第17話

私は以前、買い物の帰りに見た、子供の姿が忘れられない。その家は、玄関に鍵がかけてあって、中へ入れないらしく、玄関の入り口のセメントのたたきの上に、その子はランドセルを背負ったまま寝転がっていた。まだ一年生になったばかりらしい男の子だった。私は、はっとしたが、狭い通路を車で通っていたので止まることもできず、通り過ぎたけれど、大きな衝撃を受けた。一軒の家のできごとは、一事が万事という通り、世の中の家庭というものが、家庭として機能しなくなっていることを伝えている。いつまであの子は、ああして、親を待っているのだろうか。私は胸が痛くなった。疲れて帰って来る母親はあの子に、あの子に明るい言葉をかけてくれるだろうか。「お帰り!」と、ニコニコと自分の帰りを待ってくれている、お母さんの存在こそは、揺りかごと呼ばれる家庭の幸せだと思わずにはおられない。家事は、舵と同じ響きを持っている。家庭という響きは、過程という響きと同じだ。家庭は、人が、人と成ってゆくための必要な過程として一人、一人に与えられている。過程のことを生い立ちともいう。その人がどんな家庭でどんな過程を経て自立したのか。人間の心を育む基盤となる家庭こそは、その働きの重要さが認識されなければならない。その家庭の舵取りをするのが、家事という働きだ。今、家庭は、共稼ぎをしなければ暮らしてゆけない様相となり、家は、荒れ果てている。子育ては、未来を背負って立つ人材を育む、最大の社会貢献だ。家庭を、家事を、ないがしろにしてはならない。核家族が主流となった今は、手が回らない分は、信頼できる人手が必要となる。

 

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