第93話 痛む胸

 華音ちゃんを説得するはずがなぜか唯華とのことで背中を押され、なんか逆に説得? されてしまって皆のところに戻ると。


「おかえりなさーいっ!」


 高橋さんが、ワクワクした様子を隠さず前のめりに出迎えくれた。


「どうですかっ、進展の方はっ? 進みましたかっ? 戻りましたかっ? それとも、一回おやすみですかっ?」


 ……なんか、すごろくの進展を聞かれてる?


 いやまぁ、高橋さんの言動に細かいツッコミを入れてたらキリがない。


「や、そういう話じゃ……」


「バッチリ! 六マス進んじゃいましたーっ!」


「おぉっ、なんと六マスですかっ!」


 ……なんか華音ちゃん、高橋さんと妙に波長が合ってるとこあるよね?


「裁判長! 被告人は虚偽の申告をしている可能性が濃厚です! 兄さんの弁護人として、証拠品の提出を求めます!」


「一葉ちゃん弁護人の申し出を認めますっ! 華音ちゃん被告人、何か証拠となるものを提出できますかっ?」


「強いて言うなら……この小指にしっかりと結ばれた、秀一センパイへと繋がる赤い糸が証拠かなっ? チュッ」


「おーんっ? そんなこれみよがしに口付けたところで、赤い糸など微塵も見えませんがーっ? 裁判長、被告人は幻覚を見ている可能性アリ! やはり先程の証言の信憑性は皆無です! とりあえず二十年くらいぶち込みましょうっ!」


「うーん……無罪っ!」


「っ……!? 裁判長、なぜですか!?」


「ウソついてるって証拠もないですしー」


「くっ……! 疑わしきは被告人の利益に……! 正しき裁判官としての判断……!」


 ……なんか一葉も高橋さんと波長、合ってるな?


 華音ちゃんはともかく、一葉なんて全然性格も違うのに。


 三人の共通項といえば……ちょっとアレなとこがいや理由はわからないけど・・・・・・・・・・、仲良きことは良きことだな、うん。


「ところでさっきの小指にキスするとこ、ワンリーフちゃんが前に上げてたオリジナル小説『赤い糸の先にいてくれますか?』の再現なんだけど気付いてくれなかったのー?」


「っ!?!?!? わかった上でスルーしているに決まっているでしょう貴女こそなぜ気付かなかったのですか私がちょっと赤くなってプルプル震えていたことをそれともまさか気付いた上で言ってますか裁判長あのなんかアレです辱め罪! 被告人は、弁護人辱め罪の現行犯逮捕です! 極刑のご判断を!」


「ワンリーフちゃん、アカウントはオープンにしてるって言ってたじゃん。そんな恥ずかしがることでもなくなーい?」


「何年前に書いた小説だと思ってるのですか! というか、そもそも! アレ上げたの、裏垢の方! 鍵かけてるやつ!」


「あー、そうだっけ? ごめんごめん」


 そんなやり取りを交わす二人を見ていると……思う。


「一葉……良かったな、本音でぶつかり合える友達が新しく出来て……」


「ねぇ九条くん、それは妹愛で瞳が曇りすぎてるのか現実逃避なのか、どっち?」


 しみじみ言うと、唯華にジト目に向けられた。


「……それで」


 それからさりげなく半歩近づいてきて、唯華は声を潜める。


「ホントは、どうなったの? 華音との話し合い」


 盛り上がる一葉と華音ちゃんに注目が集まる中、小声で尋ねてきた。


「えーと、結論から言うと……現状維持?」


 ということに、なるんだろうな……。


「ふーん? なら、いいんじゃない? これ以上、変に拗れたんでなければ」


 特に詳細を聞いてくることもなく、それだけ言って唯華はまたスッと離れていく。


 興味がない、ってわけじゃないだろうけど……もしかすると、

 妹と親友の恋愛にあまり干渉しないようにって考えてくれてるのかな?


 だとすれば……ありがた過ぎて、チクリと胸が痛んだ。



   ♥   ♥   ♥



 っっっっっっっっっっし!!

 現状維持なら、実質私の大勝利だよね……!


 考えられる最悪は、いやないってわかってるけど、確実にないんだけどね?

 考えられる可能性としてね?


 優しい秀くんが華音の一途な気持ちに絆されて……二番目ならまぁ、って受け入れちゃう可能性が微粒子レベルで……存在しないんだけど!


 ついつい、あり得もしないパラレルワールドに想像を馳せてしまう。

 そうなった時……それでもきっと、秀くんは私のことを一番に想ってくれるとは思う。


 でもそれは、『親友』で、名ばかりの『奥さん』だからで。


 『恋人』としての一番は、って考えると……あり得ない空想なのに、ズキリと胸が痛んだ。

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