第19話

「アンタが居るなんて珍しいわね、ご飯食べてくでしょ」




 私は勉強に身が入らないから一階のリビングで本でも読もうと階段を降りたらママが帰って来た。リビングでお姉ちゃんを見るとママが驚いたように話しかけてた。




「うん。食べてくよ」




 ママは直ぐに夜ご飯の準備にかかった。心なしか嬉しそうに見える。




 お姉ちゃんと一緒にご飯を食べるのもかなり久しぶりかもしれない。




「ママ」




「どうしたの」




「明日からバイトするね」




 私はソファに座って台所に向かって声を上げる。




 口の中はカラカラで声もうわずってずっていたかもしれない。手には汗が滲み、




緊張で背筋に嫌な汗もかいた。




「いいけど、いつの間に面接とかしてたの」




「紗良の家さ、喫茶店でしょ。でね、バイトしないって言ってくれたからさ」




「迷惑掛けないように、しっかりなさい」




 ママはそう言って微笑んだ。




 自分から何かをしたいと言ったのは初めての事だったかもしれない。だから嫌に緊張したし、怖かった。でもママは頑張れと応援してくれる。




 何に対して怖かったのかが少し分った気がした。




 私は知らないことでどんな反応をされるのかが分らない事が怖かったのだ。




 私はもしかするともったいないことをしてきたのかもしれない。ホッとしたのもあるけれどもっと自分を、相手を信用しても良かったのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る