第2話 脱出


 兵隊に連れてこられた部屋の明かりは、奥の壁の上の方に明り取りの小窓が一つあっただけなので扉が閉まると部屋の中は薄暗く、その上ホコリっぽかった。


 部屋の中にはホコリをかぶった木箱などが乱雑に置いてあったので実際物置部屋だった。



 俺は扉を背にして、体育座りをしながら考える。


 さーて、これからどうなるか?


 あの連中は、地球から拉致召喚した人間を何かに利用しようとしている。職業無職でスキルもなかった俺が要らない子認定されたということは、連中の目的に職業やスキルが重要だということがわかる。


 ここまでは間違っていないだろう。


 それじゃあ、要らない子の俺をやつらはどうする?


 俺だったら、不要物は廃棄する。だけど不用意にそこらに捨ててしまえば、拉致召喚の事実が広まる可能性がある。拉致召喚を日常茶飯事の行事として行っているなら別だが、おそらくそんなことはないだろう。それなら拉致召喚の情報が外部に漏れるのは面白くないはずだ。ということは、そこらに不要物をタダ捨てるだけでなく、口封じしたほうがいいに決まっている。簡単に人間を拉致ってくるような連中だ。ヤツらは俺を近いうちに殺そうとするに違いない。


 じゃあ俺はその前に逃げ出せば良いわけだ。


 さっそく、ここから逃げ出すために、役に立ちそうなスキルをスキルポイントで取ろう。


 まずは定番『アイテムボックス』。


 欲しいよね。このスキルがなければ仕方がないし、そもそもスキルの使い方も今のところはっきりわかっていないし。最悪スキルポイントの持ち腐れもありうるわけで。


 ダメ元で、アイテムボックスお願いします。と、心の中で念じてみた。


『ピロロン!』


 またあの青い半透明ボードが目の前に現れた。


『1スキルポイントを使って、アイテムボックスLvレベル1を習得しますか? はい、いいえ?』


 当然『はい』を選択。


『1スキルポイントを消費してアイテムボックスLv1を習得しました。残スキルポイントは198です』


『2スキルポイントを使って、アイテムボックスLv2を習得しますか? はい、いいえ?』


これも『はい』を選択。


『2スキルポイントを消費してアイテムボックスLv2を習得しました。残スキルポイントは196です』


 ゲーム知識からすると、こういったものはレベルが上がるほど特典が付いたりレベル差以上の効能があるはず。


 そう思った俺はアイテムボックスのレベルをどんどん上げていった。


 ……。


『10スキルポイントを消費してアイテムボックスLvMaxを習得しました。残スキルポイントは144です』


 アイテムボックスの最大レベルは10だった。そしてレベルを一つ上げるためにはレベル相当分のスキルポイントを使うことが分かった。



 逃げ出すとしても、この世界で生きていく上で無一文はやはりまずい。逃げ出す前に、何か金目の物でもいただければありがたいんだが。


 そう思って、部屋の中の木箱を手当たり次第持ち上げてみたところ、どの箱も空箱のようだった。そううまい具合にはいかなかった。


 それなら今のところ人の気配のない隣の部屋にいってみるか。


 隣りの部屋との壁は30センチほどの厚さがあることがなんとなくわかる。今までこんな感覚を覚えたことはないので、アイテムボックススキルの効果なのだろう。


 声には出さず『収納!』と、心の中で言ってみる。厚さ30センチで2メートル四方の壁材がアイテムボックスに収納された。


 ぽっかり空いた四角い穴を抜けて隣の部屋に入ってみると、広さは先程まで俺のいた物置部屋と同じくらいで、ここも物置に使われているようだ。いろんな形の木箱が置いてあった。ここもあまり使われていないようでどの木箱もホコリをかぶっていた。


 扉の脇には背丈ほどの木の棒が立てかけてあったので、手に持ってみたところ、かなり堅い木のようで、ずっしりと重い。



『3スキルポイントを消費して杖術Lv3を習得しました。残スキルポイントは138です』


 気が付いたら、杖術をLv3まで取っていた。無意識にやってしまった。これで俺も孫悟空だ。んなわけないか。


 剣術Lv3で剣聖なら、杖術Lv3なら杖聖?


『メインスキル:杖術を取得したため、職業が選択できます。職業を選択すると関連スキルの効果が50パーセント上昇します。

0.今は選択しない。

1.武道家(杖術)

0~1の番号でお選びください』


 50パーセント杖術が上昇するのは魅力だが、職業が変更可能かどうか今のところわからないので、とりあえず0で、今は無職がトレンディー。


 そんなことより、金目の物、金目の物、……。


 室内を物色していくと、積み上げられた木箱の中から衣装がかなりの数見つかった。


 食器類や燭台など高価そうに見えるものも見つかった。手当たり次第にアイテムボックスに突っ込んでいった。運の良いことに、銀貨が三枚と銅貨が五枚ほど手に入った。この硬貨が普通に流通していないとマズいが、まさか大昔の硬貨とか、記念硬貨ってことはないだろう。


 10分程かけて置かれていた木箱の中身を物色し終えた。


 ふう。これでこの部屋はほぼ空かな。


 手に入れた衣装の中から、自分に合いそうな上下を見つけそれに着替えておいた。今までのTシャツにチノパンの恰好では、おそらくこの世界では場違いだ。靴も俺の足のサイズに合った革製のブーツがちょうどあったのでスニーカーからそれに履き替えた。


 姿見がないが、こんなものでいいだろう。今まで着ていたものは当然アイテムボックスの中にしまっておく。


 俺が逃げたのがわかれば、必ず追手がかかる。残った女子高生三人組を利用するつもりだろうから、あからさまに俺を害するようなことはしないだろう。見ず知らずであれ、同じ日本人が殺されでもしたら、いい気持ちはしないだろうからな。


 俺が逃げ出したとして、例えば指名手配のようにおおっぴらに俺を追いかけてくることはないだろう。あくまで表に出ないよう、闇から闇に葬ろうとするんじゃないかな。などと空想してみたが、俺なんかがいなくなったところでそんな面倒なことをしないような気もする。


 物置部屋に閉じ込められてから2時間くらい経ったか。興奮しているため眠くはないが、かなり腹が減ってきた。日本じゃ今午後3時頃だろうけど、こっちだと何時くらいかな。外が明るいうちに脱出したほうがいいよな。


 明り取りの小窓の下に、先ほど収納した壁の一部を横幅30センチの階段になるようにアイテムボックスの中で切り取りながら並べていく。グラグラしないか心配だったが、乗ってみたところ問題ないようだ。


 小窓には鉄でできた格子がはまっていたが、難なく収納してそこを潜り抜け脱出成功。


 さっきの部屋は地下一階というより半地下室だったらしい。小窓を抜けると段差もなく大きな建物の庭らしきところに出た。人気ひとけは今のところない。


 ところどころに木が植えてあり、きれいに剪定されていた。見回すと、どうも敷地全体が高さ3メートルほどの塀で囲まれているようだ。塀の長さは左右ともに100から150メートルほど。塀の厚さは1メートルほどか。かなり頑丈そうに見える。俺が通れるように塀を収納してしまうつもりなので、どうでもいいがな。


『収納!』


 目の前の塀に2メートル四方の孔が空いた。チョロすぎる。


 簡単に脱出できたと思っていたら、塀の外は堀だった。堀の幅は5メートルほど。走り幅跳びで何とかなりそうだが、助走もつけにくい場所だし、今の俺ではかなり不安だ。堀の水は濁っているので深さは分からない。水面は俺の立っているところから1メートルほど下にある。


 塀を高さ2メートル、長さ6メートルで切り取ってアイテムボックスに収納し、これを90度回転させて堀の上に取り出して橋をかけてやろう。


 やってみると意外に簡単で、思い通りに橋が出来た。これぞアイテムボックスLvMax。


 橋を渡り、向こう岸に無事到着。堀に面した通りを歩いていた人がぎょっとしてこっちを見てたけど問題なーし。あまり意味はないだろうが、追手が橋を使えないよう、橋はいちおう収納しておいた。



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