第15話
素敵な服が着たいとか、立派な家に住みたい、とか美味しいものが食べたいとか、そんな心は全くなく、父と母が、親子が、家族が仲良く睦みあい、いたわりあい、支えあって、暮らすことだけを願っていた。両親の争う声を聞くたびに、辛く悲しく、幸せではなかった。夫と結婚しても、私は稼ぐことに興味がなく、夫から貰う毎月の給料の中で、どうすればもっと豊かに、もっと楽しく喜んで貰えるか、できる限りの工夫をした。子育てと家事に一生懸命で、今思えば、もっと、自分のために時間を使うべきだったと、後悔している。今は、専業主婦が珍しくなって、家事が切り売りされる時代になっている。一時間働いていくら、という時給制で、食事の仕度も、洗濯も掃除も後片付けも、主婦業の何もかもが切り売りされている。家庭というのは、人が人間となってゆくための基盤となる揺りかごだ。赤子がこの世に産まれ落ちて、初めてのこの世の有り様は、父となり、母となる人の人柄に触れて、感じとってゆく。自分の誕生を心から喜んでくれる、父と母の会話。温かく、柔らかく、良い匂いのする甘いおっぱい。やさしく、しっかりと抱かれる安心感。母の目の奥にある慈しみ溢れる眼差し。«愛»というお金では買えない宝物を、赤子は、全身で吸い込んでゆく。産まれて、成長し、自立するまで、人は長い年月を家庭という、揺りかごの中で、学び教えられ、慈しまれて、社会へ羽ばたいてゆく。
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