二 「好きな作家は?」と聞かれる。
「好きな作家は?」
度々聞かれる。私は一応、「太宰治」と答える。一応。
「好きな作家」と一言では言っても、何をもって「好きな作家」なのか分からなくて。
漱石先生のことを尊敬しているし、坂口安吾の文章で大好きなものがあるし、谷崎潤一郎の文章綺麗だなって思うし、……。
と挙げていくと、近代文学と古典が好きなんだな、とは思うが、それぞれの作家で尊敬している面・好きな面は違うことが多いので、ただ一言「好きな作家は?」と聞かれると、一瞬戸惑う。
さりとて私が最も詳しくて、分析していて、且つ「すげえ」って思った回数の多い作家は一応太宰治なので、そう答える。自覚は薄いが、多分「最も好きな作家」なんだと思う。
私が太宰治にハマったきっかけは、中学二年生の頃。教科書に載っていた『走れメロス』。
正直、この話は幼い頃から何度も読んだことがあった。けれども当時は他の童話や絵本と同じ感覚で読んで、「あ、いい話ー」と思った程度。深くは考えていなかった。
しかし中学生になって、教科書で『走れメロス』を読んで授業で扱われて、
作者の技術力というか、工夫に驚いた。
そのため、とある休日に、自分一人で『走れメロス』を分析してみることにした。
当時の私はシラーすら知らず、ほぼ無知の状態で、作品に向き合ってみた。
小説の後半、赤色関係の記述が増えてゆく。血とか、マントとか。何故? じゃあ最初は何色が多いの? 黒、だな。黒雲とか。
赤はメロスを表し、黒は「メロスを邪魔するもの」と王様を表すってことか。つまり、この小説がどんどん赤に染まってゆく=皆がメロス側の人間になってゆくってこと。
待てよ、約束って、三日目の日没だった。
太陽は赤、夜は黒。赤と黒、境目。……メロスと王の堺を、「日没」で表しているのか?
等々、未熟ながらも考えて、気づいて、まとめて、興奮気味に先生に分析結果を伝えてみた。先生は褒めてくれて、「白色も出てくるよ」と教えてくれた。
超楽しい。てか太宰治ってすげえ。
中学二年生の私は、そう思った。
以来「殺し方の記述が『絞め殺し』から『磔刑』に変わってしまうのは何故ですか」とか、色々先生に質問しに行った。
今思えば面倒くさい生徒である。当時の先生には感謝しかない。
そうして私は太宰治にハマり、彼の他の作品も読み始めたたとさ。めでたしめでたし。
と、ハマるきっかけはこんなものである。要約してしまえば、「分析が楽しかった」のだ。
分析さえすれば、他の作家でも良かったのかもしれない、初めて本気で分析したのが、偶然太宰治だったってだけで。いや……、それは、他の作家の分析も本気でしてみなければ、分からない。太宰治だから面白いのか、他の人でも面白いのか、今はまだ、ハッキリと分からない。
しかし、兎角、太宰治を面白いと思った。尊敬もしている。これは事実である。揺るがない。確信できる。
「好きな作家は?」
度々聞かれる。私は「太宰治」と答える。
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