第4話 使役


『支配下にある領域を確認……《召喚術》《テイム》加えて一定数の支配下生物を確認』


 えっ……?


 《召喚術》と《テイム》は良いとして、支配下にある領域に支配下生物って心当たりないんだけど?

 領域を支配した覚えはないし、テイムしてるモンスタ一匹しかいないしこのゲーム分からん……


『新たなダンジョン[海底の傀儡孤軍ロイヤルガード]のダンジョンマスターとなりました。』


 ????????


『ダンジョンコアを生成し、あなたと同期すれば機能の全てが使用可能になります。 同期しますか?』


 うーんまぁもう何でもいいや、イエスで。


『同期しました。これより、ダンジョンコアを壊された場合ペナルティとして強制的にデスペナルティとなります。』


 ああ、マジ?

 じゃあ守らないとってこと?

 そうか……


『詳しくはメニューをご覧ください』


 ダンジョンって作るものだっけ??

 僕が知ってるこのゲームのダンジョンは攻略する方しかないけどね。

 とりあえず詳細読んでみようか


 ……

 …………

 ………………


 目を開けても暗闇であるこの状況でも唯一はっきりと見えるメニューを読み終えた。

 ザッと要約するとダンジョンを得る方法がまず二種類あって、まず一つ目が元々あったダンジョンを完全攻略後に何らかのスキルを使ってそこのダンジョンを自分のものにする方法がある。そのスキルがどんなものなのかといった情報はないものの、僕が今回ダンジョンを得た方法から考えてテイム関係のスキルであることは容易に想像できる。

 そしてもう一つ、僕がダンジョンを得た方法としては一定期間の間に辺り一帯のある程度以上の数の生物が同一種族である、もしくはただ一つの主をもっている場合に前者なら一番強い個体が、後者ならその主と判定された生物がダンジョンマスターとなるらしい。

 こんな簡単な条件ならもっと話題になっていいと思うし、書かれていない条件とか何かがありそうだけどダンジョンマスターになる方法についてはこれで納得しておこう。


 管理方法だったりダンジョンマスターになることで出来るようになったことと言えば、例えばダンジョンマスターだけが使うことが出来るお金の様なものであるDP(ダンジョンポイント)と色んなものを交換、モンスターの召喚、ダンジョンの改築などをすることが出来るらしい。ちなみに今は0なので何も出来ない。

 他には特にないらしく、ダンジョンコアと同期していなければ交換できるものに制限が出来たのだと思う。うーん結果的にプラスなのかどうかわからない。

 ダンジョンに関する機能だけのメニューを通常のメニューと分割する設定ができるようなので、ダンジョンメニューと銘打たれたその設定を有効化する。

 うむ。他の人に言っちゃダメな部分と言っていい部分を分離できたと。


 DPを使って出来ることのリストを眺めていると、ダンジョンの移転が出来る項目を見つけた。

 他にも出口を他の場所につなげるものなどが存在するようだ。

 ただし、現在地点が海底だからなのか価格が一、十、百、千、万、十万、ひゃ……頭が痛い。


 人里どころか地上に向かう方角も分からない現状からすればとても大きな進歩ではあるが……

 とりあえず僕はこの頭が痛くなるような数値のDPをためることを目標としよう。


 人生ではゴールが見えないことの方が多い。今回はゴールがはっきりとしていることを喜ぼう。


 さて、肝心なDPの増やし方としてはダンジョンらしくダンジョン内部に適性存在を誘い込み、殺すことが一番手っ取り早い取得方法らしい。

 そして別の方法としてダンジョンに所属する生物が外で戦闘を行い、勝利するとダンジョン内と比べて半分ほどのDPが取得することが可能だそうだ。半分か……


 幸い、このゲームでは何より生存していることを重要視しているのか何もしなくてもダンジョンコアを’壊されなければ’多少のDPは発生するらしい。


 そして最後の文にはこうあった

 ”ダンジョンコアはこの世界に存在する生物にとって取り込むことで無条件に上位種へと進化する便利アイテムです。感知されないように気を付けましょう。”


 ダンジョンって人間だけが敵ってわけじゃないのかー


”ブブー”


 警告音と呼べるような胸騒ぎのする音と共に先ほど設定したダンジョンに関することだけを記載されたメニューが自動で開いた。

 そこには『侵入者!!侵入者!!侵入者!!』と同じことの繰り返しを電光掲示板のように繰り返し左に流れる文字によって表示されている。

 ダンジョンに侵入してきた敵対生物を見るためのカメラという機能がある。その項目を開くと視界を覆うほどに巨大化したメニューの枠。

 ……残念ながら枠しか見ることが出来ないので映像は映っているんだろうが暗すぎて人間、いや竜人にも目視は出来ないようだ。


 そうこうしているうちにこの迷路のような洞窟の最深部一個手前の部屋に侵入者がたどり着いたようだ。

 闇魔法の……なんていうんだ? 空間把握の様なその魔法の範囲内に入ってきた。

 後ろには先ほどダンジョンマスターになった際に出てきた剥き出しのダンジョンコアがある。

 ダンジョンコアが壊されると同時に僕がデスペナルティを受けるようなので逃げることは出来ない。……袋小路なこの場所では逃げることは出来ないだろうが。


 侵入者のそのシルエットは昔水族館で見た亀のような形をしている。

 「のような」と付けた理由としてはその亀の額にはサイの角の様な突起物が付いているからだ。

 どう考えても魔法での撃退は不可能。何とかテイムをぶっつけ本番で使うしかないのでは? とは思ったものの確か下調べした際にはテイムの条件は餌付け、もしくは相手を弱らせることが必要だと書いてあった。

 ……詰んだな。


 ん? いやこういう時のために最初のユニークモンスターがいるんだ!

 そう気づいたときには既にこの部屋の入り口から亀が顔を出していた。


 『イワシ頼む! 助けてくれ!』


 僕の持っているスキル《テレパシー》を意識しながらそう言うと僕の隣に居た小魚が動いた。僕の手のひらほどの小さな魚だ。ああ、ずっと隣に居たのかと思うと同時に全長が僕の座高ほどあるその亀に勝てるのかが心配になる。


 頼れるものがイワシしかいない僕はその戦いを眺めるだけだ。

 ダンジョンコアにしか向いていなかった意識が亀の意識が寄ってくる小魚に向いた。

 意識を引けたと判断したのかイワシはその場に留まる。

 しばらくにらみ合いが続くと思えばイワシから何かを仕掛けるようでフルフルと震えている。

 次の瞬間にはイワシは何十体も増えていた。……? 増えた?


 増えたイワシたちが水魔法でも使っているのかお手玉をされるようにぐるぐるといろんな場所に吹き飛ばされる亀。

 やはり亀に類する種族なようで殻にこもることで耐え忍ぶ亀。

 しばらくお手玉が続き、その後はどうやらこのままではだめだと判断したイワシが攻撃方法を変えた。

 背中に穴を貫通させるほどの圧縮させた水魔法を放った。

 結果として血をまき散らしながら絶命する亀。


 イワシってもしかして強いのでは?



☆★


 真珠のように煌めく砂浜にガラスと例えられるほどの透明度の高い海水による絶景が見える港。

 それは地球の南国リゾートの様な場所にありながら振り返れば全ての屋根が白で統一されつつもそれ以外は雑多で家々の向きもバラバラな街並みが見える。


「海に行くにはここしかないか」


 誰も居ない砂浜で陽に目を細める男はそう言った。

 時刻は夕方で、遠くに見える山に落ちる夕日は白と橙と緑のとてもきれいなコントラストを彩っている。


 とても不可思議な光景であった。

 ただ一人の人間が夕日をまぶしそうに、満足そうに眺めるさまはその人物の端正な顔も相まって非常に様になる。

 不可思議な部分はその男にある。端正な顔立ちに加え、少し不健康に青白く見えるが傷一つないきれいな肌。鍛えられたその肉体を見せつけるように海パン一つで立つ姿は地球でのアイドルとそう変わらないだろう。


 その背中に悪魔の様に漆黒の羽が伸びていない限り。


 可愛いねぇちゃんも一緒に居れば満点だったとぼやくその男の種族は吸血鬼ヴァンパイア

 その種族は怪力と体を霧のように変化させる能力で知られるまさしく人外。

 その代わりにと課せられた太陽のもとでの活動制限をあざ笑うように立つその男は世界のルールに真っ向から反しているこの状況を不可思議以外の言葉を当てるとしたらきっと常識の埒外などであろう。


 いつものこの時間ならこの景色を見に沢山の人間が来るはずだが今日に限ってそこにはその男以外の人間の気配なんてものはない。

 吸血鬼ヴァンパイアであるこの男にも一端ほどの理由はあるだろうが、その男以外の生物がいない理由として重要なことではないだろう。


 あぁいや、その男以外の生き物がいないわけではない。

 あともう一体いる。


「思ったよりきれいだな。よし、堪能した満足した。迷惑かけてるみたいだしもう行くか。任せたぞメルファ。」


「グルァァ」


――この世界の人々が恐れる災害と呼ばれる代名詞。


――悪魔。ダンジョン。そしてもう一つ


――その牙は世界最硬の金属をかみ砕き、神をも喰らう、人の手が届かない空の王者


――――ドラゴンである。

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