用心棒スキル

「まさか、あなたは……精霊様なのですか!?」

『あ、いや。精霊というか、道具屋(建物)です』


 ルキアが目をキラキラさせ、小屋の天井を見上げる。

 魔力が尽きてしまったので、『憑神』を維持できなくなった。

 でも、分かったことが一つ。建物の状態でも、俺の声は聞こえるようだ。


「貴様、魔獣の類だったのか!?」

『違います違います!! あの、剣を抜かないで!!』


 小屋が破壊されれば死ぬ……のか知らんが、壊されるのは嫌だ。

 参ったな……どうしよう。ん?……あれ、別にいいのかな。


『あの、俺はここから動けません。事情はわかりましたけど、手伝えることはなさそうなので……果物とか栄養ドリンク、全部持って行っていいですよ』

「……わかった」

「ありがとうございます。マルセイさん」


 異世界転生あるある。

 最初に出会った人と仲良くなり、イベントを消化。仲間に!……なんてことはない。そもそも設定が重すぎる二人だ。他国に亡命中とかヤバいだろ。

 こういう事情を解決して仲間になるのもお約束だけど、今の俺にはどうしようもない。

 小屋から出れないしなぁ……参った。道具屋っぽくなさすぎる。


「姫様。今日はここで休んで、明日出発しましょう。ロード帝国の国境まで数日……お辛いでしょうが、辛抱を」

「もちろんです。ガウェイン卿……ありがとうございます」


 ルキアはにっこり微笑み、ガウェイン卿は跪いた。おお、姫と騎士っぽい。

 

「マルセイ、貴殿にも感謝を」

『いえいえ。というか、家が喋ってるのに不審がらないですね』

「ふ、アプルに免じてな」

『はぁ……』

 

 いやだから、それリンゴだってば。


 ◇◇◇◇◇◇


 ルキアはスヤスヤ眠り、ガウェイン卿は剣を抱いて壁によりかかって寝ていた。

 ちなみに、小屋状態でも俺は熟睡できる。

 明日になったら、出せるだけの果物や栄養ドリンク出して見送ってやろう。

 そう思っていると───脇の下をくすぐられたような、むず痒い感覚がした。


『ん……? んんん!? な、なんだお前ら!?』

「「「!? な、どこから声が!?」」」

「むっ!! 何者だ!!」


 ガウェイン卿が起き、剣を抜く。

 俺は、小屋内の裸電球を付ける。そこには、三人の兵士がいた。

 どう見てもヤバい。まさか───刺客。


「ちぃぃっ!! 姫様、姫様!!」

「ふぁ!? はは、はい!! ご飯ですか!?」

 

 ルキアは飛び起きる。

 そして、目の前にいる三人を見て息をのんだ。


「お、お兄様の私設部隊……」

「ようやく見つけましたよ、ルキア様。さぁ……ガルシア殿下がお待ちです」

「い、嫌です!!」


 ルキアはガウェイン卿の後ろへ。

 刺客は三人。全員、マスクをしている。ルキアは声だけで判断したようだ。

 ガウェイン卿は剣を構える。


「帰ってガルシア殿下に伝えろ。貴様はもう終わりだとな」

「それはあなたもです。ガウェイン卿……騎士団最強と呼ばれながら、そんな小娘に付くとは」

「ワシは、この方こそが王の器だと確信している。それに、忠誠を捧げたのでな」

「フン……」


 うーん。俺はどうしよう。

 すると、刺客の一人が床に置いてあったリンゴを踏み潰した。


「まぁいい。ここで殺して、外に捨てればそれで終わり。あとは魔獣の餌になるだけ……死体の処理も楽だ」


◇◇◇WARNING◇◇◇

※強盗発生


スキル《用心棒》が使用可能。

戦闘形態 徒手空拳 レベル1

◇◇◇WARNING◇◇◇


 あ、出た。

 リンゴを潰されたからか?

 ガウェイン卿の時は使えなかったけど、こいつらなら。

 異世界転生あるある。こういう暗殺者は大抵が弱い。


『よし。《用心棒》発動!!』

 

 念じると、小屋から『憑神』に変わっていた。


「……なんだ貴様?」

「ふふ。道具屋の用心棒さ。お前……そのリンゴ、うちの大事な商品なんだよ。商品をダメにした落とし前は、つけてもらう」


 俺は強気だった。

 スキルを発動させたせいなのか、パワーアップした気分だ。

 まぁ、レベル1だけど……それでも、負ける気がしない。


「ガウェイン卿、ルキアを。こいつらは俺が」

「……任せていいのか?」

「うん。ま、見ててよ」


 俺は拳を握る。

 チンピラ風の構えだ。俺が好きなヤクザを操作して殴り合うゲームでは、こんな感じ。


「『チンピラモード』!!」

「「「「「は?」」」」」

「…………すまん、今のなし」


 ガウェイン卿もルキアも刺客三人も「何言ってんの?」みたいに見ないで。

 俺は拳を構え、突っ込んでいく。


「行くぞおりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おい、やれ」

「へいっ」


 刺客の一人が拳を握る。

 向かってくる拳がゆっくりに見えた。

 そのまま、拳を躱しカウンターの要領で腹を殴る。


「虎落とし!!」

「ぬごっほ!?」

「ふん!! はっ!! せいっ!! おうりゃっ!!」

「ごっふぁ!?」


 右、左、左、タメてからの右アッパーで、刺客は吹っ飛ぶ。

 □ボタンを連打したらこうなるんじゃないかって連打が炸裂した。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 Levelup!

 徒手空拳 レベル2

 腕力アップ

 脚力アップ

 スピードアップ

 コンボアップ

 体力アップ

 魔力アップ

 ◇◇◇◇◇◇


 レベルが上がった。というか、ゲームみたいなステータス画面だな。

 すると、もう一人の刺客がナイフを俺の腹に突き刺した。


「くらえぇぇっ!!」

「ぐぁぁっ!?…………あれ、痛くない」


 ◇◇◇◇◇◇

 体力 110/95

 魔力 110/80

 ◇◇◇◇◇◇


 あ、体力減ってる。

 魔力は……ああ、虎落としで消費したのか。

 マジでゲームだな。体力がゼロになったら死ぬのか。

 レベルが上がると新しいスキルも手に入りそうだ。

 ああ、俺……ゲームキャラみたい。


「離れろっ!!」

「おげっ!?」

「ふんふんふんふんふんふんっ!!」

「がぼべっ!?」


 パンチ連打。

 おお、パワーアップしたおかげか威力上がってる。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 Levelup!

 徒手空拳 レベル3

 腕力アップ

 脚力アップ

 スピードアップ

 コンボアップ

 体力アップ

 魔力アップ

 ※アナライザー New

 ◇◇◇◇◇◇

 

 お、レベルアップ。さらに新スキル。

 アナライザー……まさか。


「な、なんだお前……何者だ!!」

「俺は道具屋さ」


 ◇◇◇◇◇◇

 〇クレド・マクミラン レベル3

 体力 130/130

 魔力 50/50

 ◇◇◇◇◇◇


 おお、相手の体力が表示された。

 頭の上に赤いバーが表示されてる。これをゼロにすればいいのか。


「さぁて、用心棒スキルの使い方はわかった。もうお前なんて怖くないぞ!!」


 結果は───俺の圧勝だった。

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