龍の大陸に到着

はっきりと見える山脈。

頂上付近は白く、雪が積もっている。


篝火を灯し、持ってきた肉を焼いて軽食をとる。

その後、俺たちは出発の準備を始めた。

篝火を消し、野営具を片付ける。

【想像顕現】で家は召喚しなかった。面倒だったからだ。


「これでよし、と。みんな準備できた?」


俺が聞くと、女の子たち三人は頷いた。

念のため、服には耐寒性の付与をかけた。

「加護」という名の魔法の効果もあって、比較的安全に山を越えられるだろう。


シリカは龍化し、俺たちを背中に乗せる。

その瞬間、俺は「加護」を使った。

強く翼を羽ばたかせ、離昇する。


そのままほぼ垂直に山を登りきる。

山の麓は森林が多く、登るにつれて徐々に減っていく。

頂上に至ると、シリカは空中で体を調整し、真っ直ぐになる。


【気配察知】で魔物の反応はあるが、すべて遠い。

近寄ってくる魔物はいない。


山の上を飛んでいくと、雪が舞い、薄っすらと雪も積もり始める。

幸いなことに、耐寒性の付与を受けた服装と、俺が使っている【加護】のおかげで寒さは感じない。


どんどん雪山の上を飛んでいくと、白いウルフが見えた。

スノーウルフだ。

白い毛皮に包まれた狼。

美しい毛皮だな。

そう思っていると、スノーウルフはこちらを見て逃げ去っていく。

ドラゴンがいるから、襲ってこないのも無理はない。

賢い子だ。


そのまま特に問題なく、山の上を順調に飛ぶと、徐々に雪は吹雪に変わる。

シリカの言う通りだ。

ここはいつも吹雪が吹き荒れていて、不都合だ。

収まる気配も見えない。

そのため、視界が悪い。

しかし、このまま飛び続けるしかない。


シリカは大丈夫だろうか。

と言っても、【龍の大陸】から【本土】に辿り着くためには、この吹雪を通り抜ける必要がある。

そう考えると、きっと大丈夫だろう。

そう思って、次にルシアナとアリスに視線をやる。

彼女たちも大丈夫そうだ。

間違いなく、俺と同じようにこの吹雪の中で何も見えないが、【加護】のおかげで目を細める必要はない。


この状況で、俺にできることはただ一つ。

それは【気配察知】で敵を見張りながら【加護】を維持することだ。


ここで見かけられる魔物は三種類いる。

雪狼(スノーウルフ)、雪男(イエティ)、そして氷の生霊(アイスレェィス)。

雪狼は、さっき見た白い毛皮に包まれた狼。

足も速く、反射神経も優れている。

敵と認識されると、容赦なく鋭い牙で攻撃してくる。

主に喉元を狙うが、敵を弱めるために腕や足を狙うこともある。

危険度は50パーセント。

普通の狼と比べると、遥かに高い。

雪男(イエティ)は毛むくじゃらの魔物だ。

見た目に反して比較的大人しく、こちらから攻撃を仕掛けなければ何もしない。

季節によって毛皮の色が変わる。

と、この間読んだ魔物図鑑に書かれていた。

季節が春または夏だと茶色、秋または冬だと白色だ。

そして氷の生霊(アイスレェィス)は透き通った、魔法でできた蛇のような生物だ。

雪狼のように主に鋭い牙を使って攻撃するが、雪狼とは違って敵を凍らす能力がある。


すべては降雪量の多い場所に生息している。

そのため、こうして吹雪が吹き荒れていると見づらい。

幸いなことに、俺は【気配察知】というスキルを持っている。

そのスキルを活かせば、俺の目から逃れられるものはいない。


【気配察知】を起動し、周囲を確認する。

近くに魔物の反応はない。

遠くにはあるが、襲ってくる気配はない。


やはりシリカを恐れているのだろう。

まあ、それもそうだ。

神に匹敵する力を持つと言われている生き物と対面するのは、俺ぐらいだからな。

好きでやっているわけではないが、妙なことに、勝負に挑まれて両方とも勝てた。

この力がなければ、森で遭遇したドラゴンに殺されていただろう。

きっと冒険者になったことも、ルシアナとアリスに出会ったことも、シリカに会って戦って仲間になったことも、全部この力のおかげだ。

……そしてこの力を与えてくれたのは、アリスだった。

本当に感謝する。


………と、そんなことを考えていると、吹雪が収まり、空に浮かぶ太陽が見えてきた。

どこか遠くへ流れている、ふわふわとした雲。

どこまでも続く透き通った青空。


そしてその下に広がる大地。


ドラゴンは山に住む生き物だと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。

どう考えても、今見ているこの光景は山ではない。

山々は遠くに見えるのだが。


「【龍の大陸】へようこそ。ここから【龍の王国】まではまだ遠いので、降ろすことはできないだろう」


翼の羽ばたきを止めることなく言うシリカ。

そんなシリカに、ひとつ聞きたいことがあった。


「ちなみに、【龍の王国】ってどこなの?」


聞くと、シリカは答えてくれた。


「あの山脈が見えるでしょ? あの上だ」


………………………だってさ。

……はい。前言撤回します。

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