岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する
山口遊子
第1話 異世界へ拉致られた
[まえがき]
テンプレファンタジー。よろしくお願いします。
◇◇◇◇◇◇◇◇
腹が減ってきたので、コンビニでも見つけようと歩道の上を歩いていたら、前方から女子高生らしき三人組が歩いてきた。ぺちゃくちゃしゃべりながら前を歩く茶髪の二人はこれが制服かというくらいスカートの丈が短い。その二人から一歩二歩遅れて、黒髪を左右で三つ編みにし、黒ぶち眼鏡をかけた
その三人とすれ違ったと思ったところで、突然足元の歩道が青白く光った。
俺と3人の女子高生を囲むように青白い光の輪が何重にもなって、ゆっくり回転し始めた。輪っかをよく見ると、複雑な模様が連なって輪っかに見えたものだった。これは魔法陣か?
異世界転移かもしれないぞ。とか能天気なことを考えていたら急に目の前が真っ暗になった。そこで俺は意識を失ったようだ。
……。
意識を取り戻したはずだが何も見えない。
周りに光がなくて何も見えないというのではなく、まぶたを開いているのか閉じているのかさえ分からず、まぶたを意識することすらできなかった。強いて言うなら視力自体がなくなってしまったようだ。ぼんやりした意識の中、頭の中に機械的な声が響いた。
『スキルポイントシステムがインストールされました』
俺は、ゲームの世界に転移したのか? などと考えているうちに、ようやく視力が回復してきて周りが見えるようになった。
見回すと、どうやら俺は広間の中にいるらしい。床は石張りで真ん中に魔法陣が大きく青色に輝く塗料?で描かれていて、その内側には俺のほかに、先ほどすれ違った女子高生の三人が立っていた。
三人は明らかに戸惑った感じで辺りを見回しているが、なぜか俺の方には顔を向けない。
魔法陣から数歩離れて、赤地に金糸の刺繍の入った豪華な服を着た爺さんが一人と、爺さんの左右にその手下らしい男が二人ずつ四人ほどが並んでいた。さらにそいつらの後ろには剣を腰にぶら下げた兵士のような男たち十人ほど立ち並んでいた。爺さんの服は法衣とでもいうのかね。その爺さんがこっちを向いて何か言っている。
「△$〇%……」
何を言っているのかさっぱりわからん。
異世界転移物のテンプレではこういう時は、すでに異世界語は習得済みか、スキルポイントを使って習得するとかできるんだけどなー。
『ピロロン!』と、頭の中に音がしたかと思ったら、目の前に青い半透明のボードがいきなり浮かび上がってきた。
誰もこのボードに気づいていないところをみると、俺にしか見えないようだ。
そのボードに書かれていたのは、
『1スキルポイントを使って異世界語を習得しますか? はい』
『いいえ』はないんかい。まあ習得するけどな。『はい』ポチッとな。
異世界語とは安直だが、俺があくまで主体なのだろうから、俺にとっての異世界語に違いない。
『1スキルポイントを使って異世界語を習得しました』
『残りスキルポイントは199です』
意外にスキルポイントが多いな。最初200もあったのか。まあうれしいけど。
「……、というわけで、みなさんを召喚したわけです。さっそく皆さんの職業とスキルを確認しましょう。職業とスキルの確認は別室で行いますので、こちらへどうぞ」
俺と女子高生3人は兵士たちに囲まれて部屋を移動していった。ここから逃げ出さないよう囲まれている感じだ。非常に嫌な予感がする。
長い廊下を進んだ突き当りの部屋の中に入ると、部屋の真ん中に机が一つ置かれていた。その机の上には占い師が使うような水晶玉?がはまった黒い箱が置かれていた。
「この水晶玉に手を触れていただければ、職業とスキルが後ろの白い壁に映ります。それでは順にお願いいたします」
最初は茶髪の女子高生の片割れが水晶玉に触れるようだ。紺色のブレザーに灰色のスカート。どこの学校の制服だろう? よく見ると、左右の耳にはピアスをつけている。関わり合いになりたくない手あいだ。
名前:ケイコ・ヤマダ
年齢:17歳
職業:勇者
スキル:剣術:Lv3、魔術:Lv2
白い壁のスクリーンに映し出された彼女の職業とスキル。職業は勇者だが、勇者にしてはスキルがちょっとしょぼくないか?
「おお。職業が勇者。剣術のレベルが3とは剣聖級。そして魔術のレベルも2、魔術師級。まさに勇者殿、期待が持てますなあ」
次はもう一人の茶髪。先ほどの勇者ヤマダ・ケイコとはかなり親しいらしい。互いに下の名前で呼び合っている。
名前:イチハ・タハラ
年齢:17歳
職業:レンジャー
スキル:剣術:Lv2、魔術:Lv1、探検:Lv3
これも、あんまり大したことないなあ。剣術Lv3で剣聖とか言ってたし、ひょっとしてレベルのマックスはLv4くらいで、Lv3でもかなりすごいのか?
「おお、これもさすが召喚されし者。期待が持てますなあ。探検Lv3とはあの大冒険家と同じ」
探検Lv3は大冒険家らしい。
三人目は、黒髪を三つ編みにしたツインテールの眼鏡っ娘。これぞ委員長ってな感じ。
名前:ハナ・サンゼンイン
年齢:17歳
職業:賢者
スキル:魔術:Lv4、錬金術:Lv1、鑑定Lv1
「おお、これもすばらしい。賢者とは初めて見る職業、魔術にLv4が存在したのか、Lv3の魔導士級を超えるわけだから大魔導士級とでも名付けよう。恐ろしい」
爺さん、褒めることしかないんかい!
どうやら、三人ともこの部屋に来る前に、スキルポイントを割り振ってたみたいだ。手際良いよね。俺にはそんな時間なかったぞ。というか、三人は自動で割り振られた可能性のほうが高い。さらに言えば、俺だけスキルポイント制という可能性もある。
とうとう俺の番。
名前:ゼンジロウ・イワナガ
年齢:27歳
職業:なし
おお、職業がない。実際今の俺はこれといった職業についていないから仕方ないよな。しかもスキルもない。
爺さん「……」
これには、爺さんも何も言えないよな。
二人の兵隊が俺の両脇に立ち、両腕を掴んで引きずっていく。
爺さんに手放しで称賛されていた三人が俺を見ている。茶髪の二人は何かゴミを見るような目をしている。そういった目で見られるのには慣れているわけではないが、この状況で気にしても仕方がない。
「これからスキルを取るところだ!」
「スキルポイントもこんなにある」
首だけ後ろに向けて、叫んでみたが、誰も俺の言うことを聞いてくれない。叫んでいるのに有無を言わさぬとはこのことだったのか。
女子高校生三人組を残し、俺だけ別の部屋に連れていかれた。いや、連行された。
今のところ状況がはっきりしないので、少し落ち着いて行動しようと思い、俺は兵隊に逆らわず連行された。
連れてこられた部屋は物置部屋のような雑な造りの部屋だった。しかもほこりっぽい。
ここまで来るのに階段を一階分降りてそこが階段の一番下だった。ここが1階なのか、地下1階なのかは分からない。地下だと厄介だが、扉の反対側の壁には高いところに明り取りの窓があったので、少なくとも地下ではないようだ。
腹が減ったのでどこかの店で何か食べようと道を歩いていた俺は異世界に拉致されてしまった。
そして、俺はいらない子。いや、いらないおっさん認定されたようだ。
俺ってこれからどうなるんだ?
それはそうと腹減った。
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