第72話

私は、自分の家が欲しかった。誰にも肩身の狭い思いをせず、「只今!」と帰れる自分の家。私は、毎朝、今昇る朝日に、「私に家を下さい!只今と帰れる、自分の家を下さい!」とお願いした。私に出来る事は、祈り願う事だけだった。お金もなく、何もなく、どうする事も出来ない私に出来る、たった一つの手段は、祈る事だけだった。祈るという事が、決して無力ではない事を私は知っていた。

日本人は昔々から見えない大きな力がある事を知っている。喜びにつけ、悲しみにつけ、日々、神仏と交わり、感謝し祈る事を習慣として来た。

鰯の頭も信心からという言葉の通り、どんな事にも、どんなものにも、力がある事を信じて来た、素朴な民だ。祈りは、お金が無くても出来る、たった一つの手段だ。どんな家がいいか、どんな環境に住みたいか。夢を描く事は希望になる。楽しい夢を見るのは、無料だもの。それに、すむ家があるという事は、人にとって、生きる為のなくてはならない基盤だもの。

毎朝、今昇る太陽に、今思っている事、お願いしたい事を祈る時、私の心はときめいて、喜びが一杯に広がって行く。

分け隔てなく、全ての命に、降り注がれる虹色の輝きは、間違いなく、希望の光となって、私を支え続けてくれた。


地震が起きる二、三ヶ月前だったと思う。よく覚えていないけれど、私はある異変に気がついていた。

格子戸に取り付けてあるインターホンを誰かが押すと、格子戸に立っているその人と、周辺が、台所のモニターテレビに大きく写る。結構な範囲で、人も車も駐車場も、門も、門の前の道路も殆ど見えた。

ある、出発の前に、車の確認をするために、そのモニターを押した。すると、そのモニターの画面に、一本の光の橋良が見えた。私は、その光の柱をそれまで見たことはなかった。これは何だろう?と不審に思い、その日から注意して見るようになった。

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