見てるだけの拷問 (Cruciatestisoculus)

「天使のようだまるで君は」と

 厭悪のような褒め言葉も

 お前にとってはもはやそうと

 言うしかない類のものなんだな

 ただ人として創られた者を 

 なぜわざわざ天使などと

 呼ばわるかと思っていたが

 解ってきたよ近頃不本意ながらも


 お前は女のたをやかな身振りを

 押し着せて恍惚うっとりしながら

 ひとたび口をきくと浴びせ始める

 益荒ますら いや魔羅まら擦り男の

「お前はそんなことを言うべきじゃない いやそんなことを言うならお前じゃない」

 的な充血しきったののしりを

 つまりお前は見ない言わない聞かない

 空っぽの身体を求めてる それが「天使」さ


 おかしいよな 清く美しく尊いものを

「天使」に仮託しておきながらも

 それはお前が自分の汚れを

 擦りつけるためのナプキンなのか

 言うがお前は女の存在を

 一度も歓んだことなど無い

 歪んだ「天使」をこの世に下ろすための依代が欲しいだけだ


 ただの人だよ お前も もちろん彼女も

 それだけのことがお前には堪え難いかね?

 生の者ども 答えよ どちらなんだよ

 美しいと思ったものを汚すのか

 汚したものを美しいと思うのか?



 こう言ったとしても身に憑いた嗜癖は

 拭い去りがたいものだから

 お前はまた繰り返すのだろう

 御為ごかしの罪罰ごっこを

「自分はこの程度だから仕方ないんだ」と

 思春期ごろの思い知らされを

「みんな俺と同じくらい卑屈になれ」と

 押し付けてしまうのがお前流さ

 

 残念だが誰もお前の

 苦悩なんか美しいと思わない

 きれいはきれいで きたないはきたない

 お前がどちらであるかは言うまでもない

 汚物にまみれた娼婦だけが

 いと尊き天使になれるってか

 コインの裏表くるくるご苦労さん

 ガチャも引けねえよそんな小銭じゃさあ


 恐ろしいよな 他人ひとは鏡だぜ

 誰かを通して自分を見てるんだ

 そこに映ってるものは美しいか? だが

 付き合わされる側はたまったもんじゃない

 そうやって自己愛は伝染うつるんです

 お前のは雑で幼稚な鬱なんです

 臍の緒まだ切れてないデカ胎児

 ママのおっぱいもう出ないし


 ただの人だよ お前も もちろん彼女も

 それだけのことがお前には堪え難いかね?

 生の者ども 答えよ どちらなんだよ

 美しいと思ったものを汚すのか

 汚したものを美しいと思うのか?



 結局 お前も彼女も天使じゃない

 それで何? 事は大して変わるかい?

 お前は愛してもいないものを見てただけ

 いや見てもいないものを愛してただけだ


 知恵をひとつ 自分の姿は自分じゃ見えない

 眼球は身体の外に取り出せない

 だから誰かの目を借りるしかない

 映った姿を信じるしかないさ


 つまり「本当の自分を見てみたい」ってのは

「神になりたい」って言ってるのと同じさ

 ああ だから「天使」とか言っちゃうのか?

 落語みたいなオチだな こりゃあまた


 まあ何にしてもお前はこれから

 ガタガタになるほどのものを見ることになる

 それは他人ひとから見られたお前の姿

 片時かたときも目を離せるはずがないさ



 彼我見は砕け 目廢めしいて お前は釘付け

 ボク・アナタ・カノジョ 人称無くなったよ

 ただ見分けつかん誰かが見てるだけ

 誰かに見られてるだけ

 見られてる誰かを見てるだけの誰かに見られてるだけの拷問

 


────────────────────

https://youtu.be/welstxRa9Ps

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