龍国の襲来(16)
「アリス! ……アリス、どこ!? どこにいるの!?」
そう叫ぶルシアナ。
必死に妹のアリスの名前を呼びながら、彼女はあっちこっちを探しまわっていた。 ついさっきまで一緒だったのに、大きな音を聞いたら、次の瞬間でお城が崩壊してしまった。
本当に、一瞬だった。
「アリス!! 聞こえてるでしょ!? アリス!! お願い、なんか言って!! わたしをひとりにしないで!!」
妹を見失った。 どこにいるのか、そもそもまだ生きているのか、ルシアナは全く知らなかった。 そしてその事実を知って、圧倒的な恐怖と深い寂しさに襲われていた。
――両親を失った。 お母さんは難病で亡くなり、お父さんは自分たちを守るために山賊と戦っていたが、勝つことができずにあっけなく殺されてしまった。
その日から、唯一の家族である妹のアリスを自分が守ると彼女は誓っていた。 けれどそんな妹が急にいなくなった。
もうどうしたらいいのか、考えるだけで激しい吐き気がした。 涙をこらえることができず、自分を支える力も抜かれ、そのまま嗚咽しながら糸が切られた人形みたいに地面に崩れ落ちる。
妹――唯一の家族を失った孤独な少女の悲しみ。 もう生きる価値がない。
ここで炎に飲まれて死んだ方が楽。 そう思い始めたころ―――
「…………ぇちゃん」
微かだけど、ふと、声が聞こえた。
………少なくとも、そんな気がした。
「ねえちゃ……ん」 また声がした。
今度ははっきりと…… しかしまだ小さいけど………
「お姉ちゃん! しっかりして!」
………アリス。
…………そう。
今のは確実にアリスの声だった。 でもアリスはもう死んでいる。
声が聞こえるはずがない。 つまり聞こえているのは単なる幻聴に過ぎない。
そう、ルシアナは結論していた。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
すると感じた。
小さな女の子の小さな手を、自分の肌に。 まるで……………あのときみたいに。
「アリ……ス?」
頭を上げ、声がした方向へと視線を投げる。
するとそこに見えたのは、妹のアリスだった。
見たところ、怪我はしていない。
顔は煤だらけだけど。
「アリス!!」
勢いよく体を起き上げ、涙を流しながら妹を抱きしめる。 一方でアリスは、 「え、お姉ちゃん?」 やたら困惑しているような口調で彼女は言った。
何が起こっているか、そんなことが全く理解できなかった。
カエデお兄ちゃんの援護をしようと意気込んでいたが、気づいたらお城が崩壊した上にお姉ちゃんとはぐれてしまった。
お姉ちゃんとそもそも再会することができた理由は、大声で自分の名前を呼んでいるのが聞こえたから。
しかし返事をしようとするたびに、喉が渇いていて全然声が出ていなかった。
おそらく空気を支配する煙のせいだろうか、今でも声がかすれているが、そんな必死で自分の名前を呼んでいたから、お姉ちゃんの声をたどって見つけることができたんだ。
「お姉ちゃん……何が起きているの? カエデお兄ちゃんとシリカお姉ちゃん、大丈夫なの?」
そう、ルシアナを抱きしめ返しながら、聞くアリス。
その瞬間、
「グォアアアアアアァァ!!!」
また咆哮が聞こえた。
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