第7話 怪物
闇の中から数多の目線に晒されながら僕は、何がトリガーとなり襲い掛かってくるのか分からないので、肘をついた状態から身じろぎも出来ずにいた。
ふむ、デスペナルティは一時間後の復活に加えて23時間のステータス半減かな?
そうこうしているうちにあの声が聞こえた。
『ダンジョンコアを回収しました』
はっ?
『ダンジョンマスター不在のため、ダンジョン名[地底の
ガラム? ああ、そういえば僕のことだね。ゲーム始まってから誰とも話さないから一瞬誰のことかと思ったよ。
『……初めまして。あなたが新たな主ですね。』
ペレちゃんと似た、少し人間味を感じる声がした。
その声はペレちゃんと同じように頭の中に直接文字が浮かぶような不思議な感覚はそのままに、声質は別人のように変わっていた。
『ガラム様。私は[地底の
案内人? そんなのが居たのか前のダンジョンだとそんな人は出てこなかったけど。
それにしても名前か、僕にネームセンスを求めるだけ無駄だと思うけど。
安直にペレちゃんと似た感じで行こうかな。
「じゃあ君に名前はレンちゃんで」
『畏まりました。では以後私のことはレンとお呼びください。』
どうやら手続きは完了したみたいで、その後はご自分で勝手にしてくださいとばかりに説明の書かれたウィンドウが浮かんできた。
その中に書いてったことを要約すると、どうやら今の僕はダンジョンを二つ手に入れている状態らしい。
[海底の
二つ目の[地底の
ダンジョンコアの強化……?
調べてみると、あっさりと詳細が出てきた。
前にちゃんと隅から隅まで全部調べたはずだから、二つ目のダンジョンを手に入れる若しくは強化済みのダンジョンを手に入れたことを条件に後から出てきたんだろう。
ダンジョンコアの強化に必要なのは強力、且つユニークな魔物の魔石が必要だそうだ。
消費した魔石によって強化の方向性なども変わるそうなので、今の[地底の
数日かけて自分とダンジョンの能力の把握をした。
その結果として、僕はそこそこ強いらしい。
その強さの大部分はノブナガにあるので本体の性能はそこまで高くはないようだが。
『この付近で狩れない獲物はそうは居ないと思いますよ』
そう言ったのはレンちゃんだ。
ちなみにそのレンちゃんは本人に戦闘能力こそないものの、ダンジョンマスターの僕がいなくても勝手にダンジョンの操作が出来るため、ダンジョン内に居る魔物も利用すればほとんどの魔物は撃退可能だ。
深海で強い魔物は大概でかくなるのが普通で、その強い魔物を狭い入り口でシャットダウン出来るのがとても良い。
ちなみに[海底の
というか、もしかして初期スポーンダンジョン内だったってことか……
ペレちゃん殺意高くない?
改めて初期はハードモードだったことを実感しつつ、ダンジョンポイントの増大と僕のレベルアップを目的に狩りをする。
レンちゃんのダンジョンのダンジョンマスターになったので元々このダンジョンに居た魔物は僕の配下になった。
そいつらの中の足の速い魔物を使い、外にいる魔物をおびき寄せ、攻撃力の高い魔物でダンジョンに入った瞬間に総攻撃を仕掛ける。
それを繰り返しているとどんどん僕に経験値が入り、ノブナガの数が増えていく。
それを続けること数週間。
特に障害などなく、地上へのダンジョンポイントが溜まる……と思っていた。
問題が起きたのはノブナガの数が二百を超えた頃。
何の変哲もない日常として、レンちゃんからは毎日こんな報告を受けていた。
『マスター、囮役の魔物が息絶えました。』
レンちゃんがそう報告してくるのはその日で四回目だった。
その度ダンジョンポイントを使用して補充を繰り返していたが、僕はそのことに特に疑問は抱かなかった。
というのも、ダンジョンの外から魔物をおびき寄せる役目を追っている囮役の魔物たちだが、外には沢山の怪物がいる。
マッコウクジラを優に超える巨大な魔物や、西洋の龍の様なドラゴンなど、日本に現れれば簡単に都市を破壊できるような怪物がうようよしている魔窟なのだ。
そんな場所で弱い魔物を選別しておびき寄せるのはまさに薄氷の上をタップダンスしているほどの危険度だ。
むしろ日に四度なんて少ない方だと思っていた。
ダンジョンに居る全ての魔物を支配下に置いているわけだが、全ての魔物をテイムしているわけではない。
直ぐに死んでしまう魔物に愛着がわいてしまうと苦しくなるし、何より《テイム》にはほとんど実際には機能しないもののテイム数の制限がある。
ノブナガが一匹とカウントされるのかそれとも個体数でカウントされるのか分からない以上増やすのは危険だと判断したからだ。
その影響で、《テイム》か《召喚術》を使った魔物にしか使えない《共感覚》等は囮役の魔物には使えない。
後から考えるともう少し情報というものを重要視すべきだと分かったが、当時の僕は呑気に「このまま時間が経てば地上に行ける!」とワクワクしていた。
何かあればレンちゃんやノブナガがどうにかしてくれると妄信していた部分もある。
だが、確実に僕は油断していた。
このゲームを始めてから本当の意味で命の危機にさらされたのはその日だった。
その日見たのは、囮役の魔物がおびき寄せてきた魔物を安全に倒した後。
獲物をさらに追いかけていた魔物がいた。
胸に抱けるほどの大きさに、そんな可愛いサイズに反した人間の頭蓋骨を簡単にかみ砕けると確信できる凶悪な牙。
自身の体を丸呑みできるほどの大きさをしたその口は獲物を見つけて喜ぶように口を開けた。
光の無い深海に紅い光が見える。
笑うようにゆらゆら動く目はこちらを獲物だと認識したようだ。
『マスター、どうやら魔物の大群がダンジョンに侵入し始めたようです。現在確認できている数は三百を超えています。いかがいたしますか。』
ペレちゃんからそう報告が来た。
『攻撃用に配置していた魔物たちが捕食され続けています。』
そんな……何が起きてる?
『数が五百を超えました。一時的にダンジョンを迷路化します。』
『隔離に成功しました。侵攻スピードを落とすことに成功しました。』
『支配下にあるダンジョンの魔物の数が減少し続けています。』
『新しく入ってくる魔物は居ないようです、総数六百十七体です。』
『すべて同一種族でなる群れの様です。』
『私が稼働している時代にも存在した魔物です。』
『水がある場所にはどこにでも適応し、睡眠をすることなく獲物を捕食し続ける怪物です。一体が死ぬ前に捕食した栄養を使い自身と同じ種族を二体生み出す魔物。』
『その名前を
――グーラと言います。』
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