第59話 第2層1、深いぞ!


 ダンジョンの下層に続く階段を二人で下りていった。俺は華ちゃんの2歩前を歩いている。


 階段を下りて直ぐに華ちゃんがライトを唱えてくれたので、カンテラは仕舞っておいた。


 この階段もこれまでのダンジョンと同様しっかりした石で組まれている。幅は4メートルほどあるので余裕はあるが、階段とややアーチ状になった天井との間隔は高いところで3メートルちょっとあるものの、階段の傾斜に合わせて結構急にくだっているので、高さ的にはそれほど余裕はない。


「先が見えないけれど、この階段かなり深そうだな」


 まさか瘴気ではないと思うが、階段の底の方はモヤがかかっているのか全く見通せない。


「そうですね。いま40段ですから、100段くらいあるのかな? もっとあるかも?」


「ここは歩くしかないが、帰りは転移でなんとでもなるから頑張っていこう」


「はい」


 そこから感覚的に100段くらい階段を下りたのだが依然階段の底は見えない。すでに最初見たモヤの中にどっぷりつかっているはずだが体調に異常はないようなので、モヤは瘴気などではなくただの演出だと思っておこう。


「長いな」


「いま、150段です」


「下り階段でも結構疲れるな。

 華ちゃん、スタミナポーションだ」


 華ちゃんにスタミナポーションを1本渡して俺もスタミナポーションを1本飲んだ。


「これを飲めばいいんですね?」


「疲れが取れて元気が出るはずだ」


「ゴクン、ゴクン。

 あれっ! ほんとだ、足の疲れがなくなった。

 これがスタミナポーションなんですね。以前頂いたヒールポーションのときは何も感じませんでしたが、なんとなくスタミナの魔術が使えそうな気がしてきました」


「ヒールポーションのときは体に異常がなかったから効果を認識できなかっただろう。今回は疲れていたから効果が認識できて、魔法もイメージしやすくなったんだろうな」


「そうかも知れません」


「もう100段も階段が続くようなら俺に華ちゃんのスタミナ魔法をかけてくれ」


「はい」


 ……。


 スタミナポーションを飲んでから100段近く下りたところで、華ちゃんにスタミナ魔法をかけてもらった。それでなんとかなったが、そうでなかったらかなりきつい。誰だ? このダンジョンは親切設計と言ったのは?


 振り返って下から階段を見上げたらやはりかすんでいた。何なんだろうな? ダンジョンの中は遠くを簡単に見通せないようになっているのかもしれない。その方が、モンスターとのエンカウンター時の演出にバリエーションが出るものな。



 ようやく階段の底に下り立った時、華ちゃんに階段の段数を聞いたら300段あったそうだ。階段を下りながら華ちゃんはときどきデテクトなんちゃらを唱えていたが、唱えながらよく数えられたものだ。


 階段途中では赤い点滅は一度も現れなかったから、階段は総じて安全地帯で罠などないのかもしれない。とはいえ今後階段に出くわすことがあっても用心するに越したことはない。


 階段がちょうど300段あったということは、このダンジョンを作った何者かは、10進法を使っていたと考えていいだろう。もしそれが手足のある生物だったら指が10本ある人間に似ている可能性が高い。などと、意味があるのかないのか、おそらくまったく無意味な自然人類学的考察をしてしまった。



 階段を降りた先の第2層だが、階段降り口の部屋同様の石室だった。降り口の石室はかなり広かったが、この部屋も同じくらいの広さだった。


 石室の床を踏む前に、華ちゃんがデテクトなんちゃらを階段から部屋に向かってかけたが、部屋の中には赤い点滅は現れなかった。そのまま俺と華ちゃんは石室の床を踏んだが、ライトの光は消えることなく華ちゃんの頭上で輝いていた。



 この石室と上の層の石室との違いは、今度の石室では前後左右の4つの壁に扉が2つずつ、全部で8つの扉が付いていたことだ。


「どの扉を開けて進むにしても、ちゃんとマッピングしないとそのうち自分がどこにいるのか分からなくなるな」


――ゲームだと自動マッピング機能が標準だし、部屋の大きさもだいたい決まっているから簡単だけど、実際のダンジョンだと部屋の大きさや通路の幅や長さが升目通りキッチリ決まっていないから難儀だぞ。


「簡単にマッピングする方法が欲しいけど、華ちゃん何かいい考えはないかい?」


「マッピングというのは地図を描くことですよね」


「うん」


「地図となると、地道に測量するしかないと思います。気分は伊能忠敬かな」


 確かにそうなのだが、異世界で伊能忠敬の名まえがでてくるとは思わなかった。まじめであることは華ちゃんの美徳だが、俺とすれば頭を使って楽をしたいんだよな。


 手っ取り早く、マップを作れるスキルとかないかね?


『ピロロン!』


 おーと、ここでピロロンがきた!


 目の前に現れた青い半透明ボードには、


『1スキルポイントを使って、オートマッピングを習得しますか? はい、いいえ?』


 とあった。


 ダンジョンアタックをする以上このスキルはとってたほうが良いよな。


 ということで『はい』を選択。


『1スキルポイントを消費してオートマッピングを習得しました。残スキルポイントは24です』


 念のため自分自身を人物鑑定したところ、


名前:ゼンジロウ・イワナガ

年齢:27歳

職業:錬金術師、転移術師

スキル:錬金術:LvMax、アイテムボックス:LvMax、転移術LvMax、杖術:Lv3、人物鑑定、第2職業選択、オートマッピング


 ちゃんとオートマッピングスキルがあった。


 おそらくスキルを獲得して以降のマップが自動的に作成されるのだろう。作成されるのはいいが、今のところどうやってその地図を見るのかはわからない。まっ、そのうち何とかなるだろう。


「華ちゃん、マッピングは何とかなりそうだ」


「?」


「オートマッピングっていうスキルをとったから、何とかなると思う。スキルの使い方は今のところ分からないんだが、マズっても好きなところに転移で戻れるからどうってことはない」


 華ちゃんが不思議そうな顔をしていたが、俺個人のことなのでややこしい説明をしても仕方がない。


「とりあえず正面右側の扉を開けてみよう」


 俺は念のため、階段を下りる間仕舞っていた如意棒をアイテムボックスから取り出して正面の扉に手をかけた。


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