第82話 新婚旅行とアルバムと

 宣言通り、俺たちは旅行三日目も全力で遊び倒した。


 シャチフロートの上に乗ろうとしてひっくり返った俺を見て、唯華が爆笑し。


 海に釣り糸を垂らせば、爆釣にゴキゲンでハイタッチ。


 お昼には、釣果を爆食して。


 砂浜には、俺たちが共同制作した謎のオブジェが爆誕。


 ご当地マスコットのガチャガチャで、レアを狙って爆死した。


 そんな風に、爆速で時は過ぎ去り……現在。


「はい、チーズっ」


 俺たちは帰りの電車の中で顔を寄せ、唯華の持つカメラへと笑顔を向けていた。


「旅行の写真は、こんなもんで打ち止めかなー」


「だなー」


 流石にもう、シャッターチャンスになるようなイベントもないだろう。


「あーあ。楽しかった新婚旅行も、ついにおしまいかー」


 唯華は、いかにも名残惜しそうにぼやく。


「……うん? 新婚旅行?」


 あまりに自然に混じっていたからスルーしかけた単語に、少し遅れて気付いた。


「だって、そうでしょ? 新婚な二人の、旅行」


 と、唯華は俺と自分を順番に指しながら言う。


「私はずっと、これ新婚旅行だと思って過ごしてたよ?」


 そして、どこか意味深に笑った。


「なるほど、確かにな……」


 言われてみれば、そういう言い方も出来る。


 となると、結果的にとはいえ一緒に寝てた昨晩って初夜……ん゛んっ!

 せっかく忘れてたのに、変なこと考えんな俺……!



   ♥   ♥   ♥



「ん? 秀くん、どうかした? なんだか顔が赤くない?」


「そ、そうか……? 俺も、ちょっと日焼けしたかなー」


 なーんか、はぐらかされた感じがするよねー?


 なんて目を向けていたら、秀くんはコホンと一つ咳払い。


「それより、その……新婚旅行。一回しか駄目って決まりもないと思うし、またやればいいんじゃないか? これから、何度でも」


「!」


 言われて思わず目を見開いちゃったけど……じんわりと、胸に嬉しさが広がっていく。


 新婚旅行が終わっちゃう寂しさばっかり湧いてきてたけど……そうだよね。


「うんっ! また行こうね、新婚旅行!」


「次は冬休み、スキーとかでも良いかもな」


「ワンチャン、夏の間にもっかいって手もあるんじゃない?」


「それもアリだけど……後半はゆったり過ごしたい気もするな」


「ふふっ、確かに。どっちにしろ、ずっと一緒だもんねっ……ふぁ」


「……くぁ」


 次もあるんだって思えたら、なんだか安心しちゃって……眠くなってきちゃった……。

 私につられたみたいにあくびする秀くんも、眠そうな表情になってきてる。


「秀くんの寝顔、撮っちゃおっかなー……」


「先に唯華が落ちる方に賭けるぜ……」


「あはっ、確かにそろそろー……」


 三日間、目一杯遊んだから流石に体力が限界で。


 私たちは、すぐに船を漕ぎ始めたのだった。



   ◆   ◆   ◆



 帰ったと見せかけて帰ってなかった!

 それがこの私、烏丸華音!


 オープンにやらしい雰囲気にしたければ二人きりにするのが最適だけど、それだけが芸じゃない。

 人目がある中で、密かにやるからこそやらしくなることもある。


 ということで、こっそり二人と同じ電車に乗り込んでいるのだった。


 さーて、どんな風にいやらしくしちゃおっかなー。


「……おろ?」


 だけど、二人の様子をこっそり伺うと……。


「ふーん、エッチじゃん」


 私は、小さく微笑んだ。

 これは、私が何かする必要なんてないよね。


 あっ、そうだ。でも、

 せっかくだし……と。


 ふと思いついたことがあって、堂々と二人の席にに近づいていく。


 感謝しなよー?

 私がいなかったら出来なかったことなんだからねっ?



   ♠   ♠   ♠

   ♠   ♠   ♠



 旅行から帰った、翌日。


「さて……それでは、始めよう」


「はいっ」


 重々しく告げる俺に、唯華も大きく頷く。

 尤も、やるのは何てことはない。


「どの写真をアルバムに入れるか、超会議ー!」


「わーっ! パチパチパチ!」


 アルバムに収録する写真の、選定作業である。

 旅行中に撮った写真だけでも膨大な量になり、全部印刷して収納してちゃアルバムがいくつあっても足りない。


 それに……。


「宝箱にどの宝物を詰めるか選ぶみたいで、ワクワクするねっ」


「……だな」


 一瞬返事が遅れたのは、ちょっとビックリしていたせいだ。


 特別に選んだ写真だけを載せたアルバムって、宝箱みたいでワクワクするよな……なんて。

 そんな風に、俺もちょうど考えていたところだったんだから。


「さって、それじゃまず映えある一枚目! どれにしよーっ?」


 ニコニコ楽しそうに笑っている唯華の手には、それこそ宝物みたいに大切そうにアルバムが抱えられている。

 さっき、二人で小一時間程も選ぶのに悩んで買ってきたものだ。


「まず家の前で、二人並んで撮ったやつはどうかなっ?」


「確かに、これから旅行に行きますってわかりやすい写真が一枚目なのは良いかもな」


「じゃ、これが最初でっ!」


「こういう、景色だけが写ってるやつはどうする?」


「うーん、アルバムに残すのは出来るだけ二人で写ってるやつがいいかなー」


「だな。じゃあ、二人で写ってないのは基本除外で」


「あっ、でもこの秀くんめっちゃよく撮れてる! これは採用しよっ!」


「変顔になっちゃってるじゃん……」


「だからこそだよーっ」


「いいけどさ……」



   ♥   ♥   ♥



 今後、私たちは事あるごとにこうやってワイワイ言いながら写真を選ぶんだろうな。

 それで、その度に新しくアルバムが積み上がってくの。


 だって──


「あっ、華音ちゃんも写ってるやつはアリだよな?」


「秀くんさえよければねっ」


「じゃ、これも入れよう。焼きそば食べてる時の」


「華音、めっちゃいい笑顔してんなー」


「こっちの唯華もめっちゃ良い笑顔だぞ」


「あっ、秀くんが射的で人形取ってくれた時のやつだー。秀くんも笑顔だし、採用っ!」


「……花火が終わった後に、二人で撮ったやつ」


「……採用、ね」


「あー……っと。その後で華音ちゃんと合流して三人で撮ったの、これも採用だよな」


「オッケーっ。おっ、これも外せないでしょ! 秀くんがシャチから落ちた時の!」


「待て待て、だから二人で写ってる写真じゃないだろこれ」


「私は声の出演ってことでっ」


「声は写ってないし……」


「だって、めっちゃ連写してるしめっちゃブレてるもん。笑ってるって一目でわかるよ」


「ぷっ……確かにそうかもな」


「でしょー?」


「ただこれ、このペースで入れてたら旅行の写真だけでアルバム一冊埋まる気がするな」


「それでいいんじゃない? アルバム、新婚旅行編っ!」


「なるほど、確かに」


「次は文化祭編とかになるのかなっ?」


「それまでの、何でもない日常的なやつでまず一冊埋まるんじゃないか?」


「あはっ、確かにー。いっぱい写真、撮るんだもんねっ」


「そうだ。アルバムの写真を選ぶ俺たち、で一枚撮っとくか?」


「いいねぇ採用! それじゃ……はい、チーズ!」


 昔から、変わらず。

 一緒にいれば、どこまでも楽しくれなれる私たちの。



   ♠   ♠   ♠



「そんじゃ選定に戻って……あっ、ピンで写ってるのもアリならこっちのも入れようぜ」


「いいけど、なんで? 私が写ってるだけの普通の写真じゃない?」


「え? 可愛いから」


「……秀くん、ホントそういうとこあるよね」


「いや、今のは流石に狙った」


「はーっ、そうやって女の子転がすテク覚えてどうするつもりなんですかねーっ?」


「唯華以外は転がさないから問題ないだろ」


「……ホンっト、そういうとこあるよねー」


「さて、そろそろラストだな……って、あれ……?」


「うん? どうかした?」


「や、これ……帰りの電車だと思うけど、どうやって撮ったんだろうな……?」


「あっ、確かに……私たち、二人共寝てるもんね?」


「唯華、これ実は狸寝入りだったり?」


「どう見てもガチ寝でしょ……」


「直前までカメラ触ってたし、タイマーでもセットされてたのかな?」


「かもねー……てか、ぷふっ」


「ふ、ははっ」


「二人共、子供みたいだねー」


「タイトル、『爆睡』ってところか」


「でも……お互いがお互いに寄りかかってるとことか、安心しきってる感じとかがさ」


「うん……なんか、凄い俺たちらしいよな」


 今は、時折。

 一緒にいると、ドキドキしてしまう瞬間もある俺たちの。



   ♠   ♠   ♠

   ♥   ♥   ♥



『てことで、採用っ! アルバム一冊目かんせーいっ!』


 結婚生活は、これからも……ずっとずっと、続いていくんだから。






―――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

これにて、第2章完結です。


「面白かった」「続きも読みたい」と思っていただけましたら、少し下のポイント欄「☆☆☆」の「★」を増やして評価いただけますと作者のモチベーションが更に向上致します。

好評発売中の書籍版も、どうぞよろしくお願い致します。

https://sneakerbunko.jp/series/danshidato/

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