第114話 一つ目のアピールタイム
華音ちゃんからのお願いを受け、ベストカップルコンテストに人数合わせとして参加することになった俺と唯華。
「さぁ、いよいよ始まりますベストカップルコンテスト! 果たして、最強のバカップルの称号を手にするのはどのカップルか! 司会は私、烏丸華音と!」
「財前沙雪でお送りして参ります」
ハイテンションな華音ちゃんと、静かな調子ながらもよく通る財前会長の声が聞こえてくる。
バランスの良い司会コンビを、俺たちはメインステージの舞台袖から眺めていた。
「なお今回はポイント制などではなく、全てのアピールタイムが終わった後に観客の皆さんからの投票によってベストカップルを決めていただきまっす! 皆さん、どのカップルに入れるか考えながら楽しんでくださいねっ!」
「ベストカップルを決めるのは、ステージの前の貴方たちです」
この方式は勿論、事前に委員会で話し合って決めたものだ。
ステージ上で完結するより、観客参加型の方が盛り上がるだろうということで……。
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
果たして狙いは上手くハマったみたいで、会場はのっけから盛り上がりを見せていた。
これまでのステージで場が温まってるっていうのも大きいだろう。
「それではご登場いただきましょう! 最初のカップルは、付き合って一年目の──」
さて、いよいよ参加者の出番のようだ。
♥ ♥ ♥
順番にカップルがステージ上に出ていって、軽い自己紹介や馴れ初めなんかを話す中。
「最後は、九条秀一&烏丸唯華ペア! この二人は、付き合って……ません! 文化祭実行委員からの特別参加枠でーすっ! 付き合ってない男女なんてこんなもんだよねっ、という基準となっていただきます!」
華音に呼ばれて、私たちも少しぎこちない笑みを顔に貼り付けてステージ上に出る。
「それでは、自己紹介と意気込みをどうぞっ!」
司会席からマイクを向けてくる華音だけど、あれはハリボテ。
全員にピンマイクが付けられてて、これで声を拾っている。
「三年八組の九条秀一です。普通に、普通の男女として振る舞いたいと思います」
「同じく三年八組、烏丸唯華です。審査の参考にしてくださいねっ」
秀くんと一緒に、そんな適当なことを返しておいた。
「お二人、ありがとうございまっす! それでは早速、一つ目のアピールターイムっ!」
今回、アピールタイムは四回を予定している。
一個目は確か……。
「見つめてスリーミニッツ!」
んんっ……? なんか、聞いてたのと違う気がするんだけど……?
相手の好きなとこ何個言えるかな、とかじゃなかった……?
……あれ?
でも会長さんも何も言わないし、私の記憶違いなのかな……?
♠ ♠ ♠
……聞いてたのと、なんか違うんだが?
内容を予め知ってる俺たちに影響が出たりしないように、とかって直前に変更されたのかな……?
にしても、見つめてスリーミニッツ?
どういう内容なんだ……?
「さてこのアピールタイムでは、その名の通り三分間見つめ合ってもらいまーす!」
……?
それだけ?
照れちゃ駄目とか、目を逸らしちゃだめとか、そういうことなのかな……?
「それでは各組、向かい合ってー? スタートっ!」
とにもかくにも、言われた通りに向かい合って唯華と見つめ合う。
……いつも見てる目ではあるけど、こんなにジッと見つめるのは流石に初めてで。
「なんだか、ちょっと恥ずかしいねっ」
「……だな」
マイクに入ってしまわないよう、小声で囁き小さく笑みを浮かべ合う。
それにしても……改めて、綺麗な瞳だ。
宝石みたいにキラキラ輝いて見えるそこに、俺の間抜け面が映ってしまっているのが少し勿体なく感じる。
いつまでだって見てられるし、いつまでだって見ていたいな……。
♥ ♥ ♥
嗚呼、なんて素敵な瞳。
意思の強さが伺える真っ直ぐな目が、今は私だけを映してくれている。
ずっと……私だけを見てくれたら、いいのにな。
はぁっ、それにしても麗しくて愛おしい……いつまでだって見てられるし、いつまでだって見ていたい……この機会に、存分に堪能……。
「はーい、三分経過でーすっ!」
えっ、もう三分経ったの? まだ三十秒くらいじゃない?
……ていうか、結局これで何がアピールできたんだろ?
「一秒、三秒、九秒、二十一秒、二分二六秒! なんの数字か、わかるかなっ?」
ん……?
なんだろ、法則性も特にない気がするけど……。
「会場の皆はわかるよねっ? 正解は、私が各カップルの周囲をウロチョロした時間、でした! ちなみに私は、お二人のどちらかから目を向かれた時点で移動してまーすっ」
そんなことしてたんだ……でも、まぁ。
「一秒て。たぶんアレでしょ? 最後に私たちのとこに来る途中で、タイムアップになったから引き返したとかでしょ?」
「確かに、周囲にそんな気配感じなかったしね」
「違うわお宅が二分オーバーだっての! めちゃめちゃ二人の回りをグルグル歩いたし横で激しくブレイクダンスまで踊ったわ!」
「うっそ……」
「マジか……」
全然気付かなかった……。
「二人の世界に入っちゃってたもんねーっ?」
「きょ、競技に集中していただけなので……!」
「そ、そうそう! そういうルールなんだもんねっ!」
「にひっ、確かにね?」
「流石、実行委員の二方は真剣にお題に取り組んでいただいていますね」
なんかやけに嬉しそうに笑う華音と、真面目な顔で頷く会長さん。
一応、フォローはしてくれるんだね……。
「それではそれでは、続きましてのアピールタイムはっ? カノジョをキュン死させちゃおう! 俺的ベスト胸キュン台詞~!」
イエーイと華音が手を振り上げると、観客席から大きな拍手が送られる。
「これまたその名の通り、カレシさんはカノジョさんをキュンッ♡ とさせる台詞を言ってねっ! 今回は、フリースタイルでーすっ!」
「カノジョさんのリアクションも見どころですね」
ていうか、また事前に聞いてたのと違うやつに変わってるんだけど……。
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