第5話 方策

説明が多めなのはご容赦ください

―――――――――


 亀を撃破した今回のMVPであるイワシ君は分裂したまま僕の周りを泳いでいる。


 今気づいたけど、水の中の匂いってこんな感じなんだと亀の血の匂いを感じながらイワシの実力に戦慄する僕はポイントの確認をしてみることにした。

 ダンジョンメニューを開いてみるとポイントが追加されていて、その数なんと3000。

 三千となると、すっごく大雑把に食べ物を一日分だ。


 うーん世知辛い。


 戦闘はもっと後になるだろうと後回しにしていた僕の戦力の確認をしなければいけない。

 今後はここに攻め入る侵入者を倒さなければいけない。イワシは確かに強いみたいだがそれでも流石に「ユニークモンスターだから負けるわけないよねー」と調子をこいてイワシが勝てない相手には何も出来ずに死んでしまうのはなんとも情けない。

 せめて主である僕も何かしらの補助が出来るようにならないといけないだろう。

 ひとまずはダンジョンメニューに存在する’配下モンスター’の項目をチェックする。

 すると出てきたのはこのような画面だった。


 種族:イワシ

 名前:

 所持スキル:《水魔法》《孤軍:[分裂][連携][テレパシー]》


 種族:イワシ

 名前:

 所持スキル:《水魔法》《孤軍:[分裂][連携][テレパシー]》


 種族:イワシ

 名前:

 所持スキル:《水魔法》《孤軍:[分裂][連携][テレパシー]》


 その後にはずっと先ほど分身した数の14体分のステータスが書かれている。


 これ以上の能力を知るには《鑑定》などの特別なスキルがいる……というわけではなく、このゲームはスキルのみが表示されるゲームなのでどんなに育ててもステータスを窺うことは出来ない。

 それは僕たちプレイヤーにも該当することであり、攻撃力、防御力なんてステータスはなく、存在するのは魔力という魔法を発動するときに必要な数字表記不可能な何かと、スキルだけだ。スキル数で自慢をすることもあるそうだが、このゲームはスキルを持っているかよりもスキルを使いこなしているかが重要なので特に意味はないそうだ。


 そんなことは置いておいて、なんか明らかにやばそうな気配がするんだけど。

 このイワシのユニークとされる要素は明らかにこの孤軍と書いてあるスキルに間違いないだろう。

 残念ながらその詳細を窺うことは出来ないもののその後に書いてある分裂、連携、テレパシーなどの文字を見ればおおよその能力は察することが出来る。

 そういえばダンジョンマスターになる条件の一定数の生物の存在はこのイワシの能力によるものなんだろう。確実にシステム上は一体ではなく複数体でカウントされている。


 名前の項目が空欄なのを見て思い出した。そういえば名前を付けていない。

 うーん、どうしようか。孤軍って名前にちなんでつけたいところだがそう言った知識がないのでなんとも思いつかない。

 なんだろう、たった一人って言われると織田信長を裏切った明智光秀とか思いつくけど裏切られそうでやだな。

 むしろ裏切られた方にするか裏切られなかったら最強だったみたいな印象あるし。本能寺の変で焼かれて死んだけど逆を言えば焼かれなければいいわけだ。魚なら焼かれないだろう。


『君の名前はノブナガだ!』


 そう言った瞬間リストの名前の項目の全てにノブナガと記載が追加された。

 システム的には一体ではないようだが同一個体になってる? 良く分からん仕様してるなあ。


 ひとまずノブナガの方はこれで終了。

 次に僕自身が何が出来るのかを把握する必要がある。’配下のモンスター’の項目とは違い、残念ながらダンジョンマスターの状態を確認する項目はないようだ。そうなると僕がこのゲームを始めた時に取ったスキルを一つずつ検証していこう。

 《闇魔法》は既に試しているし、調べた限りどうやら闇魔法にはこれといった直接的な攻撃方法は直ぐには出てこないらしい。どちらかというと妨害メインのものなのでまず最初に敵の撃破方法を求めている現状では後回しだ。

 《テイム》には選んだ時の詳細には魔物などを手懐けて使役する能力と使役した生物とのコミュニケーションをすることが出来る能力があるそうだ。具体的には自分の言葉を相手に伝える方は多少の補正、向こうの言葉を自分が理解する方の補正がとても大きいようだ。このスキルはコミュニケーションの方は戦闘と関係ないので置いておくとして、手懐ける方も手懐ける魔物がいなければ意味がないため《テイム》は一旦保留。

 《愛嬌》《カリスマ》《魔力量増大》《身体操作》《圧力耐性》《毒耐性》は戦闘スキルではなかったり、補助のスキルなので直接的には戦闘にはかかわってこない。


 最後の《召喚術》は条件を達成したモンスターを召喚することを可能にするスキルなので、僕が使える戦闘スキルはこれくらいしかないだろう。具体的な条件は説明欄には書いていないがプレイヤーによって多少の検証がされている。

 その内容としてはパーティーでも個人でも、自分が倒したことのあるモンスターを召喚することが出来ることと、他の召喚術師やテイマーの持っているモンスターを《鑑定》や《看破》などの詳細を見るスキルを使用すると召喚が可能になる。まぁ、おおざっぱに言ってしまえば一度でも目にしないとだめってことだ。ちなみにユニークモンスターを《鑑定》なんかしても召喚可能にはならないので意味はない。

 たとえば僕の場合は先ほどの角の生えた亀を倒したので、《召喚術》を発動しようとするとメニュー欄が現れ、そこにはこう書かれている。

 

 召喚可能モンスター

 [イワシ]

 [スライム]

 [ホーンタートル]


 先ほど倒したほうは[ホーンタートル]と書かれている方だろう。こちらは特に説明は必要なく、さっき僕がみたサイズのモンスターが現れる。

 [イワシ]が書いてあるのは……なんでだ? イワシというかノブナガは《召喚術》を発動する前に既に僕の周りに居たので《召喚術》ではなく《テイム》の方の初期装備のはずだ。


 当然だが、《召喚術》と《テイム》というスキルは別物だ。そして、戦闘面で言うとどちらも仲間にしたモンスターと共に戦うというスタイルなので、完全に役割が被ってしまう。

 それでも僕が取った理由としては《テイム》でゲットしたモンスターは死んでしまうと復活することはなく、逆に《召喚術》で召喚したモンスターは死んでも再召喚すればいいからだ。つまりは《召喚術》で召喚したモンスターに戦闘を任せてしまい、戦闘以外では《テイム》したモンスターに癒されようかなと……。

 ちょっと情けない理由に聞こえてしまうが他にもそういう人はいる。

 それだけ一緒に冒険した仲間が死別するというのは心に来るんだ。

 どちらのスキルも取るという人は一定数いて、その人達はよほどの例外では限り初期のルーレットでゲットするユニークモンスターは《テイム》の方に属する。

 《召喚術》に話を変えると、《召喚術》のみをゲットした場合は最初から召喚できるモンスターはユニークモンスターとそれとは別に[スライム][ウルフ][ゴブリン]のうち一つの二つになり、二つともを取った場合は先ほど言った通り、ユニークモンスターは《テイム》の方に行ってしまい、初期のランダムな三体のみが召喚できる状態だ。

 今回問題なのは、何故[イワシ]が《召喚術》にも《テイム》にも属しているのかという問題だが……うーむ。

 バグを疑いたいところだが、このゲームはゲーム史上最高傑作と言われ、サービス開始直後から一切のバグも矛盾も無いことが有名だ。何より、僕がプレイしているのは既に三年たった後だ。まぁ、初期のルーレットで手に入るものはものによってはシステムにも影響するらしいので、おそらくノブナガもそういうものだろう。


 一番上のスライムだが、こちらは先ほど説明した通り、[スライム][ウルフ][ゴブリン]の三体からランダムで出てくるものだろう。ランダムとは言ってもこんな海底で狼を出しても息が出来ずに直ぐに死に絶えてしまうことは容易に想像できる。ゴブリンも水棲のものもいるらしいが流石に深海に適応した奴は……いるのか? まぁ多分ランダムというよりも消去法でどんな環境でも生きられるスライムが選ばれたんだろう。


 《召喚術》の《テイム》との差別化する点としては魔力が必要な点と、時間制限があげられる。

 このゲームは具体的な魔力量の指標も無ければステータスの表記も無いのですべてを一概にいうことは出来ないが、戦闘中に何度も発動することが前提である《闇魔法》などの属性魔法とは比較にならないほど多くの魔力を使用する。そのうえ、強力なモンスターほど多くの魔力を使うので、一番最初から他人が連れている最強種のドラゴンを《鑑定》して召喚し放題! というのは出来ない。

 時間制限も人によって、具体的には熟練度によってモンスターが存在することが出来る時間が変わる。最初は一律で三十分らしい。そこから発動する際に魔力を増やしたり熟練度をあげると時間が変わっていくそうだ。


 こんなだらだらと考えていても仕方ない。

 さっさと召喚をしてみよう。使用する魔力がもったいないがぶっつけ本番で使うわけにもいかないので練習をしてみよう。

 最初は一番消費する魔力が少なそうなスライムにしてみよう。


「スライム召喚!」


 なんとなく気分で言ってみると水がボコボコとなるだけだった。

 召喚自体はしっかりと発動していて、なんとなく先ほどから《闇魔法》で使っている魔力の全体から四分の一ほどなくなったようだ。

 召喚されたスライムは相変わらず真っ暗から変わらない視界には映らず、《闇魔法》で確認してみるも、どこに居るのか一瞬分からなかった。

 召喚する瞬間を確認していたので、何とか分かったがスライムのその体はほぼ水と変わらないように見える。ガラスのように透明で、色で判断することは難しいといった感覚だろうか。

 スライムのスキルは確か《物理攻撃半減》と《突撃》の二つだったはずだ。この二つのスキルから何度も召喚して新たなスキルを覚えさせたりして育てていくそうだ。気の長い話である。

 とはいっても初期のモンスターであるスライムを育てるのはなかなかなもの好きだそうだ。

 さっさと強いモンスター育てた方が効率良いんだろうな。


 育てるにしても今の状況では余裕なんてないので放置するしかない。

 ノブナガとは違い、接近するしか敵を倒す方法が無さそうなスライムには泳ぎの練習をするようにテレパシーで伝えて次に行く。


 次に[イワシ]の召喚をしてみる。


「イワシ召喚!」


 すると、今度は前回とは違い消費した魔力は全体の八分の一ほどだった。

 召喚完了したのは分身した14体のノブナガと全く同じ姿かたちをしたイワシであった。

 ……そりゃイワシを召喚したわけだけど、どういうことなんだ。


 テレパシーで《召喚術》と《テイム》組で分けようとするとスライムのみがしっかり反応して召喚組と定義した僕の左側に並んでいる。

 ノブナガたちはどうしていいのか分からないようにぐるぐると僕の周りをまわっているので、答える方法がないかのようだ。


 本当にどうしていいのか分からず再び全員に泳ぎの練習を言い渡した後にヘルプなどを調べてみる。

 こういったときに容易に掲示板を使用してはいけない。なぜなら情報とは武器であり、もし僕と同じ例に出会った人は確実にその情報を秘匿しているからだ。そんな中で僕が相談なんてしようものなら僕の情報だけを絞り取られ、簡単に僕に対する対策方法を考えてしまう。

 このダンジョンマスターというのも秘匿された情報の一つだろう。僕がこのゲームの中で一番乗りなんてのは甘すぎる想定だ。確実に誰かが情報統制、もしくはダンジョンマスターが他に出現しないようにしているはずだ。

 僕はこのゲームのナンバーワンを目指しているわけではないが、負けるのが好きなわけじゃない。勝つためには何もかも足りない今の状況ではユニークモンスターであるノブナガか僕のダンジョンマスターの能力に頼る以外にはないだろう。


 いろいろ調べていくうちにダンジョンメニューで何やら表記が変わっているところを見つけた。

 どうやら配下のモンスターであるノブナガの数が15に増えている。

 ああ、なるほど。こういうことかな。


 僕のノブナガの異常性ユニーク性の予想はたった一つの生物が軍をなすことだと思っている。自分で全く同じ生物を量産して、且つその量産した生物も自分自身でありさらにそこから同じ存在を量産することが出来る。

 だから常に一緒に居ることが出来る《テイム》のモンスターであり、新しくモンスターを召喚する《召喚術》の中のリストを使えばノブナガの主である僕がそのノブナガの手を使わずに僕の意思で増やすことが出来るようになる。

 ……で、合ってるのかなぁ? 《召喚術》のデメリットが無くなっている気がするし、いろいろ反則だと思うが増えるのが僕の手で潰せそうなこの小魚なら何とか許されるのだろうか。


 スライムが消えてもこの新しく召喚した[イワシ]が消えない限りはそれで確定だろう。


 というか、もしかしてだけどノブナガが全滅しても《召喚術》使えばまた増え始めるってことじゃね?

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