第33話 依頼受諾
「できれば城の者全員を救い、守りたい。頼めないか?」
それでルシアスさんは魅了無効の特効薬なんて言い出したのね。
理由も詳しく聞かずに考え始めて、しかも口にまで出してしまったから断るのは今更無理だよね。
まあ、ぶっちゃけとても作ってみたいし。うん。
「でもそれなら元栓を閉めてしまった方がいいです」
「え?」
「スティリア王女の【紋章魔術】を封じましょう。その方が効率がいいです」
「……そんなことができるのか?」
「私一人では無理ですが……ルシアスさんの持つ水聖獣様と土聖獣様の加護を使えば多分……」
あの人を放置すると、ルシアスさんの妹さんが危険な目に遭う。
これはなんというか、今までの話と自分の経験から言ってまあ、間違いない。
会ったこともないお姫様だが、私の薬で一命を取り留めていると聞いたあとではまた死にかけてほしくない。
というかお姫様、危険な目に遭いすぎでは?
ルシアスさんが過保護っぽくなるのも無理はない頻度……。
「俺にできることならなんでもする」
「面白そうだ、余も手伝ってやるぞ」
『我が愛しき薬師の願いならば、我も手伝おう』
「ほ、本当ですか?」
火聖獣様と風聖獣様まで手伝ってくれるのなら、成功率が上がる!
よし、作ろう! 今すぐに!
「では、今から試薬を作ります。報酬は私を“薬師の聖女”と呼ばないこと。ただ、私の[魔術封じ]は、魔獣避けを紙に写す程度の弱いものなので……」
「任せるがいい。聖獣たる我らがそこは補強してやる」
『うむ。その程度造作もない』
頼もしいです、火聖獣様! 風聖獣様!
「ルシアスさん、薬はどの形状がいいですか?」
「形状?」
「あと、固さや味とか……希望があれば……」
「なるほど使う時にどのようなシチュエーションによるか、ということか。効果に差が出るのか?」
「はい。えっと、液状は効果が出るのが早いです。その分効果が切れるのも早いですね。固形は遅効性になります。その分効果も長続きします。粉末はその中間、でしょうか。無味無臭や甘い辛いなどは、事前に言ってもらえないと後から変更できませんので……」
「なるほど……うーん、そうだな……」
そこまで言ってから、少しだけ躊躇する。
私は自分の薬で、人の生死や運命が変わるなんて想像もしてこなかった。
でも失敗作の薬をスティリア王女が勝手に使っていたと聞いて、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けて……目が覚めたようだ。
なにより、ルシアスさんの心配はごもっともだしスティリア王女ならやるだろう。
それを止める。
その結果スティリア王女がどうなるのかは……わからないけれど。
「ルシアスさん……あの……スティリア王女の[魅了]を無効化したら……スティリア王女は、どうなるんでしょうか?」
「どう、とは?」
「こ、殺されたり……」
それは、嫌だと思った。
ひどいことをされたとは思うし、あの人はひどいことをしたと思う。
人まで殺していたのなら余計に二度と関わりたくない、罰は受けるべきだと思う。
でも、間接的でも……もう二度と私は人の命を奪いたくはない。
薬を作るのが好きだから。
闇聖獣様が私をお許しくださったのは、きっと……自分の作った薬に対して無頓着すぎた私を、正しく導くためだと思いたい。
「……君が望むのなら処刑はしない。崖の国との関係もあるし、しばらくは魔術封じの魔道具で拘束して、崖の国と協議の上身柄をどうするのかを決めるつもりだ。それではダメかな?」
「いえ、それなら……」
それなら、大丈夫、かな?
「ミーア、あなたは自分の薬が誰かを不幸にすることを恐れてるのね?」
「……」
ダウおばさんが、しゃがんで私の隣に座る。
もふもふの羽根に包まれてあたたかい。
そう、私は怖くなった。
薬作りはやめられないけど、それでも。
「大丈夫よ。少なくとも、その[魅了]にかかっている人たちは救われるんでしょう?」
「!」
「助けてあげなさい、あなたの力で。大丈夫、あなたのやろうとしていることは人を救うことよ」
「……はい」
もふっ、とおばさんの羽根の中に埋まって顔をぐりぐり押しつけ、すーっと匂いを吸い込むと……なんか落ち着く。
よし、すごくやる気出たぞ!
「では改めて……形状は液状。できれば聖獣治療薬と同じ色にしてもらえると助かる」
「え?」
「少なくとも彼女には俺の部下の命を奪った責任を取ってもらう。カルロはエルメスを救ってくれた俺の英雄でもあった。それも聖獣治療薬を作ってくれる、“薬師の聖女”本人であるのならばと飲み込むつもりだったが、そうでないのならしっかり罪は償ってもらわないと俺の気が済まない」
目が、冷たい。
本気だ。
さらに「城で我が部下、家臣の[魅了]も進んでるようだしね」とつけ加えられると、そのお怒りの底が知れない。
スティリア王女はすでに多くの人を傷つけた。
そしてルシアスさんの逆鱗に触れていたのだ。
なんにしても、依頼を受けた以上きっちり作りますよ。
私は薬師だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます