第6章
帰還
【シリカの視点】
【龍の大陸】──
と、そうこの土地の者たち《ドラゴン》に呼ばれているここは実はアルシア大陸の南部に位置している地域なのだ。
山岳地帯だから地質構造の大半は険しい山脈に支配されていることが一目瞭然だが、海も森も、ここにないわけではない。
ナマシ山を越えれば、およそ1ヶ月で辿り着けるはずだ。
ちなみに山の道を通れば2ヶ月で着くのだ。 現実的に考えれば、山上の厳しい環境を通り抜けられるのは、厚鱗で覆われている龍族や、寒さにめっぽう強い魔物や種族のみだ。 そのため、中腹にアルシア大陸の北部と南部を繋げる山道が作られた。
そしてそれをすることによって、貿易もできるようになった。 ここには、魔族が多く住んでいる。 エルフやドワーフ、ゴブリンの上位種であるオークやドラゴン。
至る所に、ありとあらゆる魔物が陸上に住んでいる。 しかし唯一山に住んでいる種族は、神の化身とよく言われている龍族なのだ。
炎、水、風、土。
世界の四大元素を自在に操れる力と相まって、固い鱗で覆われている丈夫な体の持ち主として、他の種族に敵視されているだけでなく、酷く恐れられているのだ。 そのため、ドラゴンは山の奥深くで暮らすことを好むのだ。 そしてそれは私も例外ではない。
◇
……強く、翼を羽ばたかさせながら【龍の王国】へと接近している。
よそ見をしたら遠くへと広がっている下の景色は相変わらず緑に覆われていたということが見えた。
目の前へと視線を戻すと、生まれた時から3000年に亘ってもうとっくに慣れてきた険しい山々は視界に入ってくる。
どこか懐かしい感じに襲われていた。
【龍の末裔】の紋章を持つ人を探すこと。
じいちゃんに頼まれて悔しい気持ちを抱きながら故郷を出た。
それは、流浪人生活の始まりだ。
と言っても、じいちゃんが私に【龍の末裔】が最も現れそうな2箇所を交互に見張っただけだ。
5年間探していたという事実に変わりはないが。
そして今となった。
正直に言って、私の帰還はどう受け入れられるかわからない。
緊張している。
と同時に、お父さんが(あんなこと)を忘れた期待感が強い。
もし忘れていたら、甲斐のある旅だと思い込むわ。
けど、私の父親は龍の王だ。
そう簡単に忘れたりしないだろう。
それにしても今私が感じているこの気持ちは偽りではなく本物。
追い詰められたと思っていた。
しかしあくまでそれは杞憂だった。
これなら、ワンチャンあるかもしれない。
と、そう本気で思っている。
背中に乗っている「彼」に視線を向ける。
あんたなら……。
◇
【楓の視点】
そして30分後
。 俺たちはやっと、【龍の王国】と呼ばれるところについた。
普段、人が立ち入らない山の裏側のようなところにたくさんのドラゴンが集まっていた。 遠目にもそれがわかった。
「すごい! ドラゴンさんいっぱい!」
アリスはそう、周囲のドラゴンを指さしながら嬉しそうに言う。
「確かにドラゴンが多いね……龍以外の私たちでもここにいても大丈夫かな」
そしてアリスと全く正反対な気持ちで訥々と言うルシアナ。
それにシリカは鼻を鳴らす。
「私の付き添いだから大丈夫だ」
そう聞くと、ルシアナはちょっと安心したそうに肩の緊張をほぐすが、キョロキョロしている視線を止めようとしていない。
しばらく飛び回ると、空きスペースを見つけてシリカは着陸。
俺たちも降りる。 やはりドラゴンの性別もぱっと見は区別がつかない。 こいつらも人の姿があるのかな。
と、そんなくだらないことを思うと、すぐ目の前から声が聞こえた。
「し……シリカお嬢様!?」
そう、大きな声で言うドラゴンの一体。 すると連鎖反応のように、
「今日も美しい翼をしてますわね、シリカさま」
「シリカ様? やっと帰ってきましたか?王様はとても心配しましたよ。これで安心できますね」
「シリカさま、相変わらず可愛いっすね!」
云々。 次から次へと俺たちの周りにドラゴンが集まり、シリカに話しかけた。 そう言えば、こいつはここの王様の娘だったな。 確かに普段は威厳あるオーラを纏っているが、正直に言ってあまり深くこいつの過去とか聞いていなかった。
ってか全然聞いていないけど。 俺たちが慣れてきたシリカはどっか遠くに消えていって、お姫様のシリカに取って代わった。 やはり俺たちとは住む世界が違うな。
「すごいね、シリカちゃんって。こんな大勢の前であんなにスラスラと平民の質問を答えたり、お世辞を何事もないように受けたりしてるなんて。私にはできないよ」
言ってきたのは、ルシアナだった。 妹のアリスからはぐれないようにギュッと彼女はアリスの小さな手を握っている。 アリスは一方で周りをキョロキョロしているけど。 好奇心満々だな。
「まあ確かに。俺たちとは住む世界が違うな」
ついさっき思ったことを口にするとルシアナはただ頷いただけ。 静かに、シリカを見つめながら、俺たちはそこに佇んでいた。 人混みが苦手だから、決して口を開くことはないだろ、俺。
ただただ、彼女の言動を観察しながら、ずっと見つめていた。 俺と、ルシアナだ。 幸いなことに、俺たちの存在に気づいた者は1人でもいなかった。
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