第12話 街歩き


 俺は子どもたちを連れ、たまたま目の前にあった図書館に入ってみることにした。


 石造りの立派な玄関を入るとその先にカウンターがあり、そこで入館料を取られた。入館料は大人おとな子どもの区別なく、一人頭ひとりあたま銀貨一枚だった。ラノベ知識ではあるが、こういった世界では本が高価なのは当たり前なので、入館料としては決して高くはないのだろう。


 カウンターの先からが図書館の閲覧室で、テーブル風の閲覧台の上におもて表紙が見えるよう本が寝かせて並べてあった。受付の後ろの部屋には本棚があるのかもしれないが閲覧室には本棚はなかった。そのため閲覧できそうな本の数はそんなに多くないと思う。


 とりあえずどんなものかと入っただけの図書館なので、何か調べ物があるわけでも読みたい本があるわけでもない。それでも少しは興味はあるので、近くの閲覧台の上に乗っていた本の表紙をめくると手書きの文字がぎっしり詰まっていた。ところどころに挿絵もあるが、そもそも羊皮紙らしきものに書かれた本なので、分厚くてもページ数はそんなにない。


 紙は見たことはあるが、確かに紙質は高くなかったので、紙の本はそこまで普及していないのかもしれない。現代日本からコピー用紙でも輸入できれば大儲けできそうだ。ただ、良質の紙を輸入できたとして、こちらの世界の文化的には貢献できるかもしれないが、ポーション販売に比べれば大した儲けにはならないだろう。


 俺はそうやって、読むわけでもなく本をめくっていたのだが、子どもたちは本を手にするわけでもなく、俺を見ているだけだった。


 それでも、こういった場所の雰囲気を覚えておけば将来きっと役に立つハズ。


 俺は手に取った本を閉じ、子どもたちを連れてそこらを一周したところで、


「そろそろ出るか?」


 そう言ったら、元気一杯「「はい!」」と、返事されてしまった。


 周りで静かに本を読んでいた入館者を驚かせたかもしれないが、仕方がない。子どものしたことだ、大目に見てくれ。



 子どもたちはこういった雰囲気が苦手だったようだ。俺も子どもの頃はそうだったような気もするので、世界?共通なのかもしれない。



 図書館を出たら、取ってつけたように正面に軽食屋があった。


 子どもたちを見ると、本も読んでなかったくせに気疲れしてしまったようで、疲れた顔をしている。仕方ないので、4人を連れて軽食屋に入り好きなものを注文させた。


「食べたいものを注文していいからな」


「なんでもいいんですか?」


「もちろんだ。値段なんか気にするなよ」


「「ありがとうございます」」



 4人掛けのテーブル2つをくっつけて5人で座り各自好きなものを注文した。俺はスパゲティー、子どもたちは肉と野菜の入ったサンドイッチを注文していた。


 もちろん、料理の名はスパゲティーではないしサンドイッチでもないのだろうが俺の頭の中で異世界語が日本語に勝手に変換されるようだ。俺が口にする言葉は俺からすれば日本語なのだが、聞き手には異世界語で聞こえるらしい。


 そういうわけで、読唇術的なものは無意味なのかもしれないし、なにか不思議な補正がかかって読唇術も可能なのかもしれない。


 子どもたちは食べ物を注文しただけで、飲み物を注文していなかったので、


「遠慮せずに、飲み物も注文しろよ」


 そう言ったら、各自自分の好きな飲み物を注文した。


 4人ともジュースを頼んだようで、当たり前だが酒を頼む者はいなかった。


 俺は冷たいビールがあれば頼みたいところだったが、なさそうだったので水を注文した。もちろん水も有料で、ジュースとそんなに値段の差はない。


 ジュースを飲む子どもたちを見ていたら、少し気になったので氷が錬金工房の中で作れないかと思って試したら、普通にできた。


「お前たち、冷たいものは好きか?」


 4人が4人とも俺の突然の問いかけに驚いて、食事の手を止めた。


「4人とも自分の飲み物の入ったコップをそこに置いてみろ」


 4人がそれぞれのコップを俺の前のテーブルに並べた。


 そのコップの中に俺が錬金工房の中で作った角氷を入れてやる。


「氷を入れてやったから、飲み物が少しは冷たくなったはずだ。飲んでみろ」


 4人が自分のコップを手にしておそるおそる残っていたジュースを口にした。


「冷たくなってる。中に入ってるのは氷って言うんだよ」


「おいしい。氷って初めて見た」


「触ったらスゴク冷たいよ」


「……」


 子どもたちは氷を見たことがなかったようだ。ということはこの辺りは冬?になってもそんなに気温が下がらないと思っていいだろう。


 子どもたちが食べ終え、ジュースも飲み終えたところで、


「食べ終わったようだから、宿に戻るか」


「「ふぁい」」


 氷が冷たくないのか、子どもたちは一様に口の中に氷の塊を入れて転がしていた。



 こうやってフラフラしてるうちはいいが、このままずっと宿屋暮らしでは不便でもあるし、子どもたちをいつも連れ歩くわけにもいかない。となると、家を借りるしかないか。しかし、そうなるとまかないのおばちゃんを雇わないと俺は料理などできないし、ましてや子どもたちに料理ができるとはとても思えない。


 賄いのおばちゃんはそのうちで十分だが、まずは、まじめに不動産屋を探してみるとしよう。

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