龍国の襲来(14)

もう、何も頭に入ってこない。 ヤツを倒すこと以外は。 目に見えるものをすべて破壊すること以外は。 何も、暴走龍に進化したシリカの頭に、入ってこない。


ヤツ――自分の叔父であるグランは、ドラゴンの王である自分のお父さんを殺した。 はぐれドラゴンを率いる存在。 そんなものが容赦なく、自分の弟を殺してしまった。 とんでもない状況だ。


しかし事実だ。 そのせいか、シリカは覚醒した。 あの時の自分に戻ってしまった。 確かに暴走龍の血は引いている。 お父さんの血も暴走龍のものだけど、シリカと比べると、とても薄い。 むしろお母さんのほうは暴走龍の血がすごく濃くて強い。


そのとこも母譲りだ。 ヤツが死ねば、問題が解決される。 しかしお父さんは死んだままで、けっして戻ってこない。 そしてその酷い事実に気づいたシリカは、自分の行動を止めることはできなかった。 いや。


そもそも止めようとすることすらしなかった。 「グォアアアアアアァァ!!!」 地を揺らすほどの野太い咆哮。 ずっと前から見つめることしかできなかったグランは、


「………」


やはり何も言えないままでいた。 これから繰り広げられる戦いは、必死のものになると彼はもうわかっているからだ。 相手を下手に挑発することより、その態度、表情、行動などをよく観察して、適切に対応するように頭の中を完全に戦闘モードに切り替える。


油断すれば愚かな弟みたいに死んでしまうと、彼はそれもわかっている。 しかし彼女が集めている魔力は止まらない。 かといって、自分から戦闘を開始するのもできればしたくない。


下手に行動すればまるで命を投げ捨てているかのようで、なんの得もないので。 しょうがない。 待つか。 むしろ待つことしかできない。 そう決めるグラン。 けれど幸か不幸か、待つこと数秒しか経ってなかった。


魔力を集め終わったシリカは、その魔力を放出すると、広げてゆく。 辺りは一時的に真っ青に染まる。 そしてその次の瞬間、シリカはその姿を現した。 大きな翼を広げながら、シリカは頭を上げてグランを見据える。


目の前にはシリカじゃないシリカがいる。 人間の姿のシリカじゃなくて、龍の姿のシリカだ。 そう。 シリカは確実にお父さんの仇をやっつけるために、龍の姿になった。 しかし目は赤いままだった。


そう気づいたグランは、シリカは正気に戻っていないことがわかった。


「なるほど。龍化するために魔力を集めていたのか。しかし、ただ姿を変えるためだけで、使用した魔力量が多すぎないか? なにか違うような気がする」


が、どっちみち彼女は準備ができている。


「そう来るなら、オレも龍化しようか?」


むしろ、自分も龍化せざるを得ない。 そこまで傲岸不遜なヤツじゃないので。 そう決めたグランは、自分の禍々しい魔力を集め始めるのだった。

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