第115話 俺的ベスト胸キュン台詞

 二つ目のアピールタイムは、司会である華音ちゃんの言葉をそのまま借りれば『俺的ベスト胸キュン台詞』なるもので。


「あまーい!」


「女子なら言われてみたい台詞ですね」


 それぞれ気持ちが伝わってくる良い言葉だったけど、各組短めにまとまっていて俺たちの一組前のカップルまで早くも終わってしまった。

 やべぇな、まだ何を言うか決められてない……。


 ていうか『彼女キュンとさせる台詞』を言えというこのお題、俺たちの『付き合ってない男女』っていう設定だと無理がないか……?


 えーと、普通の男女でも言うような台詞って……。

 ……いやそうか、むしろ難しく考え過ぎてたな。


 つまり、俺が普通に唯華に言うことを想定すればいいんだ。

 キュンとさせるのは無理かもだけど、とりあえずそれっぽいこと……というか、普通に今考えてることを……。


「今日、凄く可愛いね」


「ふふっ、ありがと」


 伝えてみると、唯華は余裕のある笑みを浮かべた。


「でも、今日だけなのかなー?」


 なんて、イタズラっぽく反撃してくる余裕っぷりだ。


「ごめんごめん、いつも可愛いけどね? でも……」


 流石にここまであっさりで終わっちゃうと、趣旨に反する気がするし。


 もうちょっとだけ踏み込んでみて……。



   ♥   ♥   ♥



 秀くんは、そっと私の耳元に唇を近づけて。


「毎日……昨日の君より、もっと可愛くなってるからさ」


 おんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


 だから、低音イケボは禁止カードなんだって!


 しかも、内容が……!

 嬉しすぎる……!


 私だって自分磨きしてるし、それをわかってくれてるんだなって感じで……!


 …………ヤバヤバっ、あまりに不意打ちすぎて固まっちゃってた!


 えっ、やだ、ていうか私、表情取り繕ってない!

 絶対今、ザ・恋する乙女って顔で真っ赤になっちゃってるよー!


 ウソ、こんなとこで私の気持ちがバレちゃうの……!?


「っ……!?」


 ほら、秀くんビックリした顔しちゃってるぅ……!


 ……うん?


 かと思えば?

 皆からは見えない角度で、ニヤリと笑って親指グッ?


 ……?


 ??


 ……あっ。

 もしかして……『ナイス演技』ってこと!?


 趣旨に沿って、キュンってした演技してるって思われてる!?


「やだイケメンっ! 私にも言ってほしいな~っ!」


「素敵なキュンを、ありがとうございました」


 ま、まぁ、とにかく気持ちがバレたんじゃないなら良かった……。


 ……いやこれ、ホントに良かったのかなぁ?


「続きましては、イチャイチャターイム! こちらはシンプルに、普段通りのイチャイチャを見せていただければと思いまーすっ!」


「シチュエーションの指定はご自由に」


 もしかして……今まで私が、からかう体だったりで取り繕い続けてきたせいでさ。


 ガチのリアクションしても、秀くんに信じてもらえなくなってない……?



   ♠   ♠   ♠



 唯華の演技派なリアクションのおかげで、俺が滑ったような感じにもならずに済んで。

 続いても、各カップルがそれぞれのアピールを重ねていく。


「ナーイスなイチャイチャでしたー!」


「どのカップルも砂糖を吐きそうになってしまいすねもっとやれ」


 しかし、イチャイチャ……イチャイチャねぇ……?


 まぁ俺たちの肩書き的に、それこそいつも通りに過ごせばいいのかな……?


「それでは続きまして、秀一&唯華カップル! どうぞっ!」


「シチュエーションの指定などはございますか?」


「えーと、じゃあ……」


 唯華と目を合わせて、頷き合う。


『家で二人きり、で』


 特に打ち合わせもしてなかったけど、意見はやっぱり一致していた。


 椅子を二つ持ってきてもらい、並べて座る。


「………………」


「………………」


 お互いにスマホをイジる、イチャイチャとは程遠い空気。


 今回も流石にこれだけど、趣旨に反すると思うので……。



   ♥   ♥   ♥



 ツン、と小指に当たる肌の感触。

 それから、ゆっくりゆっくり手が重なっていく。


 触れあったところから、ジワジワ熱が広がってくみたい。


 お互い、もう片方の手はスマホを握って目はそこに向けたまま。


 でも、意識は手の方に持ってかれてて……。

 ギュッと秀くんが恋人繋ぎで握ってくれた瞬間、私の心臓も握り潰れされたかと思った……!


 だっていつもは私の方から繋ぎに行ってるから、秀くんの方から積極的に来てくれるとホントにキュンキュンしちゃう……!


『ん゛んっ……!!』


『!?』


 なんて思ってたところに、観客席から一斉に謎の呻き声が上がって私たちはビクッとなった。


「ここで会場が一体となったぁっ! エゲつないエモみによって、大虐殺が発生中ぅ!」


「悔いのない死に様です……」


「たった今、会長も尊死されましたっ!」


 えっ、そんな言うほど?

 だって、他のカップルの方がもっと大胆なことしてたし……こんなの、軽いスキンシップの類だと思うんだけど……。


「付き合ってない二人からしか摂取できない栄養素が、確かに存在する!」


「お互い照れながらもそれを表には出さず、けれどしっかりと手は繋ぎ合っているところに『絆』を感じられてエモポイントが高いですね」


 よくわからないけど、なんかそういうことらしい。


 えっ、ていうか私が照れてたのってなんで会長さんにバレてるの……!?

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