1章 転生 5

「伝令です。先に転生した勇者の"1度目の死亡"を確認しました」


魔王は、玉座の間の大窓から外の景色を見ていた。

その孤島は年中どんよりとした曇り空に覆われており、晴れ間がさした事は一度も無い。

そのせいもあり、まだ昼間だと言うのに燭台の灯を辿らなければならない程、玉座は暗闇に満ちている。

その絶海の孤島は、文字通り周囲を荒れ狂う海域と暴風に覆われ、誰一人として無事に辿り着けるのもはいないだろう。

魔王城はそこに聳え立っている。

地の利を活かした完璧な城。

それ故の孤独。

魔王は、変わり映えしない激しい波の音に辟易としながら外の景色を見る。

荒れ狂う波。絶壁を侵食しようと轟音を立ててぶつかる。

この孤島は、魔王の力によりそれ以上波に侵食されない様になっている。

だから、無駄なのだ。

幾らぶつかって来ようと、無駄なのだ。

なのに絶え間なくぶつかって来る。それは抗えようのない自然の摂理。どうすることも出来ない。

そんな世界が。そんな理が。

たまらなく嫌いだった。


そんな憂鬱を切る様に、伝令は柱の影から音も無く姿を現した。


「ほう、予想より早いな」


魔王は先程までの考えを払拭すると、興味が湧いたのか伝令に向き直り、腕を組みながら応えた。

伝令は跪いたまま続ける。


「ゴブリン族が殺害。黒髪に黒い瞳、痩せ型で筋力は無い模様。装備はいつも通りトゥレンディアで支給された物ですが、ゴブリン族がある程度奪った様です」


「そうか」


途端に魔王の興味が削がれた様だった。

気怠そうに玉座に着き、小さい溜息をついた。


「特筆した能力は無い様だな」


伝令は、言いたかった事を先に言われてしまい、仕方なく、『その通りでございます』と渋々言った。

自分が、魔王の興味を削いでしまったと思い恐怖しているのだろう。

それか役に立てなかった自分を叱責しているのか。

伝令の息遣いが多少荒くなったのを魔王は感じた。


「下がって良い。監視を怠るなよ」


御意。と小さく応じた後で、伝令はその場から消えた。

独り、玉座から大窓を見る。

どんよりと垂れ下がる雲は低い。もうすぐここは嵐になるだろう。

しかしそんな事はどうでも良い。何せ外に行く事は殆どない。

孤独。

魔王は、孤独を感じる事はなかった。

ただこの世界にうんざりしていた。

対してこの世界の何かが嫌いだとか。憎悪するとか。そんなものは無い。

只、早く


「終わりにしなくては」


と思うだけだった。

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