第11話 あいさつ回り


 翌朝。五人そろって宿屋の食堂で朝食をとりながら今日の予定を子どもたちに告げた。


「今日はポーションを卸しに錬金術師ギルドにいったあと、冒険者ギルドにまわる。そのあと、雑貨を仕入れて、午後からは宿屋の中限定だが自由にしていい」



 ポーションをいっぱいに詰めた箱は結構重たい。一箱で20キロはありそうだ。これを子ども二人一組で一箱ずつ運ばせようと思ったが、二人で持ち上げたらよろよろしている。ケガをさせるわけにもいかないので今日は俺がアイテムボックスに入れて運び、子どもたちには道を教えることにした。まずは錬金術師ギルドだ。


「ごめんください。錬金術師のゼンジロウと申します。カズハさんいらっしゃいますか?」


 カズハ女史とはちがう女性が事務所の方からやってた。


「錬金術師のゼンジロウさまですね。お話はカズハより聞いております。ポーションは、できましたら裏の方に回っていただいて、受け渡しカウンターまで持っていってもらえますか?

 ご案内します」



 女性に案内されて事務所の中を通り、裏口と思われるドアから裏手に出ると、荷馬車や荷車が倉庫の前に列を作って順番を待っていた。ここから仕入れてどこかに運搬するのか、ここに搬入しているのかは分からない。そのどっちもあるのだろう。


「ここが、小口の受け渡しカウンターになります」


 そのあと、女性は係りの人に俺のことを説明して帰っていった。


「カウンターにポーションをお乗せください」


 係の人の指示に従って、木箱入りのヒールポーションをカウンターの上に置いた。


 係の人は、木箱の中から適当に1本だけポーションを取り出し、ガラス製のスポイトでポーションを吸い、それを光にかざして、スポイトの中のポーションを瓶に戻した。検品のため蓋を開けたポーション瓶はその後すぐに蓋をされてロウが塗られた。


「Lv2に近いヒールポーションですね。

 レベル1の価格での買取となりますがよろしいですね?」


「もちろんです」


「これで検品は終了です」


「1本だけでよかったんですか?」


「副ギルド長より凄腕の錬金術師さまの話は聞いていますので大丈夫です」


 お世辞だろうが、素直に嬉しいぞ。


 


 そのあと手渡された代金は金貨二百五十二枚だ。手渡された小袋に入った金貨を勘定して、領収書にサインした後、金貨を小袋に詰め直してアイテムボックスに収納しておいた。


 そのあと子どもたちを検品係の人に紹介して、明日以降もここに品物を卸せばいいことを確認して引き上げた。



 次は冒険者ギルドだ。


 俺の感覚ではそんなに歩いたつもりはないのだが、どうも子どもたちの歩みが鈍い。体力があまりないようだ。特にイオナはこれまで足が不自由だったせいか足が細い。まずは体力、体を作らなくてはダメそうだ。とはいっても無理はさせられないので、


「お前たち、少し休憩しよう。そこの屋台で何か飲み物でも飲もう」


 屋台ではグレープジュースとオレンジジュースを売っていたので各自飲みたいジュースを選ばせてやった。


 ジュースは素焼きのコップに入れて手渡された。おれはグレープジュースを飲んだが生温かい上、甘味よりすっぱみが勝っているのでそれほど美味しいものではなかった。子どもたちにとっては美味しいものだったようで、四人とも嬉しそうな顔をしてゆっくり飲んでいた。使ったコップは店に返すようだ。洗って再利用するのかそのまま・・・・再利用するのかは知らない方がいいだろう。


 子どもたちがジュースを飲み干すあいだ、屋台のおっさんに、


「ここらで荷車を売っているところを知りませんか?」


 と尋ねたら、


「ここからまっすぐ冒険者ギルドに向かっていくと、通りに面して大きな雑貨屋あるから。家用の小さな荷車ならそこで買えるよ」と、教えてもらった。


 コップを返して、その雑貨屋にいくことに。


 先頭を歩くおっさんおれの後ろを子どもたちが一列になってついてくる。いわゆるカルガモ歩きってやつだ。


 雑貨屋はすぐに見つかったので、店に入り、店員に小さめの荷車が欲しいと言ったら、店の奥に連れていかれた。そこで『ここに置いてある荷車から選んでください』と、言われた。


 荷物を乗せて運搬中に壊れてはマズいので、ある程度重くはあるが、それなりに頑丈そうな荷車を二台買うことにした。ついでに木箱の予備も十個ほど買っておいた。


 買った荷車と木箱はアイテムボックスに収納しておいた。店員は驚いて俺を見ていたがただそれだけだった。



 店を出てすぐに冒険者ギルドに到着した。


 子どもたちを連れて冒険者ギルドに入ったせいか、中にいた冒険者らしき連中に睨まれた。だからといってどうするわけにもいかないので、知らん顔をしてホールの左手に歩いていき売店のおばちゃんを呼んだ。


「今日もポーションを持ってきました」


「あら、ありがとう」


 木箱に入れた百二十本のポーションを木箱ごと渡して、代金の金貨八十四枚を受け取った。


「明日からこの子たちがポーションをおろしにここにやってきますから、よろしくお願いします」


「あいよ。よろしくね。だけど、代金の方はどうするの? 子どもたちに渡して大丈夫なの?」


 確かに子どもたちに大金を持たせるのは危険だ。


「代金は俺が顔を出した時に渡してください」


「その方がいいわね」


 おばちゃんに礼を言って冒険者ギルドを後にした。




 錬金術師ギルドの方も心配なので、宿屋への帰り道にもう一度錬金術師ギルドに顔を出して、代金の受け取りについて話をしておいた。これで子どもたちにポーション運びの仕事をさせても安心だ。


 まだ昼食には時間がある。


 通りを歩いていたら食材屋があったので冷やかしに中に入ってみた。


 よく考えたら俺が料理を作るわけではないので、無駄だったが、店の中に乾燥果物を売っていた。子どもたちのおやつに良さそうなので適当に見繕ってそれなりの量買っておいた。


 店を出たら、ちょうど昼の鐘が鳴ったので、そこらにあった食堂に入って昼食をとった。


 確かにおっさんと、とても姉妹には見えない子どもたち四人が並んで食事をしている姿は珍しいのだろう。ずいぶん周りの客から奇異な目を向けられてしまった。そんなことは気にしても仕方ないので無視して食事をして店を出た。


 昼からは自由時間といったが、運動も兼ねて腹ごなしに街を散策することにした。適当に歩いていたら、道の先に大きな建物が見えてきた。


「お前たち。あの大きな建物が何なのか知らないか?」


 俺は振り返って、後ろをついて歩いている4人に聞いてみた。


「あれは市庁舎だと思います」と、イオナ。


「市庁舎か。そういえばこの街の名前は何て言うんだ?」。街の名前を知ってどうなるわけでもないが、再度子どもたちに聞いてみた。


 そしたら今度は子どもたちに怪訝な顔をされてしまった。それはそうだよな。


「この街の名前はバレンです」


 まずは俺自身がこの世界の常識を知る必要があるようだ。



 市庁舎と言っても、現代日本の市役所とは違うはずなので何をするところかはわからないが、子どもたちも一緒に社会科見学のつもりで中を覗いてみることにした。


 市庁舎の中には俺の知る市役所とは違って市民はいないようだ。作業服のようなものを着た連中にちょっと上等な服を着たおっさんが指示を出していたり、警邏の連中が出たり入ったりしていた。おっさん一人に四人の子どもたちが紛れ込んでしまったわけで、かなり奇異な目を向けられてしまった。


 ここは俺たちの来るところじゃないと早々に見切りをつけて、市庁舎を後にした。


 市庁舎の建物が大きかったせいでそれまで気づかなかったのだが、市庁舎の脇にもそれなりに立派な建物が建っていた。


「あの建物は何だ?」


「あの建物にも入ったことはありませんがきっと図書館だと思います」


 市庁舎よりこっちの方がよほどためになりそうだ。さっそく図書館に入ってみよう。



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