第112話 間接◯◯
一通り校舎内と外の屋台なんかを回り終えてた俺と唯華は現在、メインステージの観客席に着席していた。
お目当ては……。
『デストロォォォォォォォォォォイ!』
ステージ上でシャウトしている、高橋さんである。
友人とバンドを組んで、有志枠で出演しているのだった。
友達に作曲出来る子がいるから今回はオリジナル曲で、作詞は高橋さんって話だったけど……。
『学校なんてぶっ壊せ! むしろ私がぶっ壊す! 壊せスクール! 壊せジャパーン! Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』
「高橋さん、実はあれでストレス抱えてたりするんだろうか……」
「めっちゃ良い笑顔で歌ってるけどね……」
半笑いの俺の横で、唯華も似たような表情だ。
「まーカラオケでもよくパンク歌ってたし、純粋に好きなんでしょ」
「ただ、文化祭で歌う歌詞じゃないんだよなー……歌詞と表情も合ってないし……」
「まぁ楽しそうだし、いいんじゃないっ?」
「そりゃそうだ」
高橋さんと友人たちは全員凄く楽しそうで、ならそれが全て。
何一つ問題なんてない。
高橋さんたちの演奏を、俺たちも楽しませてもらうことしばし。
『センキューでーすっ!』
汗だくながらも輝く笑顔と共に高橋さんたちが観客席に向けて頭を下げると、大きな拍手が送られた。
俺たちも、勿論全力で拍手している。
「それじゃ、そろそろ他のとこ行くか?」
尋ねると、唯華は「うーん……」と首を捻った。
「時間的には、このまま次まで見てっても良いけど……何やるのかな?」
確かに次の演目次第かな、と思っていると。
『ガールズ・デストロイヤーズの皆さん、素敵な演奏をありがとうございます』
今はメインステージを取り仕切っているらしい、財前会長がステージ上に現れた。
『続きましては、放送部主催のミスタコンです』
「へー、そんなのあるんだ?」
「毎年恒例のやつだな」
尤も、俺はこれまで一度も実際には見たことないけれど。
「面白そうっ。見てってもいいっ?」
「勿論」
だけど、唯華が見たいなら否と言うわけもない。
それに、今の俺は普通にこういう企画にも興味があった。
『ミスタコンの進行につきましては引き続き、わたくし財前が務めさせていただきます』
「うん……?」
財前会長の言葉に、唯華は再び首を捻った。
「放送部主催なのに、会長さんが司会進行なの……?」
「あぁ、財前会長は放送部の部長も兼任してるんだってさ」
「はえー、そうなんだ。すっごい忙しいそーっ」
「まぁ、実際物凄く忙しい人だけど……でも、毎日充実してて楽しいそうだよ」
「……へー?」
こないだ本人から聞いた話を伝えると……なぜか、唯華はジト目を向けてきた。
♥ ♥ ♥
「そんな話をするくらい、会長さんと仲良くなったんだねー?」
「そりゃ雑談くらいはするさ」
私がジト目を向けても、秀くんは涼しい顔で肩をすくめるだけ。
ていうか……実は準備期間中、ちょっとだけ思ってたことがあって。
「秀くんさー、なんか会長さんと話す機会やけに多くなかった?」
「そりゃ、俺が報告係だったし」
「でも他のクラスの人たちは、あんなに頻繁に報告してなかったでしょ?」
「報連相がマメなのに越したことはないだろ?」
「そんなこと言ってー。実は、会長さん自身が目当てだったりー?」
「……ははっ、そんなわけないだろ」
……んんっ?
いや、完全に冗談だったんけど……なんか今の反応、変じゃなかった?
えっ、まさかワンチャン本当に……なんてことは、思わないけれど。
実際、秀くんと会長さんの距離感ってなーんか妙な気はしてるんだよねー。
なんだろうな。
単純な先輩後輩の関係とも友人関係も違う、強いて言えば……『仲間』? みたいな?
そんな気安さみたいなのを感じるというか?
……あっ、もしや?
「烏丸さん。隣、いい?」
「おっ、伊達くん」
とそこで声を掛けられ振り向くと、クラスメイトの伊達くんの姿が。
柔道部所属の大柄男子だけど、部活外では自分の名字にちなんで伊達メガネを常用してるオシャレさん……が、めちゃめちゃちょいど良いとこに来てくれたよねっ。
「勿論、いいよ。伊達くん、足大変だよねー」
こないだ部活中に骨折しちゃった伊達くんの右足には、未だギブスが巻かれている。
「流石にもう慣れたよ。クラスの皆と……二人にも、迷惑かけちゃったけど」
「迷惑だなんて、思ってないってー」
「そうそう。思わぬ器用さを発揮してくれてむしろ助かったよ」
「明らか、衛太より戦力になってたよねー」
「ぶっちゃけ、最初の人選をミスってたな……」
「ははっ、ありがとう」
よし、会話が一段落した今がチャーンスッ。
「ねぇ、ところで伊達くん」
秀くんがステージに目を向け直したところで、私はこそっと伊達くんに話しかける。
「ちょーっとお願いがあるんだけど、いいかなっ?」
そして、伊達くんは私の『お願い』を快諾してくれて。
「ねーねー秀……九条くん、見て見てーっ」
今度は秀くんの腕をつんつんっと突付く。
「何……んおっ?」
私の顔を見て、秀くんはちょっとだけ驚いた表情になった。
その原因……伊達くんに借りた伊達メガネを、クイクイッと上げ下げして見てる。
「烏丸唯華、メガネモードっ」
「ははっ、よく似合ってるよ」
「……それだけ?」
「……? 可愛いよ」
「ふふっ、ありがとっ」
秀くんは、そう言ってくれたけど……反応としては、まぁ『普通』。
うーん、これは見込み違いだったか……ワンチャン、秀くんと会長さんがメガネフェチ同盟って可能性もあるかと思ったんだけどー?
「ん? はい、もしもし? 今から? 今ステージ来たとこなのに……まぁいいけど」
とそこで、隣から伊達くんのそんな声。
「ごめん二人共、部活の方でヘルプ頼まれたからもう行くね」
「あっ、じゃあこれ返すね。ありがとー」
「どうせ伊達だし、しばらく使ってくれててもいいよ?」
「んーん、やりたいことはやれたからっ」
「そう? なら良かった」
と、メガネを返すと伊達くんは松葉杖を突きながら去っていった。
「……メガネ、伊達くんに借りたんだ?」
そんな私たちの様子を見た秀くんは、なぜかちょっと微妙そうな表情?
「そだよー、似合ってたでしょ?」
「うん、まぁ、似合ってはいたんだ、けど……」
もにょもにょっと、秀くんの語尾がなんだか曖昧になっていく。
「……あんまそういうこと、男子と軽々しくしない方が良いと思う」
「? 何が?」
「その……間接メガネ、的なの?」
「ぶふっ!?」
突如出てきた謎ワードに、思わず吹き出しちゃったよね。
「あはははははははっ、間接メガネてっ」
「いや、笑い事ではなくて……」
「え? これ、まさかの真面目な話なの?」
秀くんは冗談を言ってるような雰囲気じゃなくて、私も思わず真顔になっちゃった。
「男子って、ホントそういうしょうもないことで勘違いする生き物だから……」
「メガネを貸したら、好きになっちゃうってこと? いやいや、流石にそれはないでしょー。伊達くんもそんな感じじゃなかったじゃんっ」
「伊達くんは彼女もいるわけだしね……でもメガネを借りるってことは、少なくとも嫌われてはないってことだろ?」
「んあー? まぁ、確かに嫌ってる相手からは借りないだろうけど?」
「そこから、『もしかして俺のこと好きなのかも……?』の勘違いに至るまでの男子の心の距離は……女子が考えているより、ずっと近い」
「はえー、そういうもん?」
「たぶん……なので、今後そういったことは控えるべき……かと、思います……」
「はいはーい」
……あれっ?
ていうかこれ、もしかしてさ。
秀くん……ちょっと、ジェラっちゃってる……とかっ?
ふふっ、なんてねっ。流石にそんなわけないかっ。
普通に、私の迂闊な行動を心配してくれてるだけだよねー。
いつものこといつものことっ。
♠ ♠ ♠
我ながら、小さい男だと思う。
唯華に今言ったようなことも、嘘のつもりはないけれど……正直、言い訳だ。
本音を言えば……さっき、ちょっとモヤッとしてしまったから。
身に付けてるものの貸し借りって、結構親しい感じがするし……いや勿論、二人の間にそんな感情が一切ないことはわかってるんだけども。
身勝手にも、思ってしまった。
あまり、やってほしくないと……俺以外とは。
俺って、こんなに嫉妬深い方だったのか……。
「はーっ、笑ったら喉乾いちゃった。それ、一口ちょーだい?」
「あっ……!?」
地味にヘコんでいる俺の手から、唯華がジュースのコップをひょいっと取る。
そして、躊躇する様子もなくストローに口を付けた。
「はーっ、美味しっ」
「だから、そういうことを気軽にするなと今申し上げたばかりなのですが……!?」
間接メガネはともかく、これは普通に男子絶対勘違い案件だからな!?
「安心してよ、これは流石にさ」
なんて言いながら、唯華は俺の耳元に唇を近づけくる。
「秀くん以外とは、しないからねっ?」
「っ……」
それは……唯華も、男子との距離感についてはちゃんと意識していて。
だけど『親友』は、その判定外……ということなのだろうけれど。
本当に……俺だって、勘違いしそうになってしまう。
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