第73話 おっぱいの話だよ?

 ビーチに出た私たちは、華音の持ってきたビーチボールで遊ぶことにした……ん、だけど。


「お姉、行ったよーっ」


 ぷるんっ。


「はいはーい! 秀くん、行くよーっ!」


「……おぅ」


「わっ! すっごいお義兄さん、ノールックで完璧なトスだ! はい、お返しー!」


 ぷるんっ。


「っとと、際どいコース……! ……はい、唯華の方」


「……うん、ナイストス。秀くん、お返しー!」


「……あぁ、華音ちゃんいくよーっ」


「おっとと、今回はちょい遠い……!」


 ぷるるんっ……と。華音が飛び跳ねる度に、『揺れる』。


 私より華音の方がだいぶ『大きい』けど、今までそれを羨ましいとか思ったこともなかった。

 私は形で勝負する派だと思ってるし、言うて私もそんな小さいわけでもないし、肩こりキツーッって華音いっつも言ってるし。


 だけど。


「はい、お姉!」


「はーい、っとと……秀くん!」


「……ほい、華音ちゃん」


「はいはーい、てかお義兄さんはノールック縛り的なのやってるの?」


 なんかさぁ……秀くんの目がさぁ……それ・・に、釘付けになってない……!?


 ビーチバレー始まってから、全然私の方を見てくれないんだけど!


 や、勿論信じてはいるの。

 秀くんは、華音相手に変な気なんて起こさないって。


 それは、絶対に確実なこと。


 でも、それはそれとして……男の本能的な? それは別腹的な?

 でっかいものに憧れる、少年ハート的なのがあるんじゃないのー? って。


 これだけ露骨だと、ちょーっと思っちゃうよねぇ……!?


「ちなみに、お義兄さんはさー」


 ポーンと華音が秀くんの方にボールをトスして、ぷるんっとまた揺れた。


「おっぱいは、おっきい方が好きー? それとも、ちっさい方が好きかなー?」


「ごふっ!?」


「ちょっと華音、急に何の話してるの……!」


「おっぱいの話だよ?」


「そういうことじゃなくて……! 秀くんに変なこと聞かないのっ!」


 華音の質問に秀くんが咳き込んでボールを落とし、私は華音を嗜める……けど。


「えーっ? でもでも、お姉も気になるんじゃないのーっ?」


「それは……その……」


 ぶっちゃけ、気になる話題ではあるよねぇ……! 今の状況だと、特に……!


「にひっ。お義兄さんお義兄さん、お姉も興味津々だってっ♡」


「そこまでは言ってない……!」


 だけど、それ以上は止めない私である……。


「ほらほら、ただの二択だよ? サクッと答えて答えてっ?」


 華音に催促されて、秀くんはチラリとこちらを見てから觀念したような表情になる。


「その……どちらかといえば、大きい方が好き……かなぁ、と存じます……」


「ふぅん? へぇ? 秀くん、そうなんだぁ?」


 わかってた答えではあったのに、思わずちょっと棘のある声が出ちゃった。


「まぁ、知ってたけどねぇ? だってさっきから、華音のおっぱいにしか興味なさそうだもんねぇ? ずーっと華音ばっかり見てるもんねー?」


「うっそやだっ、お義兄さんそうだったのっ? やーらしいんだ~? でもでも、お義兄さんにならガン見されてもオッケーですっ♡」


 華音が一瞬自分の胸元を腕で隠した後、胸を張った拍子にぷるるんっと揺れる。


 くっ……! かつて覚えがない程の敗北感が……!


 でも、私の成長期だってまだギリ終わってない……はず!


 今夜から豊胸マッサージを開始しよう!

 そして、この旅行が終わったら専門家に弟子入りしよう!


「や、違っ……! そうじゃなくて! 大きければそれで良いわけでもないというか……! いや、そういう話でもなくて……! 華音ちゃんの方ばっか見てたのは、その……」


 ……ふーん?

 秀くん、どんな言い訳を披露してくれるのかなー?


「自覚ないかもだけど、唯華のだってかなり揺れてる・・・・からな!?」


「へ……?」


 思わぬ言葉に、今度はちょっと間の抜けた声が出ちゃった。


 えっ、と……つまりはそれって……。


「えーっ、なになに~? それってそれって、もしかしてぇ? お姉のおっぱいが、揺れるのがぁ? エロ過ぎて見れなかった、ってこと……だったりっ?」


「……まぁ……はい」


「やっぱり、やーらしかったんだ~?」


「……まぁ……はい」


 えっ、なんだろう……急に恥ずかしくなってきたんだけど!?


 なんか私、カラダを使って秀くんにアピールしてたみたいじゃない!?


 いや、カラダを使ってアピール自体はこれまでにも散々やってるんだけども……!

 今回はそんな意図なかったのに、想定外に秀くんに刺さってた……って、こと!?


「ていうかていうかー、私のことはやらしい目で見てくれないのー?」


「それはまぁ……義妹いもうとですので……」


「私のことも、やらしい目で見てほしいのになー?」


「あっ、勿論華音ちゃんは女性として凄く魅力的だよ?」


「うーん、とりあえず今回はその言葉で満足しといてあげますかっ」


 言葉通り満足げに頷いた後、華音はスススッと秀くんに近づいていった。


「ちなみにちなみにー? 大きければいいわけじゃないんなら、お義兄さん的にはどれくらいがベストなの? ほらほら、可愛い義妹いもうとちゃんにだけ教えて教えてっ?」


 ニマニマ笑って茶化す華音に対して、秀くんは全てを諦めたような表情で……またチラリとこっちに目を向けた後、華音の耳元で何かを囁く。


「ふんふん……それってつまり、具体的に数字とかカップでいうと? えーっ? なんでお義兄さんの好みの話なのに、そんな曖昧な感じなのー? そうだなー……だったら、誰くらいのが良いかって回答でもいいよっ? ふむふむ……にひっ」


 何を聞いたのか、華音は更に大きくニマーッと笑った。


「良かったねー、お姉! お姉くらいのが一番好きだって!」


「ちょっと華音ちゃん、結局言っちゃうなら内緒話にした意味ないでしょ……!?」


 大声で報告してくる華音の口を慌てて塞ぐ秀くんだけど、今更もう遅い。


「ちょっ、ちょっと一旦待ってもらえる……!?」


 そう断って、私はクルリと秀くんたちに背を向けた。


 だってもう……!

 ほっぺが緩みっぱなしだよぉ……!


「いや唯華、違、いやまぁ違うってわけでもないんだけど、あくまで好みの話で! 華音ちゃんの誘導尋問の結果だから!」


 言い訳? する秀くんだけど、私くらいのが一番好きって話の補強にしかなってないよねぇ……んふっ。


 おっと、流石にそろそろ振り向かないと。

 私が嫌がってるとか、秀くんに勘違いされちゃうかもだし……。


「別にそんな、慌てて言い訳しなくてもいいじゃない?」


 緩む頬を、どうにか『イタズラっぽい笑み』に見えるよう制御しながら振り返る。


「それなら私、秀くんのためにこのバストサイズ維持してあげるしー?」


 そう……全力で維持しよう。


 大きくもせず。

 勿論、小さくもならないように。


「別に、そんなことしないで良いというか……必要ないというか……」


「ふふーん? それってそれって? お義兄さん的には、今のお姉から大きくなっても小さくなっても『それくらい』が好きになる……って、ことっ?」


「そういう意味では………………ある、かもしれないけど……」


「あっ、ちょっとくしゃみ出そうかもー」


 と、私はクルリともっかい後ろを向く。


 だって……だってさ……!

 今の、秀くんの言葉って……!


「へぇ、そうなんだー? それってそれってー」


「おっとそうだ! ダイビング! 確かこの辺、ダイビングもできるって話だったよね! 今からいこうよ! いやぁ、急にお魚と戯れたい気分になっちゃって!」


「ウェットスーツで大好きなお姉のおっぱいが隠れちゃうけど、いいのかにゃー?」


「ここぞとばかりに、めちゃめちゃイジってくるよね……!?」


「にひっ、ごめんね? だって照れるお義兄さん、可愛いんだもんっ♡」


 そんなの……『好きな人のが、一番好き』みたいじゃない……!

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