第29話 エンジン発電機顛末1


 今回、南の原野を探索したが、神殿で訓練を受けていたらしい女子高生3人組の勇者一行が野外訓練しているところに出くわした。神殿の私有地で神殿兵に見つかれば面倒なので早々に退散した結果、川も見つからなければ泉も見つからなかったので水の大量補給はできなかった。


 その代わり原野だけあってポーション瓶の原料の石はそれなりの量補給できた。これだけあれば半年はもつだろう。


 あの女子高生たち、あんな胡散臭い連中とつるんで、これからどうするつもりなのかねー?


 たいした手間でもないし、同郷のよしみで元の世界に帰りたいなら帰してやらないこともないのだが。


 神殿の連中の彼女たちに対する思惑は分からないが、いずれにせよ彼女たちを利用することだけは確かだ。彼女たちを日本に送り返してしまえば連中の計画はとん挫することになる。ざまぁみろなので、俺の方から積極的に行動してもいいかもしれない。


 しかし、当の本人たちはどういった考えを持っているのかわからないので、迂闊なことはできない。この世界にいれば文明の利器がないという意味で不自由かもしれないが、周りから勇者さまとかおだてられ、それなりにいい生活をしていいものを食べてれば、帰る気が失せてるってこともある。


 気には留めておいてやるが、その程度で十分か。




 神殿の私有地で女子高生たちを目にして2、3日経ち、発電機がアパートに届く日になった。


 午前中の配達と言っても10時以降だろう。と、思って高をくくっていると9時ごろ配達される可能性もわずかにあるので、俺は念のため9時にはアパートに戻って荷物の配達を待つことにした。



 アパートの中でなにもすることもなく、台所のテーブル付属の椅子に座ってスマホでニュースを見ていたら、10時過ぎにチャイムが鳴った。それと同時に部屋の外から、


「〇×運輸でーす!」と、声がした。


「はい!」


 返事をして、すぐにドアを開けた。


 ドアの横に置かれた発電機には、後ろ側にだけコロが付き、前には折りたたみ式だがリヤカーのようなハンドルがついている。配達員はそのハンドルを引いて発電機を転がしてきたようだ。重さは100キロはあるはずなので一人で運ぶのは大変だったろう。


「ここにハンコかサインをお願いします」と言われたので、配達員のボールペンを借りてサインしておいた。


「失礼しまーす」そう言って配達員は荷台を押して帰っていった。


 これで、ここでの用事は済んでしまったので、俺は人目がないことを確認して、発電機をアイテムボックスに収納し、部屋の戸締まりをしてニューワールドの屋敷に戻った。


 エンジン発電機を屋敷の中で動かすわけにはいかないので、屋敷の裏に回りそこに発電機をアイテムボックスから出しておいた。



 発電機の本体部分はビニールで包まれており、そのビニールの中から説明書一式と付属のケーブル、小型のエンジンオイル缶などの入った透明ビニール袋がでてきた。エンジンオイルをすっかり失念していたので、いったんアイテムボックスに収納して、コピーしておいた。これでいつでもエンジンオイルを作り出すことができる。


 説明書を軽く読んで、さっそく付属の缶からエンジンオイルを発電機に入れ、次にアイテムボックスから4リットル入りのガソリン缶を使ってタンクに入れてやった。2回それを繰り返したところで、直接ガソリンをアイテムボックスからタンクに出せばいいことに気づき、すぐに満杯にしてやった。


 エンジンの始動法を順に進めていき、最後に取っ手の付いたワイヤーを引こうとしたところで俺はあることに気づいて手を止めた。


 よく考えたら、俺の目の前にあるこのエンジン発電機だが、基本は鉄と銅で出来てるんじゃないか? ちょっとくらいは希少金属が使われているのだろうが、大した量ではないだろう。となると、コピーできるような気がしてきた。鉄と銅を用意すれば疲労を最小限に押さえてコピーできるはず。


 コピーするなら新品状態の今が一番都合がいい。


 本体の重さが100キロということは、銅は数キロで鉄の量が100キロと考えていいだろう。


 やはり、鉄を補充してしまおう。いちばん簡単なのは、廃車だな。鉄を中心にいろんな素材の詰まった宝石箱だ。しかし、廃車とか言っても素人の俺が廃車を買いに行って『はいどうぞ』と、言って売ってくれるのか疑問だし、そもそもどこに買いにいけばいいのかもわからない。


 そこで俺はいったんエンジン発電機を収納して複製ボックスに入れておき、再度アパートの俺の部屋に戻ることにした。スマホを使って廃車を扱っている場所を探すためだ。


「転移!」


 部屋に戻って、スマホを片手に検索すると、うまい具合に今俺がいるアパートから歩いて30分ほどに解体工場が見つかった。二束三文で引き取った車から使える部品は回収し、鉄とその他に分けていくのだろう。やってる内容は俺がまさにやろうとしていることだ。


 少々足元を見られても大したことはないだろう。本当は夜陰に乗じて遠くから数台アイテムボックスの中に失敬してもバレはしないのだろうが、切羽詰まった状況でもないので普通に交渉して1台買ってしまおう。



 スマホを見ながら解体工場に向かって歩いていたらちょうど中古車屋があった。見ると1台、12万円のセダンタイプの乗用車が置いてあった。見た目はそれほど悪くはないのだが、車検なしと注意書きが貼られていた。これでいいじゃないか。問題はこの場で俺が収納してしまうと目立ってしまうということだ。


 ちょっと無茶かもしれないが、やってしまうか? よーく考えなくても、誰に迷惑をかける訳でも、罪を犯す訳でもないので、堂々としていればいいだけだ。開き直りとも言うがな。


 目の前の車でなくても、車なら何でも構わないので、いちおう確かめる意味も込めて、


「すみませんが、ここで一番安い車を買いたいんですが。車種も何もかも関係なく安い車がありませんか?」


 妙な客だと自分でも思うが、俺のニーズは素材だけなので率直な気持ちを言葉にしただけだ。


 俺のお気持ちに、店のおっさんが、


「えーと?」と聞き直してきたので、正直に自分のニーズをおっさんに話した。


「自分で分解しようと思っているので、廃車だったらもっといいです」


「わかりました。廃車だと、公道を自走させることはできないから、レッカーか、運搬車に積み込むことになるけど、そこはそれなりの値段だよ」


「大丈夫です。自分で運びますから」


「なんだ、レッカー持ってるのかい。

 それじゃあ、今日引き取った車があるからそれを譲るよ。買い取った価格に5万ほど乗せるけどいいよね?」


「それでいくらくらい?」


「5万でいいよ。もともと廃車手数料込みで、ただで引き取った車だから」


 ということで、バックヤードに回ってその車を見せてもらった。


 ワゴンタイプのなかなか大きな車だった。これならそれなりの鉄が取れるだろう。


「これをもらって帰ります」


 そう言ってその場で5万円を俺は払った。店のおっさんが領収書を切ろうとしたので、


 俺は「領収書はいいです。それじゃあ」。そう言っておっさんの目の前でそのワゴン車をアイテムボックスに収納し、目的が達成した俺はニューワールドの屋敷の裏庭に転移してやった。


 転移した今おっさんの顔を確かめることはできないが、驚いて狐につままれたような顔をしているだろう。それでも5万円が手元に残り、廃車が1台減った、という事実を事実として受け入れれば、そのうち脳内で適当にストーリーを考え出して納得するんじゃないか?


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