ドラゴンの抗争(1)
と、そう思うや否や、
「因みに、シリカさま。そこの3人は?」
突然、そんな言葉が耳に入った。
好奇心に満ちる口調だった。
そもそも俺ら龍族外はここにいるはずがないからこの反応を受けるのももっともだな。
その質問を聞くと、シリカに集っていたドラゴンはほぼ同時に視線をこっちに投げつける。
幸いなことに、ドラゴンの数はそれほど多くはないが、それでも結構の数が集まっている。
見るところ、恐らく10体くらい。
気まずくないというわけではないのだけど。
横目で、強ばるルシアナの姿が見えた。
数秒おきに俺をチラ見する彼女の視線も一瞬感じていたが、それはあくまで一瞬のことで次の瞬間にその感覚が一時的に完全に消えるのだ。
ちなみにアリスは……まあ、通常運転ってことで。
やべぇ!
無邪気すぎる!
「ん? あぁ、この3人か?」
そしてドラゴンの問いに、シリカは後ろをチラ見すると何気なく言う。
ねぇ、シリカちゃん〜。
もしかして、俺たちの存在を忘れたりはしませんでしたか?
そんなことはないですよね?
そう、そんな質問を視線で訊こうとしていたが、平然とした顔でシリカはまた手前に視線を向ける。
どうやら届いていないみたいですね。
「女の子の2人はエルフの姉妹、ルシアナとアリスで、男は【龍の末裔】の紋章の持ち主であるミヤザキ・カエデ。本名はカエデだけど」
そう説明するシリカ。
外面であまり変わらなさそうな彼女の表情だけど内面だと宝物を発見した冒険者の様に嬉しさの余りで跳ね回っているに相違ない。
ドラゴンが衝撃を受けたような顔をしたところを見るとシリカと同じく内面で跳ね回っているだろう。
「え? 嘘だろ?!」
「この人間が我々龍族の救世主だと?!」
「……でも確かにとんでもない魔力を感じられるなぁ。ただ、こんな人間が発しているとは思わなかった」
などとそういったコメントが聞こえた。
どうやら俺が、注目の的になったようだ。
………バツが悪い。
穴に入りたい。
「ってことで、父上に紹介する為にここに連れてきたってわけだ」
「なるほど。確かに国王陛下さまはこの展開について伺いたいと思いますね。でもエルフの姉妹は?何上ここに連れていらっしゃいましたか? 一人はまだ子供で、もう一人は体内に流れる魔力量もそれほど多くなくて、その密度もあまり強くはないのですが。万が一戦いが始まったらあまり役に立たないと思いますが……」
はぁ? 何この野郎?
自分が何を言ってるかはっきりと理解しているの?
「そうね?」
しかし口を開けるより早く、シリカは語り出す。
「知らないかもしれないけど、ルシアナとアリスは龍族じゃなくエルフなのよ。もし、お望みでなければ我々【龍族】の事情に参加しなくていいのよ」
そう、【龍族】を強調しながらシリカは言うと、ドラゴンは不満に顔を歪める。
「でしたらここにいる必要がありませんですよね?」
そしてドラゴンの反駁を聞いて、シリカは目を細める。
……怒っていらっしゃる。
つまり、俺の出番だな。
なんも言わないと、コイツが殺されるかもしれないから。
溜息をついて、ドラゴンを見やると、
「俺の連れだ。文句があるなら……と言っても、お前の意見なんてどうでもいいからこれ以上何も言わなくていいだろ」
「な! お前、 よくも……」
「……王様の娘にそんな口を利いているね。確かに。もし、王様に言いつけていたら……まあ、その始末はすでにわかっているだろ」
「…………ふん」
歯を食いしばり、緑色の鱗で覆われているドラゴンはそっぽをむいて立ち去る。
随分とめんどくせぇやつだな。
あいつと二度と関わらなければいいのに。
「あんたの介入は必要なかったのわね」
シリカはこっちを見ながら言う。
まあ、それはそうかもしれないが、
「で? 言っておくけど、別にお前の為に介入したというわけではないなんだ。ただアイツがあまりにもめんどすぎて腹が立っただけ」
……あれ?
今の発言って、ツンデレっぽくなかったか?
気のせいか?
「そうか? まあ、別にいいけど」
横目でルシアナを見ると、彼女はとても感謝したいるような表情でこっちを見つめている。
……ふむ。なんかよく見たら可愛いなぁ、ルシアナって。
………………なんで、今更?
っていうか、そういうことで思い馳せるどころじゃないんだ。
そう、思った瞬間、シリカの声が聞こえた。
「おい。気を散らすんじゃないわ。早く行こうよ」
バレたようだ。
こいつ一体なんなんだ?
ドラゴン以外?
……すいません。素朴な質問でした。
「はいはい。わかったよ」
そう言う俺。
しかしシリカはあまりさっきの発言に気を張らず、歩き始める。
いまから龍の王国を治めている王様に会うんだ。
めっちゃ緊張しているんだけど、まあいいや。
大事なのは、王様の前で敬語を使うこと。
そう、心に留めるとシリカのあとをついていく、俺とエルフの姉妹。
◇
俺たちは巨大なドラゴンの間を歩いていく。
前をシリカが歩いているので当然のようにこっちを見ているドラゴンが多いが、あえて近づく者は一体でもいない。
「みんな、でっかーい!」
「ちょっと、アリス。でっかいは失礼でしょ?」
相変わらずアリスはテンションが上がっているようだが、一方でルシアナはずっと下を向いて歩いていた。
「もうちょっと言葉に気をつけた方がいいと思う。もし、この方たちの機嫌を損ねたらすぐに殺されるから……」
どんだけネガティブなんだよと思うが、ドラゴンだらけだと落ち着かないこと自体はわかる。
まあでも、俺とシリカがいるから大丈夫でしょ?
シリカはここの王様の娘で、俺は【龍の末裔】の紋章の持ち主だ。
恐らくあえてお前に手を出す者はいないと思う。
俺らのステータスは別として、万が一もしそう言うヤツらがいるのだとしたら、龍の王に次ぐ力を持っているシリカとチートを活かして強さを得た俺はなんとかする。
「そんな顔しなくていいよ、ルシアナさん」
ルシアナの表情を見て、シリカが言う。
「確かに普段とは違って、龍国のドラゴンが勢揃いしているのでにぎわっているが、あんたを敵視しているドラゴンは一体でもいないんだ。むしろいつもはもう少しのんびりしているし、静かだが、最近のことでみんな気が立っている」
最近のことっていうのは恐らくイシンさまの聖教を捨てて【はぐれ】になったドラゴンのことだろうな。
考えれば、そりゃ気が立っているよね。
何時でも先制攻撃を行ってもおかしくないから。
戦争が勃発する前に平和会議を打ち上げたいものだけど、もうその手がないかもしれない。
「最近のこと?」
と、困惑している顔をしながら問い返すルシアナ。
それにシリカは、
「まあまあ。あんたが気にすることではないよ」
そう言い返す。
確かに。
本当はイマゼンに置き去りにしたかったが、始まる前にドラゴンの間の抗争を終わらせることができる、その自信があってこそここに連れた。
今でも、そう思っているんだ。
どうやって終わらせるべきかその事はまだ決めていないのだけど。
もしこの平和会議がなんの成果も得ないのならば戦うほかはない。
もし戦いになったら、意味の無い犠牲者を出さずにどうやって終わらせることができるか、その方法がわからない。
戦場の地形も、敵の数も、とにかく分からない点が多過ぎてどのふうに進めばいいのかイマイチわからない。
……まあ、しかたないことなのだ。
とりあえず、王様と話して……それからなんか考えよう。
そう決めると、
─────────────────
新しいクエストが追加されました
クエスト:ドラゴンの抗争。
内容:
・シリカに頼まれて、龍の王国に連れて行かれた。どうやら龍族が崇める神【イシン】の聖教を拒んで【はぐれ】になったドラゴンは、まだイシンの聖教に従っているドラゴンと戦争を始めようとしているみたい。その意図を明らかにせよ。
・はぐれドラゴンを殲滅せよ。
・はぐれドラゴンと平和条約を結ぼう。
ステータス
現行
目標
◇龍の王と話して趨勢を決める
◇はぐれドラゴンの議員を平和会議に誘う【任意】
◇はぐれドラゴンを殲滅する【任意】
※選択によってクエストの目標が大きく変わります。
クエストクリアの報酬:
・1000000E
・龍神の
・龍族と仲間になる
・????
─────────────────
どうやら新しいクエストが始まったみたい。
ってか、よく見たら趨勢を決めるのは完全に俺じゃん!?
いきなりハードルが高くないか?
確かにゲームでシナリオを決めるのはプレイヤーの役目のひとつだけど、これはゲームじゃなく現実だ。
俺の選択によって物事が大きく変わる、か。
「大丈夫?」
と、そんなことを考えると思わず不満に顔が歪んだ。
みんなに心配させたくないという気持ちになって必死に表情を変えようとしていたが、かえっていま俺が感じているこの不満感が強調されてしまったみたい。
「うん、大丈夫だ」
それでも、笑みを浮かべてルシアナに振り向いて返事する。
しばらく俺の顔を見てくるルシアナだったが、数秒後に見つめると、ルシアナは頷いてまた下に俯いた。
やっぱ彼女を見る度に、ますます前世の俺との似てるところが見えてくる。
そんな比較ができるようでは、あまり変わっていないということがわかるが、まあでもこの世に来てからほんの数週間だけが経っていたので、仕方ないことなのだ、と本気でそう思っている。
沈黙に落ちた、俺達の間。
周りの騒々しい奴らに気を張らず、しばらく通りを歩くと、【龍の王国】にある唯一の豪華絢爛な建物についたのだ。透き通るような青空で流れる柔らかそうな雲の上に聳え立つ、大きな建物だ。
その建物の周辺を囲んでいるのは、壮大な石造りの門。
そしてその門を見張っているのは、鎧を着込んでいるドラゴンの門兵の二体だ。
あまり深く考えずに、この建物はシリカとその家族が住んでいる宮殿だとわかる。
「「シリカさま?!?!」」
そう、門兵はシリカを見た瞬間、驚きで叫んでいた。
そしてその門兵の二体に、シリカは小さく頷くと、
「ただいま帰ってきました」
ただそれだけを言い返したのだった。
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