龍国の襲来(17)
アレ?
おかしいなぁ。
日本刀、黒薔薇の刃――我が愛剣が、真っ二つに?
「何?その顔? その弱い攻撃でオレを殺せるとでも思った? これだから人間は最低な種族と言われている。自惚れたヤツらばかりで気持ち悪い」
そう、目の前のヤツが言った。
しかし全然耳に入ってなかった。
驚愕のあまり、空中でフリーズしたまま絶句するしか出来なかった。
すると、
「さっさと失せろ。目障りなんだよ」
グランは言うと、次の瞬間見えないなにかに楓は押しやられた。
「チェ。身の程を弁えろ、人間」
死んでいるな。
そう、グランは思ってまたシリカに集中する。
しかし押しやられた楓は実は死んでいなかった。
人間だから壁にぶつかったら即死なんだと彼は思っていただろう。
でも彼は知らなかった。
楓は普通の人間とは一味違う、ということを。
◇
見えた。
黒薔薇の刃がヤツの首に当たる前に、一瞬だけど楓はたしかに見えた。
ヤツの首が龍の鱗になったことを。 龍の鱗は固いってわかってる。
でも、魔剣を折れるほどそこまで固いとは知らなかった。
確かに、龍化したシリカと戦ったときみたいに魔力で刃を強化すれば少しでも確実にダメージは与えられる。
その経験からヤツも同じだろうと楓は思ったけど、違った。
つまりヤツはシリカとはレベルが違うってこと? いやでも、もしそうだったらシリカを相手に逃げたりはしないよな? 間違いない。
目の前の、青い鱗を覆っているのはシリカ。 魔力察知を使って確認した。 でも、自分が知ってるシリカじゃない。 身体中に流れてる魔力は禍々しいものだから。
何があってシリカをそうしたんだろう? そしてもし勘が正しければ、そのきっかけはもう知ってる。
………どこにもルクスの姿が見当たらない。 魔力も感じられない。 もしかして、死んでるんじゃないか? 魔力察知でルシアナとアリスと、シリカとヤツの魔力しか見つけられない。
でもやっぱり探しても探しても、ルクスの魔力は全然見つけられないんだ。 死んでる、明らかに。
そしてそれがきっかけで、シリカは別の何かに進化したってわけだ。 そう、楓は結論を出した。
もしそうだったらこれからの戦いは、相当ヤバイことになるんじゃない? シリカは明らかに正気じゃない。
最悪な場合、はぐれドラゴンのリーダーだけじゃなく、仲間の1人とも戦うことになるかもしれない。
それら強敵の前で、一体自分に、何ができる? この世界に現れて、最初に足を踏み入れた街で買ってずっと使ってた日本刀の黒薔薇が折られた。
戦力の大きな一部を失った気分だ。 確かに魔法はまだ使えるけど、北天のボラリスとの戦いでは結構な魔力量を使い切ってる。
それだけじゃない。
それ以上暴れ回れないように大勢のはぐれドラゴンを脱出不可能の結界で封じてる。そしてその結界は今でも魔力量を消費してる。 この世界に初めて来たとき以来、楓は自分が無力であることを味わってるんだ。
◇
「ちくしょう。なんなんだよ、これ。本当に何もできないのか? いや、なにが、なにができるんだろう、この状況では?」
悔しさに歯を食いしばりながら、俺は呟いた。
魔力は消費されつつある。
もし魔法で戦うなら、高級魔法は全然使えないか。 もう、低級、中級魔法の縛りにうんざりしてきた。
こんなの、ずるくね?
………とは言っても、この世界での俺の存在自体は結構ずるいと思うが。
俺にできることを強いていうなら、全力で戦えるには脱出不可能な俺が張った結界から他のはぐれドラゴンを解放することだが………愚かさにもほどがある。 もし解放したら、龍の王国はもう終わりだ。
とは言うものの、こいつらの戦いがこれ以上大きくなったら結局終わっちゃうよね。 こんなところ、来るべきではなかった。
考えれば、【龍の印刻】を持っているのだとしても、それは別に龍の救世主にならなきゃいけないわけじゃないんだ。
前世でアニメを見すぎたせいで影響されたか、あるいは可愛い女の子に頼まれたか、結局のところ男のメンタルが弱すぎ。
…………いや、俺のメンタルだけか? にもかかわらず、もうしたことだし、後悔しても埒があかない。
とりあえず、一旦撤退しようか。 魔力察知でルシアナとアリスがまだ生きていることがわかっていても、それでも二人ともが無事であることをこの目で見てみたい。
ついでにそのうち、なにか作戦を考えつけられるかもしれない。
シリカは………… ふと、また目の前で起こっている戦いに視線を投げる。 この戦争を唆した黒幕であるはぐれドラゴンのリーダー、確か名前はグランだったか―――は、必死にシリカの攻撃を回避しながら逃げようとしている。 しかし、シリカは全然アイツを逃がしたりはしなかった。
そう見て戦いの状況を確認した。 うん。 シリカは大丈夫そう。 あと、もう一度ルシアナとアリスの居場所の確認………と、 ルシアナとアリスは………ふむ、あそこか? 距離的にはあんまり戦いの場から離れていないかもしれない。
それはぶっちゃけいいことか悪いことか今の時点ではまだわからないが、少なくとも二人は一緒にいる。 それは何より、ありがたいことだ。
「ごめん、シリカ。もうちょい、待っててくれ。俺は必ず戻るからさ」
そう言い残すと、ルシアナとアリスがいる場所を目指して、その場を出る。
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