第11話
ある夜、私は歩いて10分ばかりの大きな川にふらふらと出かけた。死のうと思っていた。生きていたって幸せになんかなれないもの。死のう。死んだらもう、何にも悲しいことはないから。両親に訴えて帰ることはできなかった。私は小さい頃から、入退院を繰り返し、どれ程親に心配をかけたかしれなかった。私が、学校で倒れて、フッと気がついたのは母の背中だった。母は、私を背負って泣きながら歩いていた。お母さんが泣いてる。・・・母の悲しみが痛いほど伝わって来て私はまたふうっと気が遠くなっていった。そんな私が、仲立ちになってくれた人のいう、❲真面目でいい人❳と結婚して、両親はどんなに喜んで、安心してくれただろうと思うと、とても言えなかった。じいっと川の淵に立って川面を眺めた。月のない暗い夜。川は不気味な闇の中で音もなく流れている。川岸には大きな石垣が組まれていて、その石を一跨ぎすればいいだけのことだった。一週間ばかり前から私は死ぬ準備をしていた。タンスの中、引き出しの中、押し入れの中、自分の持ち物などをきれいに整理整頓し、誰が来ても、何があってもいいようにしていた。父や母が悲しむことは考えなかった。ただ、ただ、自分が楽になりたかった。辛くて辛くてたまらなかった。生きていたくなかった。夫と一緒にいることは耐え難い苦痛だった。10分ほども立っていただろうか。不意に自分が死んだあとのことが浮かんだ。明日、誰かか私の遺体を見つけて大騒ぎにはなるだろう。夫は葬式ぐらい出してくれるだろう。とそこまで思った時、私はハッとした。残されたまだ三歳になる長女と、生まれて間もない次女はどうなるのかと。
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