龍国の襲来(18)

破壊された龍王の城、過去の栄光を背負った廃墟で、俺はシリカの壮絶な変貌を目の当たりにしていた。


彼女の父、ルクスがグレンの手によって命を奪われた悲劇が、シリカを怒りの獣へと変えてしまったのだ。


シリカの姿は、もはや人間のそれを超え、暴走龍として暴れ回る。


これ以上暴れ回れば、龍の王国が滅びてしまう。

それをどうしても避けたい。


そして避けるには、シリカを元のシリカに戻させる必要があるんだ。


「この恨み、絶対に晴らしてみせる!」


聞こえた。

シリカの声が、頭の中で木霊する。


その叫び声が天井を突き破るほどの轟音を伴い、心に響く。


しかし、本番の戦いの前に、冷静さを取り戻す必要があった。


彼女を止めるため、そしてグレンに立ち向かうためには、しっかりとした作戦が不可欠だった。


「俺は何をすべきか…」


心の中で葛藤しながら、俺はルシアナとアリスのもとへ向かう決意を固める。


彼女たちと合流することで、シリカを救い、同時にグレンを討つための手立てを見出せるはずだ。



城の廃墟を進む。

ルシアナの冷静な判断とアリスの勇気を頼りにしていた。


彼らの力を合わせなければ、シリカを失うだけでなく、次なる戦いにも勝てない。


頭の中には、グレンの鱗に阻まれた剣の感触が残っていた。


「あのままでは、何も変わらない…」


その思いを胸に、魔力察知を使って二人の元に急ぐ。


するとやがて、ルシアナとアリスを、見つけた。


緊迫した表情の二人を見た瞬間、俺は心強さと共に重圧を感じた。

そのとき、彼女らは俺が近寄っていることに気づき、表情を変える。


「お兄ちゃん!大丈夫だった!」


と、アリス。


「カエデ、さん?」


と、ルシアナ。


いや。驚くべきは俺のほうだけど。


「なんで、まだこんな場所にいる? 危険すぎるだろう」

「探してましたよ、二人とも。シリカは?」


答えたのはいつも冷静なルシアナ。

そんな彼女の質問に、俺は言う。


「ちょうどいい」

「はい?」


と、困惑するルシアナ。


「実はさ、シリカはいまはぐれドラゴンのリーダーと戦ってる」

「え?」

「だが、なんかやばいことがあって、彼女はもはや俺たちが知ってるシリカじゃなくなってる」

「どういう意味ですか?」


と、ルシアナが聞く。

その隣に立っているアリスも若干困惑しそうな表情を浮かんでいる。

もうちょっと説明する必要がありそうだ。



「そうか。シリカちゃん可哀想」


まったくだ。


「で、私たちはどうします?」

「もちろん、シリカをここに置いてきぼりさせるわけにはいかない。何か作戦を立って彼女を助けたいと思ってる」


「そうですね。私たちの力を結集すれば、必ずシリカを取り戻せると思います」


そう言いながら、俺は彼女たちの言葉を心に刻む。彼らの連携が、絶望を乗り越える鍵となることを信じて。


「今は、全てを賭ける時だ。」


覚悟を決め、三人の絆を深める。


壮絶な戦いが待ち受ける中で、希望の光を求め、彼らは新たな決意を胸に、シリカの元へと向かっていく。


城の廃墟を進む中、周囲は静寂に包まれていた。どこか不気味な静けさが、俺の心に不安を呼び起こす。


彼は、シリカが暴走している限り、この城の隅々まで破壊される可能性があることを理解していた。


「私たちの作戦はどうするの?」


アリスが不安そうに尋ねる。


「まずはシリカを止める方法を見つけないと。彼女が正気を取り戻さなければ、龍の王国が滅びてしまう」


俺は彼女の目を見つめながら言った。


俺自身も、心の奥底で恐怖を感じていたが、それを表には出さなかった。


「シリカを抑えるために、何か特別な手段が必要かもしれない。」


ルシアナが思案しながら続ける。


「彼女が暴走しているのは、感情が暴走しているから。何か、彼女を落ち着かせるようなものがあれば…」


確かに。


「魔法の力を使うのも一つの手だが、今は相手が龍だ。普通の魔法では逆効果になる可能性もある。」


俺は言葉を続けた。


「だからこそ、彼女が本当に大切に思っているもの、つまり家族の思い出や、愛する者との絆を思い出させることができれば…」


その瞬間、頭に一つのアイデアが閃いた。


「俺がシリカに語りかける。彼女の心の中に残る感情を呼び起こすんだ。」


「でも、もしシリカが攻撃してきたら…?」


アリスが懸念を示す。


「それでも、やるしかない。攻撃してこないと思うけど」


俺は決意を固めた。


「俺が彼女の心に直接語りかける。ルシアナとアリスは、そばにいててくれ。」

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