はい!?

しばらく門兵と話して、やっと宮殿に入れた。 天井が高くて、中は広い。


2階へと続く階段も見える。


「広い!」


アリスは大声で叫んだ。 顔の表情を見ると、走り回りたいって気持ちが伝わってくるけど、自分から離れないようにルシアナはギュッとアリスの手を握っている。


「ねえ、ちょっと。人の家の中で勝手にはしゃがないで」


そう、ルシアナはアリスを叱った。 姉妹から目を逸らして、シリカの方を向く。 シリカは、どうやら宮殿に入った拍子に人間に変わったみたい。 龍の国にいるからずっと龍の姿をしてると考えられるけど、違うのかな? そう思って、視線を返すシリカ。


しばらく見つめ合ったあと、彼女は口を開いて質問した。


「何? 顔になんかついてる?」

「いや。ただ、ここで人間の姿をしてるとは思わなかっただけ。どうして?」


俺が聞くと、シリカはなるほどって顔をした。


「ああ。まあ、24時間365日龍の姿でいなきゃいけない、っていう掟はないからね?」


…………まあ、それはそうだけど……


「あと、宮殿にいるときは人間になれって父上に言われてるから」


言われてみれば、ここはドラゴンを宿せるほどのスペースがないな。 そうか。そういうことか。 宮殿を壊さないように人間の姿を取らざるを得ないんだ。


少なくとも宮殿の中にいるときは。 ふむ。それなら納得できる。 ………とはいえ、俺が特に気にしてるわけじゃない。 人間の姿でも龍の姿でも、俺に言わせれば自分の家の中で龍の姿をしてない限り、別にどうでもいいんだ。


シリカの父親も多分、俺と同じ考えだと思う。


「父上は恐らく書斎にいるから、ちょっとついてきて」


そう言って、シリカは歩き出した。 そして素直に彼女の後についた俺たち。 歩くこと約5分。 気づけばやがてとある扉の前に立ち止まった。 【気配察知】を使わずとも、扉の裏にいる人物がかなり強いということがわかった。


コンコン、とシリカはドアをノックした。 するとしばらく待つと、「入ってもいいよ」という声が返ってきた。 遠慮なくシリカはドアを開けて、中に入った。 俺たちもシリカについて部屋に入った。 部屋の四方の壁に沿って設置されている本棚。


それが部屋に入った瞬間、はじめて目にしたものだった。 本棚にはいくつかの本が入っている。 この位置からうまく表紙は見えないけど、本の厚さからして割と難しそうなやつばかりだとわかった。


「あ、シリカちゃん。やっと帰ってきたね。お父さんとお母さん、大変心配してたよ」


そんな声を聞いて、目の前に視線をやった。 事務机が見えた。


そしてその事務机の後ろに座っているのは、おそらくシリカの父親だろう人物だ。 銀色の髪に、海の深さを思わせる青い瞳。 肌は真っ白で、体躯は俺と比べると、とにかくデカい。 身長も余裕で俺を超えている。


何、この化物は。 気になって【鑑定】を起動したら、驚きを禁じ得なかった。


─────────────────

ルクス Lv 100 職業:龍国の王、南門の守護者



性別 男性

年齢 10000 +

種族 上位龍



RANK:A


HP 50000/50000

MP 750000/750000


STR:?

INT:?

AGI:?

DEX:?


スキル


【表示する】


─────────────────


レベルは100でステータス値はシリカみたいに非表示なんだけど、それでもHPとMPの数値を見て言葉を失ってしまった。


そうか。 この人がシリカの父親か。 龍王。 彼が放っているその威厳のオーラはあまりにも強すぎて、正直に言って、こいつと同じ空気を吸っているだけで自分自身が屈しそうになっている。


「出る前に、私の心配をしなくていいって確かに言ったよね?」

「そう言われてもな、どんなに歳をとってもお前はまだ俺とテリサの娘だから心配するしかないだろ」


そう言うと、溜息をつく龍王。


「まあ、無事に帰ってきて何よりだ。テリサも喜ぶだろう」

「ちなみにお母さんは?」

「テリサは今、友達と出かけてるんだ。夕方までに帰ってくるって約束したんだ」


「そうなの?」

「そうだけど、何? テリサに言いたいことでもあるの?」


そう、訝しげな視線でシリカを見つめる龍王。 しかし龍王の質問に、シリカは首を振って否定する。


「いや別に。ただ久しぶりにお母さんと話がしたいな、って思ってただけ」


「お父さんとの話はどうなの?」

「今話してるでしょ?」

「いや、そうじゃなくて。この5年間のお前はどうだったって話が……」

「それならお母さんが帰ってきたら久しぶりに三人で話そうね。」


そうシリカは言うと、普段厳しい龍王の表情が緩む。 笑みを浮かべると、頷いた。


「そうか〜 それなら我慢するしかないんだね」


言うと、肩の緊張をほぐす龍王。 見るからに、本当に一瞥したら殺されそうな印象を与えるんだけど、意外と落ち着いてるね。 家族思い、ということが十分に伝わってくる。 そう、思いに耽ると、


「さてと……」


龍王が呟いた。

すると、


「…この人たちは?」


シリカから目を逸らし、俺たちに視線をやる龍王。 一瞬にして、俺たちの存在を忘れたかと思っていたが、娘と父親の間の話をしばらく聞いていたら、そうではないということがすぐわかった。


彼は単に娘と二人で話したかっただけだ。 だからあえて口を開けなかった。 それほど無愛想な人ではないからだ、俺。 そして振り向くことなく、シリカは平然とした表情で龍王の質問に答えた。


「エルフの姉妹はルシアナさんとアリスちゃん」

「……ふむ。そしてその男は?」


と、ここでシリカは微笑むと…あれ? ギュッと俺の片腕を掴んで肩にもたれかかるシリカ。 めっちゃいい匂いがするが、そんなことは今、どうでもいい! 何やってんだ、こいつ?! あ…当たってる〜


「そして、この人は“私の婚約者”で、【龍の末裔】の紋章に恵まれたカエデくん、だよ〜♡」


…………………………… ………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………


「「「はい!?!?!」」」


彼女の発言を聞いて一斉に叫んだ俺とルシアナ、そして龍王であった。

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