第109話 バニーとハート
「カジノといえば、これでしょっ? ちな、私の提案でーす」
「この女にしては良い提案であったと言えましょう」
華音がバチンとウインクして、一葉ちゃんがそう続ける……けども。
「ねぇこれ、大丈夫なの……? 色んな意味で……」
「もっちろん、ちゃんと生徒会の承認も取ってまーすっ」
「合法バニーですので、ご安心ください」
「よく通ったね……」
思わず半笑いを浮かべてしまった私である。
まぁあの会長さん、お固く見えて実は結構そうでもないもんね……。
「中では各種トランプゲームにサイコロゲーム、ルーレットなど数々取り揃えております。なお、初期チップは十枚配布です……どうぞ」
と、一葉ちゃんが紙製のチップを手渡してくれる横で。
「チップを賭けてたーっくさん増やして増やして、豪華景品をゲットしてねーっ♡」
目のとこに横ピースを持ってきた拍子に、プルンッと『揺れた』。
華音のサイズだと布面積がいかにも頼りない感じで、今にも零れ落ちそうでなんか心配なんだけど……。
「ちょっとちょっとお客さぁん、あんまガン見しないでもらえますぅ?」
私にジト目を向けながら華音が腕で胸を隠すと、今度はむにゅうと形が変わる。
「これはぁ? もう、秀一センパイのモノなんでっ♡」
こ、これには流石の秀くんもドキドキしちゃうのでは……!?
「俺は、所有した覚えなんてないけどね」
良かった、クールぅ!
「だから秀一センパイなら、お触りもオッケーでっす!」
「その場合、文化祭実行委員として営業停止処分を下さざるを得ないね……でもその衣装は、凄くよく似合ってると思うよ」
「やたっ」
例によって華音には塩甘気味に対応した後、秀くんは一葉ちゃんへと視線を向ける。
「一葉も、よく似合ってる」
「ふふっ、私のあまりのせくしーさにやられてしまいましたか?」
「うんうん、もうメロメロだよ」
「仕方ないですね、私も兄さんなら少しくらいはお触りオッケーとしてあげます」
「うんうん、恐れ多いから遠慮しておくよ」
生暖かい視線で見守る秀くんとドヤ顔の一葉ちゃんが、そんな会話を交わす中。
「ねねっ、お姉お姉っ」
華音が、コソッと話しかけてくる。
「ジンクスの話って、知ってるっ?」
「巨大なハートのやつでしょ?」
「そそっ、知ってるなら話は早いっ」
と、華音が景品コーナーに目をやったので私もそちらに視線を向けると。
「ウチで、ご用意しちゃいましたっ」
そこでは確かに、大人がすっぽり収りそうなサイズのハート型クッションがめちゃくちゃ目立つ位置に陣取っていた。
「尤も、入手に必要なチップは少々お高めに設定させていただいてはおりますがー?」
「ふっ……誰に言ってるの?」
私ほど幸運な人間なんて、そうそういないと自負している。
何しろ……秀くんと、出会えたんだもんねっ?
あっ、でもワンチャンそこで運を使い果たした可能性も……?
♥ ♥ ♥
なんて、ちょっと不安に思ってた私だったけど。
「やった! ハート、ゲットー!」
「おめでとーっ! わーわーっ!」
「おめでとうございます、
なんか今日はかなり運が良かったみたいで、普通に大勝ちして割とあっさりハートのクッションを手に入れることが出来ちゃった。
「そんなにあれ、欲しかったんだ?」
「うん、だって……っ!」
微笑ましげな秀くんに、つい普通にジンクスのことを話しそうになって慌てて口を閉ざす。
どうにか良さげな言い訳を捻り出せ……!
「リビングにアレがあると、ゴロゴロするのに良いなーって思ってっ」
「ふふっ、確かにあれだけ大きいと寝心地良さそうだ」
良かった、上手く誤魔化せたみたい。
なんて思っていたら、ふと表情を改めた秀くんがハートのクッションを指す。
「ところであれ、持って帰れるの?」
「……あ」
ゲットするのに夢中で、そこまで考えてなかったけど……アレを背負って帰るのは、確かにまぁまぁしんどそう……。
「ご安心ください、郵送サービスもございます」
「わっ、至れり尽くせり~!」
一葉ちゃんがスッと差し出してくれた送付状を、ありがたく受け取る。
「あちらのカウンターでご記入ください」
「はーい」
一葉ちゃんの案内に従って、手続きを勧めていく。
んふふっ、これでついに秀くんと永遠に……永遠に……。
……うーん?
なーんかイマイチ、ピンと来てない感じー。
あっさり入手しちゃったから?
まだ実際に手にしたわけじゃないから?
それとも、昔からあるジンクスなのに生徒がやってるお店に答えがあるのは変だから?
その辺もあるけど……そもそも、『巨大』ってこのレベルでホントにいいのかな……?
うーん、ジンクスが曖昧だからなー。
慢心せず、文化祭終了まで更にでっかいハートの探索を継続だっ!
とはいえ、これ以上のサイズとなると物理的に『入手』不可能って気もするけどねー?
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