第4話 襲撃


 宿屋から通りに出て、道行く人を鑑定していったところ、


 人物鑑定では、自分も含めて対象のスキルとそのレベルが分かるようだ。残念ながら他人を人物鑑定しても名まえと年齢、それに職業欄がなかったので、名まえと年齢は自分限定のようだ。少しだけ個人情報に配慮してるのかも?


 そうやって、鑑定を続けて分かったのは、一般人はほとんど誰もスキルなど持っていなかった。剣をぶら下げている人のうち十人に一人くらいは剣術:Lvレベル1を持ってはいたが、剣術:Lv2以上は見当たらなかった。Lv2でさえ相当希少なスキルのようだ。


 俺自身について言えば、実戦経験がないところだけは不安要素だが、杖術Lv3というのは、剣聖級と言われた剣術Lv3に相当する凄いスキルレベルかもしれない。


 敵がもし宿屋までやってきたとして、宿屋で立ち回るとすると、俺の武器は背丈ほどの棒なので、宿屋の中では取り回しが悪く圧倒的に不利なうえ宿屋にも迷惑をかけることになる。どこか人の迷惑にならない広い場所で迎え撃つほうがいいな。



 俺は人物鑑定を止めて、イメージトレーニングのため棒を振り回しておこうと、表通りから外れて人気ひとけはない裏道に入っていった。


 しばらくそのまま歩いていると前から二人組の男が向かってきた。人物鑑定をしてみると、一人は剣術:Lv2もう一人が剣術Lv1、黒い革製のツナギのようなものを着たいかにもといった風情だ。


「ゼンジロウ・イワナガだな。おとなしく我々についてきてもらおう」


 剣術Lv2が重々しくそう言った。


 俺の名前を知っているのは宿屋のおばちゃんと、俺が逃げ出した施設の連中だけだ。男がどこからやってきたか、答えは明白だな。


 俺の背後にもう二人いるようだ。気配でわかる。今まで気配など意識することは無かったが、さすが杖術Lv3だ。


「人違いじゃないか? 俺の名前はソンゴクウだ!」


 そう言いながら、耳から取り出したようビジュアルに工夫を凝らしてアイテムボックスの中から木の棒をゆっくり取り出した。せっかくだから、これからこの木の棒のことは如意棒と呼ぼう。


 俺がどこからともなくみみから武器を取り出して構えたものだから、一気に剣術Lv2の殺気が膨れ上がった。俺は殺気すらも感じることができるようになったらしい。


「聞きたいことをしゃべったら、始末することになる。かまわん。死なぬ程度に痛めつけてやれ」


 剣術Lv2が時代劇の悪役もかくやと言わんばかりに、子分をけしかける。


 思わず口元に笑いが漏れてしまった。この余裕は杖術Lv3であるからこそなのだろう。


 親分の指示通り最初の子分が剣を抜き放ち上段から俺に切りかかってきた。それと同時に後ろの二人も隙あらばと詰め寄ってきている。死なぬ程度と言われていたハズだが、どう見ても俺を殺しにきている。


 それはさておき、目の前の子分の体の動き、剣の動きが遅い。すごく遅く感じる。


 俺は余裕を持って、剣を振り下ろしながら俺に突っ込んできた男の手首に如意棒の先を軽く打ち当ててやった。


 俺の軽い一撃だけで男は剣を取り落としてしまった。同時に少し違和感のある感触が如意棒を持つ手に伝わってきた。


 男の片手の手首があらぬ方向を向いているところを見るとどうやら折れてるようだ。さきほどのアノ感触が骨を折った手ごたえか。勉強になった。


 後ろの二人も剣を抜き、同時に振りかぶってきたので、後ろ手に棒の後端を二度ほど突き入れてやった。突きは簡単に後ろの二人の胸元にヒットした。やや強めの突きがカウンター気味に決まったので、ダメージも大きかったようだ。二人ともその場に仰向けに倒れて動かなくなってしまった。


 今の俺の一連の動きを見て不利を悟ればいいものを、今度はLv2の男が「ぐぬぬ!」と、言いながら腰を落として俺の方に向かって大きく一歩踏み込み、左手で鞘を斜めに持って、右手で下から切りあげるように剣を引き抜いてきた。


 片手で引き抜かれた長剣は結構な間合いを持つが、所詮は剣の間合い。より長い間合いを持つLv3杖術にスキはない。しかも、なんとなく相手の間合いが分かってしまう。引くまでもなく体を反らしただけで男の初撃をかわし、上から思い切り如意棒を振り下ろした。


 バゴーン!


 人間が発してはならない音が男の頭から響いたかと思ったら、同時に如意棒が男の頭を潰して鼻のあたりまでめり込んでしまった。それだけの打撃を加えたのにもかかわらず、俺の如意棒は健在だ。なにげに丈夫だな。男の頭にはまった如意棒を引き抜いたら、男は道に前のめりに倒れた。男の後ろに立っていた子分は、それを見て戦意を喪失したのか、道に取り落とした自分の剣を放ったまま走り去っていった。


 逃げていった男がどういったご注進に及ぶかわからないが、少なくとも俺が只者ただものではないことは伝わるだろう。



 後ろで道に倒れていた二人に近づいてしゃがんで様子を見たところ、二人とも息をしていない。首元に手を当てて脈を見たが鼓動もしていなかった。時代劇のように舌でも噛んで死んでしまったのか? 死ぬ理由がないものそんなことをするわけはないか。


 どうも、先ほどカウンター気味に決まった俺の突きの衝撃で心臓が止まったようだ。AEDでもあれば蘇生可能かもしれないが、あいにくそんなものはないし、あったとしても使う義理はない。


 なにかの役に立つかもしれないので、こいつらの武器は回収しておこう。


 4人分の剣をアイテムボックスに回収しておいた。ついでに汚れてしまった如意棒の先も死体の衣服にこすりつけて拭いておいた。


 死体はどうしようか? ここに置いておくのは何かまずそうだから、アイテムボックスに収納しておくしかないな。頭が妙な具合に変形してしてしまった男を収納するのは少し嫌だったが仕方がない。


 こうして俺は、初めての対人戦ひとごろしを乗り切ったわけである。




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