第102話 あなたの好きな
文化祭実行委員として、俺は忙しくも充実していた学校生活を過ごしていた。
そんなある日、唯華より少し遅れて自宅に帰ると。
「お帰りなさいませ、ご主人さまっ」
メイドさんに、出迎えられた。
突然現れた、押し掛けメイド……なんかではなく、勿論メイド服で身を包んだ唯華……なんだ、けど……。
「ねねっ。これ、どうかな? 似合うっ?」
その場でクルッと回る唯華。
丈の長いスカートが、ふわりと舞い上がる。
「文化祭で着る衣装、これともう一つで迷ってたんだけどさー。そういえば個人的に注文してたやつが昨日届いてたのを思い出して、実際に着てみましたっ。自前のを持ってけばちょっとだけど予算も浮くし、これにしようかなって思って……ねぇ、秀くん? なんでさっきから、真顔で黙ったままなの?」
……ハッ!? いかんいかん……!
ちょっと不安げに、上目遣いに見つめてくる唯華が……さっきから、可愛すぎる……!
衣装も似合いすぎてて、完全に見惚れてしまってた……!
そして、今になってめちゃめちゃドキドキしてきたんだが……!
ときめきで心臓が痛い……!
♥ ♥ ♥
「……ちょっとだけ待って」
と、秀くんは顔を背けてなぜか腕で隠す。
「……文化祭の衣装、それじゃない方のやつがいいと思う」
それから、絞り出すような声でそう言った。
「うーん、あんまり似合ってない感じかなー?」
「や、似合ってる! マジで似合ってるんだけど、ほらコンセプト的に!? それだと似合いすぎてガチのメイドさん感が強くて、逆にコスプレ感が薄いかなって!」
「あっ、そういうこと?」
さっきからずっとそんなこと考えてただなんて、相変わらず真面目なんだからっ。
「そういうことなら、ちょうどいいっていうか。実は、もう一つ用意してるのがあって」
メイド服を注文するに当たって
「お帰りなさいだわんっ、ご主人さまっ! わんわんっ!」
犬耳メイドさんとして、犬真似ポーズを取ってみた。
「これならコスプレ感もあるし、いいでしょっ?」
「……ダメ」
「えーっ、なんでー?」
一瞬確かにこっちに視線は向いたけど、秀くんはやっぱり顔を逸らしたまま。
「反則だから……」
「えっ? カチューシャ禁止とか、そんな規則あったっけ……?」
「そういうわけじゃないんだけど……とにかく、それはダメ……」
うーん、なーんか秀くんらしくないっていうか……頑なな割に、説明が雑だよねぇ?
「いや真面目な話、ダメならダメで理由を教えてくれないと納得しかねるんだけど?」
「………………同じ」
私が詳細を求めると、秀くんはこれまで以上に絞り出すような小声でそう言うけれど。
「同じ? 同じって、何が?」
やっぱり、その説明でも何のことかさっぱりだった。
「旅行の時の……水着と、同じ……」
「……あっ」
でも、そこまで言われて私もようやく理解する。
秀くんが言ってるのは、新婚旅行で私の水着姿を「他の人に見せたくない」って言ってくれた時のこと。
メイド服は全然露出がない衣装だから、すぐには結び付かなかったけど……今回も、そういうことだったんだーっ?
あっ、わかった!
『反則』っていうの、さてはメイド服×犬耳が秀くんの……『好きなモノ』×『好きなモノ』だから、威力が高すぎて反則ってことでしょー?
ふふっ……犬好きの秀くんだけど、犬耳も好きなんだー?
発見発見っ♪
「わかった、文化祭ではもう一つのにするねっ♪」
「……ん、ありがと」
小さく頷く秀くんだけど、よく見ると腕の向こうに見えるその耳は真っ赤に染まっていた。
私は、ニンマリ笑ってそこにそっと唇を寄せる。
「こっちのは」
元々、秀くんに見せるために買った衣装なんだし?
「秀くんだけに見せてあげる、特別なやつねっ♪」
そっと耳元で囁くと、秀くんはピクッと震えて。
「………………はい」
少しの沈黙の後で、掠れる声と一緒にもう一度……さっきより、ちょっとだけ大きく頷いた。
ふふっ、コスプレ一つでこんなになっちゃうなんて。
ホント、可愛いんだからっ。
私は秀くんが望んでくれるなら、いつだって、なんだって着てあげるんだからねっ♪
♠ ♠ ♠
あーもう、顔が熱い。
なのに……つい、チラチラ見てしまうから一向に心臓が落ち着く気配がなかった。
ホント、反則だ……。
『好きなモノ』×『好きなモノ』×『好きなモノ』なんてさぁ……。
―――――――――――――――――――――
中途半端なところで更新が空いてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
1月中頃から体調を崩し、緊急で3ヶ月ほど入院しておりました。
昨日無事退院致しましたので、更新を再開して参ります。
また、2/28発売の電撃だいおうじVOL.114より、本作『男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について』のコミカライズが連載開始しております。
もくふう先生にめちゃめちゃ可愛く描いていただいております素敵なコミカライズ版、是非ご覧いただけますと幸いです。
https://dengekidaioh-g.jp/magazine/magazine-10780.html
入院中でのコミカライズ連載開始だったため、今更なご報告となってしまいまして申し訳ございません。
小説版共々、どうぞよろしくお願い致します。
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