第6話 発光物?
あの[ホーンタートル]の襲撃以降から一週間がたった。
とはいっても深海で真っ暗なこの場所に朝も夜も無く、掲示板を見てなんとなくそうだろうってだけだけど。
ダンジョンマスターになったときから、目標としてはダンジョンのポイント、DPをとにかく集めることだ。ダンジョンと化したこの洞窟でずっと獲物を待っているより外に出て殺しまくるのが一番早いわけだが、結局僕はそのあと外に出ることなくずっと洞窟の中に居た。
そう。結局外には出ていない。
いくつか理由はあるが、何よりも問題なのは一週間前判明した通り、僕には残念ながら直接的な戦闘能力が存在しない。
あるのは《召喚術》だけで、僕自身には戦闘で役立つものはそれこそ《闇魔法》くらいしか存在しないだろう。
そのうえ僕はペレちゃんが《暗視》のスキルを却下したせいで視界が確保できない。《闇魔法》によりある程度自分から離れた場所の把握も出来るようになったが、慣れないこの方法で広大な海の中を泳ぐと確実に迷子になる自信がある。
というわけで僕は結局洞窟の外に出ることはなかった。
まぁ、あれだよあれ。僕は後ろから指示を出す司令官タイプなのでここで留まるのが正解だと思う。
現在行っていることと言えば《闇魔法》を常時展開して習熟度を上げること。他にはダンジョンに侵入して、ダンジョンコアのある最奥にたどり着いたモンスターを排除することだ。
魔力に余裕が出来たら《召喚術》でノブナガの数を増やしつつ、ノブナガを外に偵察させている。
そして偵察させている間に僕は《共感覚》や《テレパシー》などでこのあたりの地形を把握しようとしているのだ。その時判明したのは何故か《暗視》を持っていないノブナガの視界がはっきり見えることだった。残念ながら《共感覚》でしか見ることは出来ないが視界を得ることには成功した。
その時に初めて分かったことだが、僕の容姿がようやくわかった。涼しげな眼に端正な顔。体はすらっとしていて中々な美少年だった。……何故か服は着ていなかったが。
そんなことよりも何より驚いたのが、僕の尾てい骨辺りから尻尾が生えていたことだ。今までは欠片の違和感も感じなかったが尻尾に加えて肩甲骨辺りには羽、左右の側頭部には二対の角があった。
それ以外は肌にうろこがあったりはしないし竜人要素はないが、尻尾、羽と角は元から知ってはいたがそれ以上に驚くことが多く、違和感がないこともあって《共感覚》で自分の姿を見るまで完全に忘れていた。
《身体操作》のスキルを持っているからか違和感なく自由に尻尾も羽も動かすことが出来る。角はどう頑張っても動かなかった。人間の爪や髪みたいなものだろうか?
今の日課は尻尾も使った泳ぎの練習をしながらスキルの練習をしたりなどなどだ。
その中でもいくつかの収穫はある。まず《闇魔法》での攻撃手段を手に入れた。’ダークスフィア’という球状の闇属性の魔力を相手にぶつける攻撃だ。
それに加えて水の中にもかかわらず《身体操作》を持っているおかげか《格闘術》と《水泳》のスキルを獲得したらしい。
水の中でも地上と同じように……とまではいかないが竜人の身体能力に慣れてきたのか水の中でもかなり動きやすくなってきた。
具体的に言えば重りを付けたままで動いているくらいの感覚だろうか。すっごい体力を使ってしまうが現実と同じくらいのスピードで動くことは出来るようになったと思う。
そして外に出しているノブナガの方もかなり成果があり、僕が数を増やすこともあるが、それ以上に勝手に増えていき今では把握しきれない数になっている。自由にそこら辺を群れになって泳いでいるが、積極的に敵を倒したりしている。
そのおかげで食料に困ることはなく、ノブナガの食い扶持は自分で勝手にとりに行くし僕の分もノブナガがDPとして僕にくれるわけで僕はノブナガのヒモと化している。
そうそうそういえばノブナガは何匹ものイワシが一体としてカウントされているため、《共感覚》を使うと何体もの別の視点を同時に見ることになる。感覚としては寄り目をするときにある焦点が合わない状態に近いだろうか。それが目の数が何十にも増えているので長時間みていると頭が痛くなる。
ノブナガの偵察によって大体の敵の強さも地形ももう分かっている。実際のところ三日目には《格闘術》と《水泳》も獲得していてその時点で既に僕自身の最低限の自衛能力は持っているし、不自由ではあるが《共感覚》によって手に入れて迷子の危険ももうないだろう。
懸念材料がもうなくなったのにこんな長々とこの洞窟に居るのはまぁ、あれだ端的に言ってしまえば外に出る勇気がない。
スポーツまではやったことはあるが、剣道などの直接的な試合などはしたことないし、怒鳴り声なんて聞いたことは数回くらいしかない箱入り息子なのだ。
それでも覚悟は決まった。もう出よう。
迷路のような洞窟を抜けると体で海流を感じる。風ではない。
普通の視界とは異なり《闇魔法》での知覚方法は遠くを見通せない為、僕にはまだ何も見えないが、《共感覚》を使ってみたこの場所は真上に大きな穴がある空洞になっているはずだ。
球状に穴が空いたこの場所は《共感覚》を使っても端から端まで見ることが出来ないほどの広さであり、中にはいつの時代のものなのか分からないほど劣化して崩れている時代の建物が沢山ある。
きっとこの場所が海の中に沈没前には地下にこの国を建てていたのだろう。
もう既に何もかもが劣化していて文字が書いてありそうな場所も摩耗していて読むことは出来なかった。
どちらにせよ既に滅亡した国だろうし特に意識する必要はだろう。
どうやらこの場所は大穴を通して大海と隔離されてはいるものの海流の関係かいろいろなものが上から落ちてくる。その中には泳ぎの得意ではない動物やモンスターも含まれていて、亀にクラゲに色んなものが流れ着いている。
流れ着いたものが通る穴は幸いにも人にとっての大穴なのでクジラなどの大型生物が一体入れるかどうかという大きさだ。
だから船を飲み込むほどのデッカイ化け物は居ない。
洞窟を出て最初の獲物はどうやらいつか見たあの[ホーンタートル]だった。
《水魔法》を一緒に使っているのか昔見たやり投げの様な速度で迫ってくる[ホーンタートル]。
それを見た瞬間僕の体は勝手に動いていて、[ホーンタートル]の角部分を手でつかみ取っていた。
わぁ、竜人の運動神経やばー
どうやら掴まれてしまったら何も出来ないようで手足をバタバタと動かしたり角を掴んでいる手に噛みつこうともがいている。なんか滑稽に見える。
いい予行練習だと思って僕は《闇魔法》の’ダークスフィア’を使ってとどめを刺した。見えはしないが黒い球状の魔力の塊を[ホーンタートル]にぶつける。
かなりいい速度で当たったように見えたが角を掴んでいる手には衝撃はなく、それまで暴れていたその体は力なく垂れ下がった。どうやら物理的な攻撃ではなく魔力の良く分からない攻撃に分類されるようだ。
うーむ、相手に魔法攻撃を使われると厄介だな。物理的な攻撃なら構えればある程度攻撃力を軽減させることが出来るけど、魔法が物理的なものじゃないなら防御不可って事になるので全力で躱す以外の選択肢が無くなってしまう。
何か対抗策考えないとなぁ。
あのノブナガがそこそこ時間をかけた[ホーンタートル]を相手に一撃で倒すことが出来る’ダークスフィア’は僕のダメージソースとして大いに活躍してくれるだろう。
その後、[ホーンタートル]の他に毒を持っているエイの姿をした[ポイズンレイ]や何故か発光していて、敵が近づくと目を焼くほどの光を浴びせる[フラッシュゼリーフィッシュ]、異常な速度とハサミの大きさをしたカニ[ビッグスタークラブ]。
他にも様々なモンスターを倒していく。
モンスターを倒しながらノブナガの《共感覚》では確認できなかった部分を見て回る。
そうして海底に沈んだ都市で僕はそれを見つけた。
最初に気付いたのは光だった。[フラッシュゼリーフィッシュ]かと思い、《闇魔法》による索敵を行いながら近づいていた。
次第にその姿が鮮明に見えるようになる。発光しているのはどうやら街の中心部に存在する恐らく城であったであろう場所だった。
立派な城だったと思われるその建造物はは上部分が劣化により崩落していて、天井がなくなり、1階部分を上から見ることが出来るようになっている。後に残っているのは壁だったと分かる子供が作った不格好な積み木に似た石材だ。
光っているのはどうやらとてつもなく広い部屋にポツンとある1つのデカイ椅子のようだ。
きっとこの椅子は王様のみが座れる玉座だろう。
元からあった装飾や座る部分のクッションは剥がれてしまったのか、素材は全てが金属で出来ていて座り心地の悪そうな椅子だ。
《闇魔法》による探知ができる範囲まで近付いてみる。探知で分かったことは、光り輝くその玉座は光っているだけで特に何も無いようだ。
現代では解明できないオーパーツの様なものが発光しているのかと思えば期待外れだ。
顔文字で表すならこれだよね(´・ω・`)
なんとなく気落ちしたまま僕は玉座に座り込む。
ふと思いついて一体だけノブナガを召喚してみて《共感覚》を使ってみる。
そこに見えた景色は光の無い海底で後光を
なかなか絵になるなこれ。
その時に気になったのは近くにいるノブナガとは別の部隊が見えている景色だった。遠くにいるはずが、夜空に浮かぶ星のように小さな光が見える。そしてその光はどうやらこの玉座の方向にある。
つまりはこの玉座眩しくはないけどかなり遠くにも光っていることが分かるようになっている?
各地に散らばったノブナガの視点を統合してみるとこの空洞の真ん中あたりに玉座があることが分かる上に、光に誘われる虫のように大小関係なく視覚がありそうな海生生物がこちらを目指している姿が見える。
どう考えてもやばくね? 遊んでる暇じゃないって
《テレパシー》でノブナガに偵察をしてもらうと、様々なモンスターが僕の見えない位置から包囲していることが分かった。
うーむ逃げ道がない。
奇妙なことにこの包囲しているモンスターはこちらを襲うでもなくただそこにおり、天敵同士の間柄の生物も争うことなく、全ての生物が例外なく光る玉座に視線を向けている。まるで他の何も目に映っていないようだ。
……デスペナルティの要項でも読んでようかな。
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