえる。鳥の鳴き声や羽ばたきも聞こえ、大空洞の向うの方から水が流れ落ちる音がかすかに聞こえてきていた。


「ここは楽園なのか?」


 地上の楽園はまやかしかもしれないが、この地中の楽園は本物だ。


「なんだか、ルソーの『夢』みたい」


 ルソーの『夢』? と思ったが、何年か前にルソーの幻想的な絵を見たことがあるような気がする。タイトルは忘れたが、そういった絵のひとつなのだろう。さっきの魔方陣といい、なにげに女子高生、華ちゃんは教養があるな。



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