第91話 まだまだ夏は終わらない
早くも、秋どころか冬にまでちょっと思いを馳せていた俺たちだったわけだけど。
「まだまだ夏は終わらない終わらせない! 全力でプールを楽しもう大会の開催を、ここに宣言しますっ! いぇーい!」
『いぇーい!』
現在、俺たちは高橋さんの号令の元で一斉に手を上げていた。
さっき高橋さんから、『ネット見てたら、オススメのプールを見つけちゃったかもですっ! 一番の目玉はウォタースライダーで、『怪我人が一人も出てないのが奇跡』って評判なんですよっ! 皆でどんなもんか確かめにいきましょーっ!』とお誘いいだいたのだ。
そうだよな……なんか勝手にもう夏が終わったような感じ出しちゃってたけど。
実際に終わるまでは、全力で楽しまないとだよなっ。
「唯華さん、その水着可愛いですねーっ」
「ありがとーっ」
ちなみに本日の唯華は新婚旅行の時の大胆な黒ビキニじゃなくて、フレア付きのハイネックビキニとビキニスカートって出で立ちだ。
「でも唯華さんなら、もっと大胆なのでも似合いそうですけどっ」
「ふふっ、ありがとね。でも今回はちょっと、あんまり肌は見せたくなくて」
「あー、それはわかるかもですっ」
うんうん頷いてる高橋さんだけど、黄色いバンドゥビキニは割と露出度高めである。
「特別な人以外には……ねっ?」
と、唯華は一瞬だけ。
こちらに、どこか意味深な視線を向けた。
今日の唯華が前の水着じゃないのは、俺が旅行の時に「他の人に見せたくない」とか恥ずかしいことを言ってしまったせい……かも、しれない。
いやうん、俺の自意識過剰で、普通に今日はこっちの気分だったとかかもしれないけどね!
いずれにせよ、本日の水着もとても良く似合っており……その傍にいる俺にも、周囲からの視線がめちゃくちゃ感じられた。
……まぁ今回に関しては、唯華だけが理由ってわけでもないだろうけど。
高橋さんも、健康的な魅力に溢れていて可愛いし。
「いやーっ、やっぱ夏といえば一回は女の子の水着を拝ませてもらわないとだよねっ」
言動はともかく、ツラの良い男もいる。
衛太に関しては脱ぐとちょっと引くレベルで鍛え上げられてるんで、そこも人目を引く一因だろう。
ここまでは、お馴染みの同クラメンバーだけど……。
「兄さん、どうしました? あっ、妹の水着姿に見とれてしまいましたか? ふふっ……兄さんなら、たっぷりガン見していただいて構いませんよ」
「うん、まぁ、うーん……」
微妙に反応に困る俺の視線の先でなぜかドヤ顔を披露している我が妹、一葉が着ているのは……スクール水着。
これはこれで、目を引く格好だと言えよう。
「ウチの指定水着、そんなベタなやつじゃないだろ……なんで持ってるんだ……?」
「兄さんがお好きかと思いまして。ご覧の通り、ちゃんと旧式ですよ?」
「お、おぅ……秀ちゃん、そんなこだわりが……」
「今回はマジのガチで誤解だから! ご覧の通りにわからないし、まず旧式って何!?」
「うん? 今回『は』ってことは、前回のメイド服は……?」
「ん゛んっ……! それは、言葉の綾ってやつだけども……! そんなことより!」
疑惑の目を向けてくる衛太だけど、俺は無理矢理に会話を打ち切った。
そして……。
「なんで華音ちゃ……華音さんがここに……!?」
若干今更ながらの疑問を、華音ちゃんに向ける。
着替えて集合したら、なんか自然な感じで華音ちゃんも混じってて……。
驚いてる間に高橋さんの号令が始まっちゃったから、言及するタイミングを逃してたんだよな……。
「来ちゃった♡」
「はい! 勿論、私がお誘いしましたっ!」
華音ちゃんがゆるっと、高橋さんがビシッと敬礼のポーズを取る。
「あぁ、唯……烏丸さん経由で、ってこと?」
「や、私も華音が来るの知らなくて。更衣室入ったらなんか普通にいて、驚いちゃった」
これは前回の旅行で一葉も来ているのを俺が知らなかったのと同様、高橋さんの仕込んだサプライズか……?
だとしても……。
「なら、どうやって連絡先を……?」
一昨日、教室で会った時は二人の絡みはなかったはずだし……あぁそうか、一葉に聞くって手があったか。
たぶん連絡先くらい交換してるだろうし……。
「昨日街でたまたまお見かけしましたので、連絡祭交換しちゃいましたっ」
ウソだろ……!?
ちょいちょい話す程度のクラスメイトでも声を掛けるか見なかったことにするか迷うシチュで、一回会っただけで話したこともない『友人の妹』に連絡先を聞いた……だと……!?
コミュ力に限界値が存在しないのか……!?
「陽菜センパイ、お誘いありがとでーすっ! 秀一センパイとプール、嬉しいなっ」
そして華音ちゃんは、毎度水着で腕に抱きつくのはやめてほしいんだよね……人目もあるし……いや、なければいいってわけでもないんだけど……。
「侍、今すぐその駄脂肪を推しから離さないと切り捨て御免ですが?」
「こんなの、ただのスキンシップじゃーん?」
「痴女の国の基準で語らないでくださいせっかくの神作画が駄乳に埋まって見えな……えっ、埋まって? 埋ま? 埋ま? 埋ままま? 腕が、胸に……埋まる? そんな事象が発生し得るのですか……!? オゴゴゴ……うちゅうのほうそくがみだれる……!」
「あはっ、ワンリーフちゃん宇宙に思い馳せる猫の顔真似めっちゃ上手いじゃんっ」
一葉が華音ちゃんを注意しようとしたみたいだけど、なんか途中でバグった。
ていうか、侍……?
ニックネームなんだろうけど、華音ちゃんのイメージとは結構離れてるような……まぁでも、あだ名ってそういうもんか。
「ワンリーフちゃん……? あっ、帰国子女だから何でも英語で言っちゃうキャラでいくわけですね! それじゃ私のことも、サンベジタブルと呼んでくれて構いませんよ!」
「いいえ陽菜先輩、ワンリーフは私のソウルネームです。そして『菜』ならgreensの方が適切かと存じます」
ともあれ、一葉もすぐに復旧したようだ。
「ねーねー華音ちゃん。そういうスキンシップ、オレにはしてくれないのかなー?」
いかにもチャい調子で自分を指す衛太は、華音ちゃんが離れるようにとフォローしてくれているんだろう……たぶん。
流石に、下心オンリーではない……と、信じたい。
「衛太センパイ、ごめんなさーいっ! 秀一センパイから、『俺以外の男にこういうことすんな』って言われてるんでぇ♡」
「秀ちゃん……?」
「んんっ、確かに似たような意味合いのことは言ったけども……!」
正確には、周囲にあらぬ誤解を与えたり相手に変な勘違いされることもあるだろうし、男を相手にこういうのはあんまり良くない……俺は勿論義妹相手にそんなこと考えないけどね、的なやり取りがあっただけである。
「あれっ……? もしかしてお二人って、もうお付き合いされ」
「陽菜先輩その解釈違いは私の唯一の地雷ですそしてあり得ない可能性です脳が破壊されるので口にしないでください」
俺たちのやり取りを見た高橋さんが疑問を呈しかけ、なんかめっちゃ早口な一葉に遮られた。
ちょっと目が血走ってるけど、大丈夫か一葉……というのはともかくとして。
「ごめん……ちょっと、華音さんと二人で話をしてきても良いかな?」
「はい、もちろんですっ!」
皆に尋ねると、高橋さんがちょっと食い気味に頷いてくれた。
唯華と衛太も、苦笑気味に頷く。
一葉は……なんだろう、一応頷いてくれてはいるんだけど……なんか唇を噛んで血涙でも流しそうな勢いで目を見開いてるのは、一体どういう感情なんだ……?
ともあれ。
一旦高橋さんの誤解が加速する可能性もある……というかたぶんそうなると思うけど、ここは飲み込んで早期対処を選ぶことにする。
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