道具屋、そして用心棒
「貴様、何者だ。なぜこの森にいる。このボロ小屋は貴様が建てたのか?」
老騎士は、俺に向かって剣を抜いた。
ボロボロなのにすげぇ覇気。めっちゃ怖い!!
俺は慌てて釈明する。
「ちち、違います!! あの、ここは道具屋でして、俺は道具屋で」
「馬鹿を言うな。ここ『死者の森』に道具屋を開く者などいるわけがない」
死者の森……あのクソ神、なんつー場所に転移させやがる。
すると、老騎士はゲホゲホとむせる。
「ガウェイン卿!! しっかりして!!」
「も、申し訳ございません。姫様……げっほげっほ、おい貴様……この際何でもいい、水をくれないか」
「あ、は、はい!! えっと、栄養ドリンクなら」
俺は備蓄しておいた栄養ドリンクの瓶を一本ずつ渡す。
女の子に一本、老騎士に一本。
だが、二人は「?」マークを浮かべていた。
「なんだこれは」
「え、瓶……あ、そっか! 異世界あるあるだ! 瓶の蓋とかないのか!」
ペットボトルのキャップとか、プルタブとかない世界なんだ。
俺は瓶を見せ、上部の蓋を掴んできゅっとひねる。瓶の蓋がパキパキ音を出し、そのまま蓋が外れた。
「こうして、こうやって飲むんです」
「…………密閉してあるのか? こんな道具、見たこと」
「ガウェイン卿、今は水を」
「は、はい」
二人は俺の真似をして蓋を開ける。そして、喉が乾いていたのか一気飲みした。
「「ぶっほっ!?」」
そして、吐きだした。
「げっほげっほ!? なな、なんだこれは!? ド……毒!? 姫様!!」
「うぇぇ……」
「き、貴様ァァァァァァーーーーーーッ!!」
「えええええええええ!? え、栄養ドリンクです……ああ!? 異世界人に栄養ドリンクは早すぎたか!!」
けっこう独特な味だしな。
って、そんな場合じゃない!! 老騎士が剣を抜いちゃったよ!?
やばい。死ぬ。
というか、水とかない。どうする、どうする……!!
「あ、そうだ!! あの、水はないけど果物なら!! 水分多いのあるんで!!」
「…………」
「えっと、み、見舞いの果物!! これこれ、リンゴとかどうです? さぁさぁ!!」
「…………貴様が食え」
「は、はい!!」
俺は見舞いの果物のバスケットから、リンゴを取り出す。
老騎士は嫌そうな顔をした。
「それは、アプルか? そんな真っ赤なアプル、見たことがない」
「リンゴですリンゴ!! 甘酸っぱくて美味しいですよ?」
「食え」
「は、はい!!」
というか……見ず知らずの老騎士になんでこんな命令されなきゃいけないんだ。
俺は果物ナイフを取ろうとしたが、老騎士が見てるのでやめた。
そのまま、リンゴを丸かじり……うめぇ。みずみずしいリンゴだ。汁気が多く、酸味より甘みのが強い。ばあちゃん、ありがとう。
「美味い!! さぁどうです?」
「……」
老騎士は、俺の食いかけを奪い、食べる。
「───!! これは、アプルなのか!? こんなみずみずしく、甘酸っぱい……」
「噓じゃないでしょ?」
「…………いいだろう。貴様、これをもっとよこせ」
「は、はぁ」
と、ここで俺の目の前にステータス画面が。
◇◇◇WARNING◇◇◇
※強盗発生
スキル《用心棒》が使用可能。
戦闘形態 徒手空拳 レベル1
◇◇◇WARNING◇◇◇
ま、マジかよ。
そういや、用心棒スキルあった。
確かに、ここは道具屋で、この老騎士の行為は強盗そのもの。
けっこう強そうな老騎士相手に、徒手空拳レベル1で戦えるのか?
というか……倒していいのかな。
俺はお姫様っぽい女の子を見る。
「ガウェイン卿!! 剣を納めなさい」
「しかし、姫様……」
「あなたの行為は、強盗行為に他なりません。救いを請う場合の態度というものがあるのでは? あなたは、それでも騎士なのですか!!」
「うっ……も、申し訳ございません」
おお、お姫様の一括で老騎士がシュンとなった。
そして、俺に向かって頭を下げる。
「申し訳なかった。少し気が立っていたようだ」
「い、いえ」
お、用心棒スキルが消えた。
どうやら、強盗行為を感知したときだけ使えるようだ。
俺はリンゴを差し出す。ついでに、恐る恐る果物ナイフも。
「あの、切ったほうが食べやすいと思います……」
「……感謝する」
老騎士は、果物ナイフでリンゴをカットし、お姫様に渡した。
お姫様は、みずみずしいリンゴに目を輝かせ、パクっと食べる。
「お、美味しい~……っ!! こんなアプルがあったなんて!!」
「水分も多く含まれておりますな。私が知るアプルは、酸味だけが強く、こんなに水分は含まれていない」
「すごいです……あの、おかわりを」
「はっ」
俺を無視し、リンゴに夢中な二人。
リンゴを完食すると、老騎士とお姫様が俺に向き直る。
「無礼な態度を謝罪する。貴殿のおかげで助かった」
「本当に、ありがとうございます。あなたは命の恩人です」
「いやいや。助かってよかったです。あの……もしよかったら、何があったか教えてもらっていいですか? あと、この辺のことや、外の世界のことも教えていただけると」
「……貴殿、ここがどこかわからぬのか?」
「え、ええ。まぁ」
異世界あるある。
俺が地球人で、異世界転生したって話ていいのかな。
こういうの、もっと信頼できる人とかじゃないとダメな気がする。でも……最初に出会う人たちが一番信頼できるパターンも多いし。
とりあえず、様子見だな。
「まず、自己紹介を。ワシはユークリッド王国騎士団長ガウェインだ」
「私は、ユークリッド王国第二王女、ルキアと申します」
「俺は丸山誠一です。えっと、道具屋です」
「マル、やま……セイいいいち?」
「マルま、セイいち」
ガウェインさんとルキアは、言いにくそうだった。
「言いにくい名だな」
「申し訳ないですね。まぁ、好きに呼んでください」
「マル、ゃま、セイ、ぃち……では、略してマルセイ、マルセイとお呼びしても?」
「……どうぞ」
ルキアは手をパンと叩いてにっこり。マルセイ……まるやませいいちだから、マルセイか。
ま、いいや。
「ではマルセイ。我々の事情を説明しよう。我々は、ユークリッド王国を捨て、隣国のロード帝国へ亡命している最中なのだ。そこで、危険と知りつつも、この《死者の森》を超えようとしたところで、魔獣に襲われたというわけだ」
「へ、ヘビーっすね……亡命とか」
「うむ。ユークリッド王国第一王子、ガルシア殿下の策略での……国王陛下に毒を盛り、その責任全てをルキア姫様に被せたのじゃ。当然、姫様は無実。そこで牢を破り、敵国のロード帝国へ亡命の途中というわけじゃ」
めっちゃヘビーな話でした。
ルキアは俯き、今にも泣きそうだ。
「お父様、お母様……」
「大丈夫。盛られた毒は軽いモノ。死に至るモノではございません」
「でも……」
「姫様。今は姫様の安全だけを頼りに。それに、この亡命は陛下の意思なのですぞ」
「わかってる……この書状をロード王国皇帝に届ければいいのね」
「はい。友好平和条約の書状。これの存在はガルシア殿下ですら知らない。ガルシア殿下が毒を盛った証拠もこちらにはあります。これを届ければ、ガルシア殿下は終わりです」
「……お兄様」
なるほど。
ユークリッド王国とロード帝国は敵対関係だった。でも、友好平和条約を結ぼうとしている。その書状をルキアが届け、さらに毒を盛った証拠も出せば、ロード王国は友好国の王を狙った不届き者を許さない。ガルシア殿下は終わりだな。
「さて、マルセイよ。貴殿のことも話してもらおう。このような危険な場所で、何をしていたのだ?」
「えー……実は、俺もよくわからなくて」
あ、やべ。
魔力が尽きそうだ。
「すみません。ちょっと……」
「「!?」」
俺の身体が消え、意識が小屋に戻った。
『すみません。俺、道具屋なんですけど……道具屋(建物)なんです』
俺の声が小屋に響く。どうやら、二人にはちゃんと聞こえているようだった。
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