第111話 二人の今日には

 カップル限定イベントも、どうにかこうにか乗り越えて。


「ねぇ次、あそこ行ってみよっ」


 引き続き自分たちのクラスを宣伝しながら校内を回っている中で、唯華がふと前方を指す。


 二年生の教室前に設置された、目立つ大きな看板には……。


「占いの館、か」


 と、書かれている。


「確かに面白そうだ」


「ワンチャン、何かヒントになるかもだし……」


「ヒント……?」


 唯華の発言に、俺は首を捻った。


「や、なんでもっ。ほら、行こ行こっ」


 露骨な誤魔化しではあったけど、追及はしないでおく。


「おぉっ、なんか本格的だねっ」


「雰囲気あるね」


 ライトの使い方が良いのか、中はちょっと薄暗くも神秘的な空気感だった。

 アロマの香りもそれに寄与しているみたいだ。


 教室内は幾つかのブースに分かれてて、入り口に掲示された説明文を見るとカーテンが開いてるブースが今入れるところらしい。


「あそこ、空いてるね」


「他は……埋まってるか」


 というわけで、唯一空いていたブースに入ると。


「ようこそ、占いの館へ……おっと?」


 厳かな声の最後が、ちょっと可愛く跳ねる。


 俺も、少しだけ驚いていた。


 たまたまた入ったとこに、知り合いがいるは思ってなかったから。


「財前会長、よくお似合いですよ」


「ここ、会長さんのクラスだったんだーっ」


 いつものキリリとした雰囲気に、黒いローブがよく似合っていた


 ……言う程いつもキリリとしてたか? という気もしなくはないけど。


「お二人も、凄く美しいですよ。そうしていると、人外夫婦みたいですね」


 割と真実を言い当てている発言に、ギクリと頬が強張りかけるのをどうにか堪える。


「ははっ……ご存知かと思いますが、ウチのクラスはコスプレ喫茶をやっていまして。俺たち二人、宣伝を押し付けられたんですよ」


「おっと失礼。九条先輩には、大切な許嫁さんがいるのでしたね」


 言外に望んで二人でいるわけないことを匂わせると、ちゃんと伝わってくれたようだ。


 まぁ、その『大切な許嫁』に当たる存在が隣にいる彼女で合ってるんですけどね……。


「私のはタロット占いなんですが、何か具体的に占ってほしいことなどありますか?」


 尋ねながら、財前会長は慣れた手付きでカードをシャッフルしていく。


「実は、趣味でやってまして。結構当たると評判なのですよ?」


 俺の内心を見て取ったか、財前会長は少しイタズラっぽく笑った。


「占いの内容……烏丸さん、何かある?」


「うーん……会長さんに、お任せでっ」


 水を向けると、唯華はちょっと考えた末にそう言って親指を立てる。


「承知致しました。それでは、ざっくりお二人の近い未来について占ってみますね」


 カードをセットし、むむむと何かを念じるような表情で捲っていく財前会長。


 その手際を、感心の面持ちで眺めることしばし。


「ふむ」


 結果が出揃ったらしく、財前会長は一つ頷く。


「お二人には本日学校で、衝撃的な出来事が訪れる……と、ありますね」


「へぇ……二人共に?」


「えーっ、なんだろう楽しみーっ」


 ワクワクした様子を隠そうともしない唯華。


 一方の俺は、占いはそんなに信じる方じゃないけど……唯華と一緒にいると、衝撃的なことなんて割としょっちゅうだから。


 きっと、今日もまだまだ何かあるんだろうな……なんて思って、内心では結構ワクワクしているのだった。



   ♥   ♥   ♥



 会長さんとサヨナラして、占いの館を出る。


「衝撃的な出来事ってなんだろなー、ドキドキするーっ」


「まぁ文化祭だし、何かしらのハプニングやらはあるかもね」


「と見せかけて、文化祭中には何も起こらないかもっ?」


「なるほど、後夜祭でって可能性もあるか」


「そーそーっ、最後まで気が抜けないっ」


 なんて、笑い合う私たちは……まだ、知らなかった。


 この後、予想よりずっとずっと衝撃的な……一生忘れられないくらいの出来事が。


 私達に、訪れるんだって。






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