第10話

以前、テレビで、富士山山頂のご来光を涙して拝す、多くの人びとを見たことがある。富士山で見る御来迎はまた、特別なものなのかも知れないが、毎朝、今昇る朝日の限りない眩しさ、素晴らしさは、心からの感動と感謝に包まれる。新緑のむせかえる芳しさを吸い込む時のあの喜び。ポタポタと汗を流して働く時、すうっと吹き抜けて行く爽やかな風の心地良さ。聞こえて来る小鳥の声、水の音。五感も六感も、その時々に感じる幸せや喜びを全身で感じてくれる。自分の中にあるお金では買えない感覚を、私は心から尊いと思い、敬虔な思いに包まれる。愛という文字は、メとも読む。愛することをメでるというし、かわいらしいことをメぐし、ともいう。愛しあっている夫婦は、メオトというし、目は、愛を表現するものだということがわかる。これは目に見えるものを見る時の物の見方を教えてもいる。すなわち、目に見える対象をメでる、愛らしいと見ることが目の持っている力なのだろうと思う。今、目にしている対象を愛と見る時、目は、目としての最大の力を発揮して、限りない感動や感謝や喜びとして、全身に広がってゆくのだろう。ものの見方で、見る対象の印象はガラリと変わる。私は夫のそういう言動を愛でることができず、賭け事に溺れる夫が嫌でたまらなくて、生きていることが苦痛になっていった。

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