第5話 錬金工房。今度は俺のターン


 やられたら、やり返す。なん倍返しが妥当かはわからないけれど、とりあえずやり返してやろう。少なくとも俺にこれ以上ちょっかいを出すな、ちょっかいを出せばただでは済まないということは伝えないとな。



 さて、どうやって仕返しするか?


 爆弾をさっきの死体に詰め込んで、あの敷地の中に投げ込んでやるか。爆弾、爆弾、爆薬、爆薬、……。


『ピロロン!』


『1スキルポイントを使って錬金術Lv1を習得しますか? はい、いいえ』


 ここでピロロンが鳴ったということは錬金術で爆弾だか爆薬が作れるということだろう。当然『はい』を選択。


『1スキルポイントを消費して錬金術Lv1を習得しました。残スキルポイントは136です』


『新たに職業:錬金術師が選択できます』


『0.今は選択しない。

1.武道家(杖術)

2.錬金術師

0~2の番号でお選びください』


 職業、錬金術師は鉄板だろう。俺のゲーム知識がそう言っている。ということで、2をぽちっとな。


『職業:錬金術師を選択したため、関連する能力が50パーセント上昇しました』


 どういった能力が上がったのかはわからないが、きっとすごいことになっていると思おう。


『2スキルポイントを使って錬金術Lv2を習得しますか? はい、いいえ』


『はい』


『2スキルポイントを消費して錬金術Lv2を習得しました。残スキルポイントは134です』


 ……。


『10スキルポイントを使って錬金術LvMaxを習得しますか? はい、いいえ』


『はい』


『10スキルポイントを消費して錬金術LvMaxを習得しました。残スキルポイントは82です』


『錬金術がLvMaxとなりました。これにより、あらゆる錬金素材を意識するだけで錬成可能となりました』


『錬金術およびアイテムボックスがLvMaxのため、アイテムボックス内錬金工房が解放されました。

 錬金工房では、対象物の複製、錬金アイテムの作成が可能となります。

 複製する場合は、アイテムボックス内の複製ボックス内に対象物を入れてください。

 錬金アイテムは、その物の組成や錬金工程などが分かっていれば比較的簡単に錬金工房内で錬成できます。

 いずれの場合も、アイテムボックス内の素材ボックスに存在する材料および周囲の大気や水を素材として使用します。

 素材ボックス内、周囲の大気内に存在しない素材は錬金工房は術者の気力を消費して素材を錬成します。素材の不足が大きすぎる場合、術者の負担が高まりますのでご注意ください。

 また、錬金工房内での錬成作業は複製も含めて作業工程を自動で記憶しますので、一度作成した錬金アイテムはそのアイテムを意識するだけで工程を無視して作成可能となります』


 錬金術で作成可能なものは、一度作れば、あとはほぼ自動で作れるらしい。しかも素材は気力さえあれば何とでもなるということか。これはエライこっちゃ!


 俺自身に人物鑑定をかけたところ、今まで職業はなかったが、ちゃんと職業が表示された。他人の職業は分からなかったが自分の職業は分かるらしい。当たり前か。


 名前:ゼンジロウ・イワナガ

 年齢:27歳

 職業:錬金術師

 スキル:錬金術:LvMax、アイテムボックス:LvMax、杖術:Lv3、人物鑑定



 とりあえず、錬金工房で液体爆薬ニトログリセリンでも作ってみるか。


 ニトログリセリンは、濃硫酸にグリセリンを入れて混ぜ混ぜして、その後、硝酸をゆっくり入れながら混ぜれば良かったような気がする。濃硫酸についてはうろ覚えだが、まあ、気持ちだけ合ってれば錬金工房で何とかなるんじゃないか?


 まず、濃硫酸。たしか水素と酸素と硫黄がもとになっていたはずだ。


 これを作った時、少しだけ疲れた感じがした。俺の周囲には硫黄を含む気体などないだろうから俺の気力が硫黄の素になったのだろう。


 グリセリンと硝酸は、炭素、水素、窒素、酸素の化合物だから、空気だけで錬成可能なはずなので、素材という意味では既にある。グリセリン錬成! 硝酸錬成!


 最終的には無色透明なグリセリンと同じく無色透明な液体が2種類錬金工房内ででき上った。グリセリンはそれなりの粘り気、濃硫酸もサラダ油程度の粘り気があるはずだが錬金工房内では分からなかった。硝酸についてもそこは不明だ。


『ニトログリセリン:錬成!』


 いや、声には出さんけど。出したらイタイでしょ。


 材料が揃ったところで、混ぜ混ぜを意識したら、材料が錬金工房の中で混ざり合っていった。


 瓶の素材になるような粘土の持ち合わせはないが、神殿から脱出した時壁を切り取った物が残っている。そいつを素材ボックスに移動して瓶の材料にすることにした。


 出来てしまいました。瓶入りニトログリセリン(仮)。1リッターくらいあるのか。錬成過程は記録されているはずなので、これからはいつでも『ニトログリセリン』が錬成できるはずだ。


 でき上った瓶をアイテムボックスから取り出して、蓋を開けると、無色透明のドロッとした液体が入っていた。これがニトログリセリン(仮)か。確認できたので、あらためてアイテムボックスに収納しておいた。


 今の錬金工房での作業で特に俺の体に異常はないようだ。どっと体が疲れるとかなにがしかの反動があるかと思ったが、あの程度ではそこまでの反動は無いようだ。


 これから何かを大量に作るようなことがあれば一気に気力がなくなってしまう可能性もあるので、そういった場合にはある程度段階を踏んで進めていくに越したことはない。


『ニトログリセリン:錬成!』


『ニトログリセリン:錬成!』


 ニトログリセリン錬成で硫酸は消費されなかったようで、追加のニトログリセリン錬成で疲れを感じることはなかった。


 全部で三個の瓶入りニトログリセリン(仮)ができた。アイテムボックスの中で爆発するなよ。それはそうと、結局3回ニトログリセリンを同じ操作で錬成したのだが、硫酸だけは残ってしまった。これはこれで役に立つだろう。それに反して適当に作ったはずのグリセリンと硝酸はピッタリ消費されているところは錬金工房のご利益りやくなのだろう。


 反撃準備ができたので、少しだけ休憩した後、俺が脱出時に橋を架けた堀の場所にいってみた。


 俺が橋を作るために空けた塀の孔は木の板で応急処置をして塞がれていた。


 塀の向こうは見渡せなかったが、俺にはなんとなく中の様子がわかった。塀の向こうには今のところ人はいないようだ。


 俺は三人分の死体をアイテムボックスの中から敷地の中に取り出してやった。見えていなくても自分から離れた位置にアイテムボックス内のものを取り出せることはなんとなく分かっていた。先ほどのように直接は見えない場所の様子がなんとなくわかるのも、俺のスキルのご利益なのだろうが、どのスキルのご利益なのかははっきりとは分からない。スキル同士でいわゆる相乗効果シナジーが働いたのかもしれない。


 アイテムボックスから3人の死体を出し入れして死体の向きを仰向けになるように調節し、ニトログリセリン(仮)の瓶を死体の胸の上に1つずつ置いてやった。


 これで死体を動かした拍子に瓶が落っこちたりして、ニトログリセリン(仮)に何らかの衝撃が走ればドカンといくはず。


 相手がバカじゃないなら『俺にちょっかいを出すな』っていうメッセージが相手に届くはずだ。


 これで分からないようなら、もっと派手にやることになるだけだ。


 いかん、どうも思考が好戦的になってる。異世界に飛ばされた影響か、もとから好戦的だったのか。どうでも良いか。


 せっかくだからこれからは好きに生きていくぞ! 今までも自由に生きてきたから、今まで以上に好きに生きてやると言った方が正確だな。



 午後3時の鐘が鳴ってだいぶ経ったし、陽も傾いてきたので、そろそろいい時間だ。宿に戻って夕飯にしよう。



 ところで、俺のアイテムボックスの出し入れ範囲はどのくらいあるんだろう。感覚的にはかなり遠くの物を収納できるし、かなり遠くに取り出すことができるんだが。


 宿に戻る途中、道端の小石を収納したり、出したりしてアイテムボックスの効果範囲を検証してみたところ、大まかだが、出し入れ共に、俺を中心に100メートルくらいの範囲が対象となることが分かった。距離だけが問題で、直接見えているとか見えていないとか関係ないのはさっきの死体で確かめている。


 ということは、なんだって出来ちゃうんじゃないか?


 その気になりさえすれば、半径100メートル以内の物はみんな俺の物と見なせるわけだ。例えば、今俺の前を歩いているおっさんの胸ポケットには財布が入っているのがなんとなくわかるし、その財布の中に、銀貨四枚と大銅貨三枚、銅貨六枚があることが感じられる。


 その気になれば、その金をアイテムボックスに収納できるわけだ。いや、やらんけど。


 いろいろ試しながらも、宿に戻った俺は、午後6時の鐘を聞いてすぐに、食堂にいき夕飯を食べた。夕飯はご想像の通りおいしいものではなかった。


 夕飯を食べ終わって部屋に戻り、ベッドに横になる前に鎧戸を閉めようとしたら、遠くの方から「ドーン」という音がした。見ると夕暮れの空に灰色のキノコ雲が湧き上がっていた。俺が逃げ出した建物の方角だ。ご愁傷さま。ニトログリセリンはいわゆる高性能爆薬ではなかったはずだが思った以上に威力があったようだ。



 なんだか一仕事終えた気になった俺は、あまり早く寝ると夜中に目を覚ましそうだったが、眠気には勝てなかった。



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