緊急生産

 レベル上げをすること数日。

 

「よし! レベル5だ!」


 俺は、レベル5になった。

 魔力を消費することで経験値となる。だが、消費した経験値は3分で1ポイント回復する。つまり、30回復させるには90分もかかる。

 なんかソシャゲみたいだなと思いつつ、消費した魔力を回復させるためにジッとしているのだが……いやぁ~、暇だこと。

 だって、娯楽もなしに魔力を回復させるためだけに待つんだぜ? 普通、暇ならポケットからスマホを出して、電子書籍を読んだり適当なサイトを回ってみたりするんだけど……そんなもんない。

 レベルは上げたい。でもめんどくさい。

 俺はようやくレベル5になったが、喜んだのは一瞬だけでもうくじけそうだった。


「……あぁ!! あぁぁ!! 誰でもいい!! 人いないのぉぉぉぉぉぉ!?」


 孤独。

 いやぁ、一人きりの生活なんて最高!! って思ってたけど……実際はきつい。

 会話なし、ただ一人で時間を過ごすのがこうもきついとは。


「あぁぁ!! 暇だ暇だ!! なんかおもしろい道具ないのか? 遊び道具、暇つぶし!!」


 と、叫んでいると目の前にステータス画面が。


◇◇◇◇◇◇

《所持品》

〇栄養ドリンク

〇病院着

〇見舞いの果物

〇財布

◇◇◇◇◇◇


「……なんだこれ」


 所持品なんてあったのかよ。

 ってかこのラインナップ……俺の病室にあったやつじゃん。なんだよ、死んだ後に一緒にこっちの世界に付いてきたのかい。

 俺は『憑神』を使い、小屋の中で人間になり、所持品一覧を見る。

 ちなみに、レベルが上がると魔力は全回復する。今の俺の魔力は200なので、20分は人間形態でいられるのだ。


「えーっと、所持品」


 財布をイメージすると、手に財布が握られた。

 うわー……ネットで3000円で買った財布だ。もう三年くらい使ってて、愛着はあったけど……こうして異世界で、しかも俺の手の上にポンとあると、なんともいえない気持ち。


「中身は……ははは、小銭が少々、お札が数枚。あとカードか」


 入院前と全く同じだ。

 そして、栄養ドリンク……お、栄養ドリンクは10本まとめで一つか。これ、俺が病院の売店で買ったやつだ。隔離される前に買ったんだよな。


「病院着……これはいい思い出ないからいいや。見舞いの果物……ああ、ばあちゃんから」


 ばあちゃん、俺が隔離された病院から近いところに住んでて、心配だからって来てくれたんだよな。当時は何とも思ってなかったけど……ああ、なぜか目頭が熱くなる。

 見舞いの果物。リンゴにバナナ、メロン、パイナップル、ブドウ、キウイ、みかん、オレンジ、桃缶やチェリー缶、果物ナイフなんかも入っている。


「うっ……うう、ばあちゃん」


 うわ、涙出てきた……くだもの、ありがとう。


「食べるのもったいねぇな……せっかくの食料だけど」


◇◇◇◇◇◇

スキル『緊急生産』に登録されました。

〇栄養ドリンク

〇見舞いの果物

◇◇◇◇◇◇


「…………は?」


 緊急生産?

 ああ、そんなスキルあったっけ。使おうとしてもなにも表示されないから放っておいたスキル。でも……登録? なにこれ?


「……緊急生産」


◇◇◇◇◇◇

《緊急生産》

〇栄養ドリンク

〇見舞いの果物

◇◇◇◇◇◇


「……ああ、そういうことか」


 このスキル、売る物がない場合、登録した商品を魔力を使って生産できるんだ。

 まだ時間あるな……よし。


「緊急生産、栄養ドリンク」


 そう呟くと、栄養ドリンク10本セットが床に落ちた。


「緊急生産、見舞いの果物」


 さらに、見舞いの果物がバスケットで床に現れた。

 ばあちゃんからの見舞いの果物、同じのが二つ……一気に感動が薄れたわ。

 緊急生産で出した果物を掴み、匂いを嗅ぎ……リンゴをかじってみた。


「うまっ! んん、ちゃんとしたリンゴだ。おおお……これ、いいじゃん。ん?」


◇◇◇◇◇◇

道具屋 レベル5

従業員 0

商品 食料品 レベル1

◇◇◇◇◇◇

 

 おお、食料品って表示された。

 でも、最初の商品が栄養ドリンクと見舞いの果物ってのもな。

 まぁ、これで道具屋としての第一歩を踏み出したわけだ!


「でも……客なんてこない。ってか、ここどこだ? 今の俺って山小屋にいる遭難者と変わんねーぞ」


 ため息を吐くと、どっと疲れてきた。

 ああ、緊急生産のおかげで魔力を消費したのか。ただ人間形態でいるなら20分はいられるけど、緊急生産を使うと一気に魔力が消費される。

 

「とりあえず、収穫ありってことで」


 そこそこ満足し、俺は再び《小屋》に戻った。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、出会いというのは突然だ。


「よし! レベル8!」


 レベルが8になった。

 まぁ、魔力が上がっただけで変わりない。

 魔力も満タンになり、緊急生産で栄養ドリンクでも出そうかなと思っていると。


「ん?」


 ガタガタッ……と、ドアが動いた。

 一気に背中が冷たくなる俺。

 そして、ドアが一気に開かれ───そこにいたのは。


「た、助け、て……」

「え」

「っく……」


 お姫様っぽい少女と、傷だらけの老人?……じゃないな。鎧着てるし騎士か? 老騎士だ。

 お姫様は真っ青で、今にも気を失いそうに見える。老騎士はボロボロ……ああこれ、異世界でいう《追われてるお姫様と騎士》ってやつだ。

 俺は何をどう言えばいいのか、ちょっと混乱していた。


「あ、いえ、その───い、いらっしゃい、ませ?」


 こうして俺は、道具屋として初めての《お客様》を迎えたのだった。

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