1章 転生 3

一寸先も見えない闇の中を歩く。

足場がどうなっているか。何かにぶつかりはしないか。そんな心配は微塵もない。

しかし、ゆっくりと、一歩一歩踏みしめる様に進む。

やがて歩いた側から、青白い炎がポツポツと点灯する様に現れる。

仕掛け等はどうでもいい。

見慣れた光景だ。

やがてその炎は男を追い越し、目の前を照らしていった。

円状に広がり、何かを囲む様にポツポツと広がるそれは、中央にあるものを称える様に燃え盛る。

青白い光に照らされたそれは、巨大な水晶だ。

人の背丈の2倍以上はあるだろう。鎌を持った死神の像が、大事そうに水晶を抱えている。

悪趣味。

死神の顔は見えない。

しかし、それはまるで我が子を抱く母の様な慈愛に溢れている。何をもってそう感じるのか理解出来ないが、男はその考えを否定する気にはならなかった。

大切に、護られている。

羨ましいのか、恨めしいのか。

その水晶像を見て、人はどう言った感情を現すだろう。

やはり、悪趣味と蔑むだろうか。

ゆっくりと水晶に触れてみる。男は何も感じなかった。

やがて呼応した様に、水晶の中に光が現れた。

光は鼓動し、徐々に大きくなり、やがて一定の所で止まった。

男は水晶に触れたまま、無感情のままその様子を見ている。


「・・・魔王様。お取り込み中のところ申し訳ありません」


「良い。何用か」


魔王と呼ばれた男は、闇からの声に視線だけ向けながら言った。

いつの間にか、後方の闇の中に跪く何者かの姿があった。

漆黒のローブにフードをかぶっているのに、闇に溶けることなくその姿ははっきりとしている。


「伝令です。"また"勇者が召喚されました」


魔王は視線を水晶に戻すと、そうか。とその伝令に下がるよう手を振った。

途端に伝令の姿は闇に溶ける。完全にその気配は無くなった。

静寂が戻る。水晶の光は先程と変わらず一定のままだ。


「まだ、という事か・・・」


魔王は踵を返して歩き出した。


「この世界の終焉は・・・」


魔王はその声と共に、完全に闇に溶けた。

青白い炎も、まるで付いて来る様に消えていく。

やがて、水晶の光も弱くなり、消えていった。

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