第10話 雑貨屋から宿


 無我夢中で食事している子どもたちを見ているだけでは手持無沙汰なので、奴隷商会でもらった買取り証書の束をアイテムボックスから取り出し一枚一枚見ていった。


 何もないところから羊皮紙の束を取り出したから、子どもたちを少し驚かせたかな? と思ったが、みんな食べることに夢中で気が付かなかったようだ。


 えーと、足の悪い女の子。この子の名前は、イオナというのか。歳は? 何々、12歳と。見た目より歳が上だな。今のうちに足を治しとくか。


 アイテムボックスの中で、ヒールポーションを作る。今まで作ったポーションよりも少しいいものになるよう意識した。


 少なくとも最初に作ったLv3相当のヒールポーションより上だ。


「おい、イオナ。食べているところ悪いが、このポーションを飲んでみろ。おそらくお前の足はこれで治るはずだ」


 イオナにポーション瓶を渡すと、手に持ったまま固まってしまった。残りの三人も驚いた顔をしてイオナを見たり俺を見たりしている。もう一度イオナにポーションを飲むよう促すと、イオナは覚悟を決めたか、瓶のふたを開け、両目を閉じて一気に飲み干した。そんなに覚悟のいるものじゃないだろう。


 一気に飲んだせいか、しばらくむせていたイオナが何とか落ち着いたところで、


「立ち上がって2、3歩でいいから歩いてみろ」


 イオナが椅子から腰を浮かせ立ち上がり、1歩、2歩と歩いてみせた。イオナの両足はしっかり動いていた。


「……、ご主人さま! 足が! 足がまっすぐ伸びて自由に動きます。夢のようです。ほんとにありがとうございます。う、ううう」


 それを聞いて俺も安心。治ると言って治らなかったじゃカッコ悪いからな。


 残り三人はかなり驚いたようだ。


「ご主人さまは、高価なハイヒールポーションを奴隷に簡単に使うほどお金持ちなんですか?」


 黒髪のおかっぱ頭の女の子が聞いてきた。


「いや、さっきのは俺が自前で作ったポーションだ。こう見えても、俺は錬金術師なんだよ」ドヤッ!


「ご主人さまは、高名な錬金術師さまだったんですね! 納得しました」


 金髪を肩まで伸ばした子がしたり顔で頷いている。


「さすがはご主人さま」


 茶髪のツインテールの女の子も頷いている。


 この三人娘、ノリがいいな。ワン、ツー、フィニッシュと決めてくれる。


 イオナの足は治ったが、この3人だって決して衛生状態の良くない環境で生活していたのだろうから、なにがしかの病気を持っているかもしれないし、腹の中には寄生虫だっている可能性もある。


 ということで、


「お前たちも念のためにこれを飲んでおけ」


 そう言って錬金工房でさっきと同じヒールポーションを作って3人に手渡した。


「「「えっ!?」」」


「だから、お前たちもなんか病気にかかってるかもしれないし念のためだ。いいから飲め」


 3人は顔を見合わせながらもポーションを飲み干した。


「どうだ? 身体が軽くなったりとか、今までよりも楽になったとかないか?」


「ご主人さま、はっきりはわかりませんが、お腹の下辺りがなんだか軽くなったような。それと元気も出てきたような」と、黒髪おかっぱの子が言うと残りの2人も頷いていた。やはり寄生虫かなにかいたのかもしれない。なんであれ、これで安心だ。


 考えたら俺もなにかの病気にかかっているかもしれないのでヒールポーションを飲んでおいた。俺自身ヒールポーションの色などこれまで知らなかったが、今飲んだポーションの空き瓶の底に少し残ったポーションを手の平にこぼして色を確認したら、濃い青色だった。


「そういうことだ。メシが終わったら、お前たちの日用品や身の回りの物を買いに行くから、必要なものを考えておけよ」 


 ちなみに、買取り証書によると、黒髪おかっぱがエヴァ、14歳。金髪ロン毛がオリヴィア、14歳。茶髪ツインテがキリア、12歳ということだった。追加情報として、四人とも算数と読み書きはある程度できるようだ。最低限の教育には算数と読み書きが含まれていたようで何よりだ。




 食事がやっと終わった。四人ともパンを相当食べて、とうとうパン籠を二回もお替りしていた。


 いかにもな四人を連れてきたのにもかかわらず、なにも言わずちゃんと対応してくれたおばちゃんに感謝して、代金として少し多めにテーブルの上に置いて食堂を後にした。



 次は、雑貨屋だ。


 すぐに見つかった雑貨屋だか衣料品屋だかに入った。子どもたちには、靴と下着と上に着る服を必ず買うようにと言って勝手に選ばせた。


 予備も忘れるなよ。あと、ほかに必要な雑貨があるだろ。女の子だったら必要なものなんかも忘れるなよ。あとタオルなんかも必要だぞ。


 俺はカアちゃんか?


 俺の方は、木箱を何個か仕入れた。明日以降、ポーションを詰めて錬金術師ギルドに売るための物だ。


 子どもたちは、靴と着替え、それと下着、コップやらなにやらを店備え付けの買い物かごに山盛りにしてやってきた。


 店の人に代金を払い、買った品物はとりあえず4人それぞれの木箱に入れて店を出た。そういや、今支払った銀貨は偽造銀貨だった。ま、ばれやしないだろ。


「ご主人さまは、ほんとにお金持ちなんですね!」と、エヴァ。


「ご主人さまは、高名な錬金術師さまでお金持ちです。納得です」と、オリヴィア。


「さすがは、ご主人さま!」と、キリア。


 こいつら、仲良く調子のいいヤツらだなあ。相手が小さな女の子でも、おだてられれば気分がいい。


 イオナだけはなぜか微妙な顔をしていた。


 子どもたちの荷物をアイテムボックスに仕舞い直そうかと思ったが、自分の荷物の入った木箱を4人とも大事に抱いているので、各自に運ばせた。余った木箱だけアイテムボックスに入れている。



 買い物はいちおう片付いたので、冒険者ギルドの売店で聞いたお勧めの宿を歩きながら探すことにした。



 ほら、すぐに見つかった。都合がいいよな。ここで店が見つからずウロウロするのは構成上意味もないし、紙面の都合が、……、ゲフン


 ま、わかるよね。大人の事情だよな。



 やってきました。ここはお勧めの宿屋。


 続きの二部屋を1週間分取って代金を前払いした。結構高いと思ったが、朝晩ついて二部屋分ならこんなものか。支払ったのも例のお金だし。


 どちらも二人部屋だが、子どもたちは四人まとめて一部屋だ。ご主人さまは色々することがあるから一人で部屋を使う。


 子どもだからベッド一つに二人で寝てもよかろう。


 子どもたちの荷物は木箱に入れたままで、木箱は各自のタンス代わりになったようだ。




 俺は忘れないうちに、明日用のヒールポーションを作って木箱に入れていった。


 横十二列、縦十列。


 一箱に全部で百二十本のポーションが入った。


 百本より多いが、これぐらいなら買ってくれるだろう。


 もう一箱分ポーションを作った。こっちは冒険者ギルド用だ。


 二箱目のポーションを作っている途中で、


『ピロロン!!』


『錬金術スキルの熟練度が一定値に達しました。スキルポイントが1付与されました』


名前:ゼンジロウ・イワナガ

年齢:27歳

職業:錬金術師

スキル:錬金術:LvMax、アイテムボックスLvMax、杖術Lv3、人物鑑定

スキルポイント83(非表示)



 スキルポイントが増えるものとは知らなかったが、こうやって増えていくのか。スキルポイントが増えるのはありがたい。


 2つ目の箱も全部で百二十本のポーションを作り終えた。


 箱から一本だけ抜き取って蓋を開け、手のひらに数滴落として中身を確認したところ、ポーションは子どもたちに飲ませたヒールポーションと違い、薄水色の水薬だった。そのポーションは俺が飲み干して、もう一本ポーションを作って箱に戻しておいた。



 事前に冒険者ギルドの売店のおばちゃんに言ってないから、売れ残るかもしれないが、どうせ原価はゼロだ。どうとでもなる。


 隣の部屋が静かなので覗いてみると、四人とも気疲れしたのか、ベッドの上で寝入っていた。晩メシまでそっとしておいてやろう。




 夕方になった。子どもたちは隣の部屋で、ゴソゴソ何かやっている。箱に入った自分たちの荷物をどうにかしているようだ。


「おーい! そろそろ晩飯に行くぞ」


 俺が部屋を出ると四人そろってドアの前で俺を待っていた。ちゃんと靴をはいて今日買った服を着ている。


 五人で食堂に下りていき、大き目のテーブルを挟んで並んで座っていたら人数分の晩メシが運ばれてきた。


「お前たち。いいか。メシを食べる前には『いただきます』。食べ終わったら『ごちそうさまでした』。これをそろって言うこと。いいな。

 それじゃあ、いただきます」


「「いただきます!」」


 いいじゃないか。この感じ。



 なんだか食事を終えたら眠くなってしまった。






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