第118話 結婚式
ベストカップルコンテストも終わり、ついに始まる兄さんと義姉さんの『結婚式』。
「新郎秀一、あなたは唯華を妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦唯華、あなたは秀一を夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
続いて義姉さんもまた、同じく。
式は、恙無く進行していきます。
普通の式であればベールガールの役割は入場までですが、今回は式の間も諸々サポートさせていただく都合上私も未だ傍らで待機中です。
つまり……この神配信を、最も近くで生視聴出来るということ!!
「では、ベールをあげてください」
本来ならば次は指輪の交換だったかと思いますが、今回は無し。
兄さんが、ゆっくりと義姉さんの顔を覆っているベールを上げていきます。
こちらからでは、兄さんのお顔しか見えませんが……ふふっ。
ちょっとの間だけですが、義姉さんにまた見惚れていましたね?
実の妹の目は誤魔化せませんよ?
そして、いよいよ……。
「誓いのキスを」
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
来ました本日の配信のメインイベント!!
心のハードディスクに最高解像度でぶち込みますよ!
兄さんが、徐々に義姉さんへと顔を近づけ……っといけません、義姉さんの真後ろとなるこの位置では肝心の場面が見えないではありませんか!
寸止めとはいえ、推しカプの誓いのキスを見逃すなどあってはならないこと!
急いで位置調整を……!
「っ!?」
あっぶない……!
慌てて動いたものだから、ドレスを踏んで転びそうに……!
こんなところですっ転んだら、式を台無しにするという一生モノの罪を背負うところでしたが……。
ギリギリで前方に手を付くことで、どうにか事なきを得ました……!
………………んんっ?
前……方……?
♥ ♥ ♥
誰かに、トンと背中を押されて。
♠ ♠ ♠
柔らかい感触が、そっと。
♥ ♥ ♥
♠ ♠ ♠
重なった。
♠ ♠ ♠
誓いのキスは、三~五秒くらいがいいそうだ。
儀式的な理由というよりは、せっかくのシャッターチャンスが短すぎないようにって配慮らしいけど。
……なんて。
どこで誰から聞いたのかも思い出せない話がふと頭をよぎったのは、たぶん現実逃避の一種なんろう。
驚きのあまり固まってしまった俺たちが、結局何秒くらい繋がっていたのかはわからないけれど……体感では、結構な時間そのままで。
ふと我に返った俺が、ゆっくり離れた。
目の前の唯華は頬をほんのり上気させており、なんだかポヤッとした表情だ。
目がちょっと潤んでいるのは、俺とのキスが泣く程イヤだったから……というわけではなさそうなのが、せめてもの救いである。
離れた後も、俺たちはしばらくぼんやり見つめ合っていた。
それから、ふと。
会場の大きな声が耳に入ってきて、今まで世界から音が消えていたことに気付く。
この辺りで、俺の頭もようやく少しだけ冷静さを取り戻してきたようだ。
この『事故』の原因には、なんとなく見当が付いている。
そちらに、そっと目をやると……
かと思えば、なぜか穏やかな……とても穏やかなアルカイックスマイルを浮かべて。
「腹を切ってお詫びします」
「切らんでいいっ!」
胸ポケットに差してあったボールペンを振り上げて自らの腹にぶっ刺そうとするので、慌てってその手を掴んで止めた。
「離してください兄さん! かくなる上は死を以て償うしかありません! いえ死ぬ程度では生ぬるい! コキュートスの奥底で我が魂が永劫の苦しみに苛まれるよう閻魔大王様に直談判して参ります!」
「閻魔様も困惑するからやめなさい……!」
「てかワンリーフちゃん、ボールペンじゃ死ねなくい?」
「おぅ? このワンリーフ、魂とボールペン一本で見事腹をかっさばいてみせますが?」
「
「別に煽ったつもりなじゃくて、今のは普通のツッコミだったんだけど……」
「てかとりあえずマイク切って!」
「あいあーい。はいオッケー」
「この私が……! この私が、解釈違いを自ら……! いえ、今はそんなことはどうでもいい……! 兄さんと義姉さんの大切な初めてを、このような形で……! やはり、どう考えても最低でもとりあえず死ぬ必要はあります!」
「必要ないから落ち着いて一葉ちゃん! ほら、どうせ『本番』ではするんだしっ?」
「そうそう、予行練習になって良かったくらいだ……!」
なんて、てんやわんやで一葉を宥める間にも。
俺の唇には……ずっと。
さっきの柔らかい感触が残っているのだった。
♥ ♥ ♥
「ホントそう、むしろ一葉ちゃんに感謝だよっ!」
秀くんに乗っかる体で。
一葉ちゃん……ホンッッッッッッッッッッッッッッットありがと~~~~~!
と、私は本当にマジで心の底から一葉ちゃんに感謝していた。
ねぇ私、ホントに秀くんとキスしちゃったんだよね!?
夢じゃないんだよね!?
わっひゃぁ……!
一葉ちゃんを止めるのに必死じゃなかったら、頬が緩みっぱなしになってるトコだよぉ……!
そういう意味でもありがとう一葉ちゃん!
もしかして……これで秀くんも私のことをちょっとは意識してくれるようになったりとか、あるかもっ?
キスから始まる恋人関係、アリだと思いますっ!
なんて、煩悩全開で考えていても。
さっきのロマンチックな感触は……今もずっと。
私の唇に残っているのだった。
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