第75話
さらに、二週間ばかりして、いよいよ工事が始まる現場での打ち合わせに、その社員はメーカーからもう二人の社員を連れてやって来た。人数というのは大切だ。大切な交渉は、一致団結という言葉の通り、皆が力を会わせる事で、大きな成果となる。その社員は、夫人の前で全く何も言えない人だった。そんな彼にとって、自分の力になってくれる、頼りになる助っ人として、いろいろ考えて連れて来たのに違いなかった。
彼が連れて来た二人の社員は、初対面の挨拶に、ニコリともせず、夫人を凝視していた。メーカーの社内でも、夫人の事が問題視されているのは明らかだった。
現場でも、門扉をどう設置するかという交渉は、全て夫人が取り仕切った。老主人は夫人の隣にいて、一言、夫人に注文を入れたけれど、夫人は全く聞く耳を持たず、老主人は結局、何も言えなくなって、後は、ただ黙って夫人の言うがままになった。
交渉が済むと夫人が、「施工の時は、あなた方が来てくださるの?」と聞いた。すると彼が連れて来た二人の内の一人が、ギロリと夫人を睨み付けて、「いいえ。施工は別の者が来ます。」と言った。請け負い業者だ。私はため息が出た。
夫人は、交渉する相手の利益とか、気持ちとか、そういう配慮は全くなく、ただただ、値切る事が自分の役割と考えているような人だった。
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