第58話 ダンジョンアタック6、最初の階段
入り口から数えて4つ目の部屋で蜘蛛を斃した後、蜘蛛の死骸を収納した俺は、引き続き、目につく範囲で蜘蛛の糸をアイテムボックスに収納してやった。
そしたら、蜘蛛の糸が分厚く絡まっていた部屋の隅から妙なものが出てきた。
「人間の死体じゃないか?」
どう見ても人間の死体が床に転がっていた。
華ちゃんと二人して近づいて観察した所、やはりそいつは人の死骸で、黒っぽく変色した手にはメイスを握っていた。ヘルメットから露出した顔を見たら大口を開けて眼球はなく黒くはあるが干からびてミイラのように見えた。
「着ている鎧は変色していますが神殿兵の防具に見えます」
ミイラを間近に観察した華ちゃんは特に怖がる様子はなかった。
「蜘蛛に捕まってたということは、中身を溶かされて食べられた可能性が高いな。
こうなってしまうと、いつ死んだのか判断できないが、神殿兵たちもこの中に入ってきたってことだよな。
それで手に負えなくて、俺達の世界から人間を拉致してダンジョンを探索させようとしたんだろう」
「わたしもそう思います。
このダンジョンの最下層にはアーティファクトが眠っていてそれを手に入れればわたしたちは元の世界に戻れると聞かされていたんですが、やっぱり嘘だったんでしょうね」
「だろうな。
普通の人間じゃ、最初の部屋を突破するだけでもまず無理だ。そんなダンジョンの最深部の情報があるって事自体おかしいものな」
「山田さんと田原さんは二人でこのダンジョンに挑むことになるんですが大丈夫でしょうか?」
「冷たい言い方だが、かなり厳しいんじゃないか。
それでも、みっちり訓練してこのダンジョンに臨めばなんとかなるかもしれないけどな。
いずれにせよ、あの二人のことは俺たちじゃどうしようもないことだ」
そうは言ったものの、俺がその気になれば神殿からあの二人を助け出すくらいたやすいが、そもそもあの二人が助け出されたいと思っているかも不明だ。
『おせっかいは
おっと、われながら面白いことわざを思いついてしまった。
「そうですね。
それで、この死体はどうします?」
「こんなもの持ち歩きたくはないから、放置だな。いちおうメイスだけはいただいておくか」
ミイラが着ていた革鎧はさすがに要らないが握っていたメイスは回収しておいた。
最初蜘蛛の糸ではっきりしなかったが、入り口正面の壁の赤い点滅は、入り口と同じくらいの大きさと形の赤い点滅だった。
「この先に隠し部屋がありそうだな」
「まずは、アイデンティファイトラップ!
どうしましょう?」
「壁のくぼみの時と同じ要領で、ノックはどうだ?」
「やってみます。ノック!」
華ちゃんの『ノック』の声と同時に今まで壁だった赤く点滅する部分が消えてなくなった。どういう仕組みなのかは見当付かないが、場所によってはこういう壁があるということだけは覚えておかなくてはいけない。
俺が新しくできた出入り口の近くまでいき、その先を覗いたところ、部屋があるということはわかったが、床や壁からの発光はないようで暗くてよく見えない。
「向こうにも部屋があるようだが暗くて見えない。華ちゃんこっちにきてくれ」
華ちゃんが俺の後ろに立ったので、向こうの様子がよく見えるようになった。
出入り口の先はいままであった部屋よりかなり広い部屋になっているようで、部屋の真ん中に下り階段が見えた。
意外とこのダンジョン、小さいのか? それとも、親切設計で入り口からこんな近いところに階段を作ってくれたのか? どっちでも良いがありがたい。
ここで、しくじっては元も子もないので、
「華ちゃん、念のため、デテクトなんとかで向こうの部屋を確認してみてくれ」
「はい。ディテクトアノマリー!」
部屋の外から見た感じ、どこにも赤い点滅はなかった。珍しい。
「階段を下りてみよう」
「この階の他の部屋はいいんですか?」と、華ちゃんから至極もっともな質問。
「もうこの階にはおそらく目ぼしいものはない」
ゲーマーならこの階をまずは踏破するべきだが、俺は単純に下の階層にいってみたかったので、そう言ったまでだ。
「そうなんですか?」
「俺の勘から言わせてもらえば、下の階層には重大な秘密が隠されている。この階の探索はそれからの方が有利に進むと見た。ということなので、いってみよう」
「はい」
自分で適当に言った言葉だったが、口から出したら本当にそんな気がし始めた。
階段を下りようと部屋の中に入って数歩進んだら辺りが真っ暗になった。振り返ると華ちゃんがちょうど部屋に入ったところでいままで辺りを照らしていたライトが消えて、向うの部屋のわずかな明かりで華ちゃんのシルエットが見えた。
そして、その代わりに華ちゃんの横の壁の一カ所が赤く点滅していた。
「ライト!」
華ちゃんが急いでライトを唱えたが一瞬だけ華ちゃんの頭上に明かりが灯るもののすぐに消えてしまった。
「華ちゃん、おそらくこの部屋はアンチマジックフィールドで覆われている」
厨二病的で若干、いやかなり赤面物のアンチマジックフィールドなる言葉を使ってしまった。
「アンチマジックフィールド?」華ちゃんが真顔でそう返したので、俺の方が赤面しそうになった。そこをぐっとこらえて、
「この部屋の中では魔法が使えなくなるんだ」
「そんな仕掛けが」
「だが、安心していいぞ。
華ちゃんの左脇の壁を見てみろ」
「あっ! なにかある」
華ちゃんも赤い点滅に気づいた。
「出っ張りになっているけど、スイッチかも知れませんね」
それこそアンチマジックフィールドをオン・オフするためのトグルボタンに違いない。
「罠じゃないと思うから、押していいと思うぞ」
「それじゃあ」
華ちゃんの口からはさすがに『ポチッとな』は出てこなかったが、華ちゃんが出っ張りを押したらカチッと音がした。これでアンチマジックフィールドは解除されたはずだ。
「華ちゃん、もう一度ライトを頼む」
「はい。ライト!」
今度はちゃんとライトの光が点いた。
「うまくいったな」
明かりも点いたことだし、階段を下りようとさみしくもないのに振り返ったら、階段が消えてなくなっていた。もちろん風は吹いていなかった。
「あれっ? 階段が消えた?
もしや、さっきのスイッチが原因なのか?
華ちゃん、明かりを灯したまま、いったんこの部屋から出てくれるか? 俺がスイッチを押してみる」
「はい」
華ちゃんが下がったところで、俺がスイッチを押した。カチッと音がしたがもちろん部屋から出ていた華ちゃんのライトは消えていない。
振り返ると、ちゃんと階段が現れた。思った通りだ。
ゲーマーの俺からすれば大した謎ではなかったが、面倒だ。
「華ちゃんのライト無しで真っ暗闇の中を進むことはできないからどうしようか?」
「電池で光るライトならどうでしょう?」
「その手があったな。電池とライトなら簡単に作れるはずだから、試してみよう」
頭の中で、電池式のカンテラらしきものを想像してみる。自動車が錬成できた以上、カンテラごときの錬成など簡単なはずだ。
想像したカンテラを錬金工房の中で錬成してみたところ、思った通り簡単に錬成できた。華ちゃんにも持たせたほうがいいので2つ作っておいた。
「電池式のカンテラを作ってみた」
俺はカンテラのスイッチを入れ、部屋に入って頭上のライトが消えた華ちゃんにもう一つのカンテラを渡した。
「じゃあ、階段を下りてみよう」
「まずはディテクトアノマリー」
階段の中は目に付く範囲でどこにも赤い点滅はなかった。そのかわり、階段の底もまるで見えなかった。
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